薬局に処方箋を持って行くと、「薬が不足しているのですべての日数分そろえることができません」と言われた経験はありませんか?
今まではこんなことはなかったのに、最近不足していることが多いな。そう感じている方もいるかもしれません。
今回は医薬品安定供給の現状と、かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師をもつことの大切さを解説します。
医薬品の供給が不安定になっている原因
第70回で紹介したように、2020年12月以降ジェネリック医薬品の品質不正問題が相次いだことにより、国から製薬会社に対して業務改善命令処分や業務停止命令処分がなされ、連鎖反応のように医薬品の出荷調整や出荷停止が起こっています。
また、コロナ禍により、医薬品の元となる原薬確保の流通困難や、特有の疾患における処方集中なども医薬品供給不足に拍車をかけています。
日本製薬団体連合会が昨年末に実施した「医薬品供給状況にかかる調査」によると、すべての医薬品のうち3割近くの医薬品において何らかの供給不安があると報告されています。
これほどの供給不安は過去に例がなく、日本の医薬品供給網はかつてないほどに混乱しています。そしてこの状況は2020年以降少しずつ改善されるどころか、悪化しているように思います。

医薬品が遅れると治療が遅れるリスクが高まる
医薬品が不足する問題は、皆さんの健康に直結する問題です。明日飲む薬がないということは、明日から健康被害を受けるかもしれないということでもあります。
そうならないために、薬局は必要な医薬品を常時一定数備蓄するよう努力しています。在庫切れを起こさぬよう、ある程度余裕をもって医薬品卸売業者に発注をかけています。
医薬品卸売業者においても、発注を受けた商品をすぐに薬局に届けるよう、早ければ即日、または翌日の配達となるような対応努力をしてくれています。
ところが昨今は、医薬品卸売業者の支店在庫だけでなくセンター在庫でさえも空っぽになってしまうほど市場に出回らなくなった製品が増えてしまい、薬局が発注をかけてもいつ納品されるのかわからないような状況が続いています。
これに追い打ちをかけるように、医薬品卸売業者による土曜日配送の中止が相次いでいます。地域によっても差がありますが、私のいる千葉県では土曜日配送を中止した会社が増えています。
ところが土曜日に開局している病院、医院、薬局は多く、土曜日に医薬品の発注をかけることは少なくありません。
しかし薬局に薬が届くのは週明けのため、もし薬局に在庫がまったくないものだと患者さんを待たせることになってしまいます。その場合、治療開始が遅れてしまう可能性が出てきます。
かかりつけ薬局を持てば対策になる
医薬品卸売業者には頑張っていただきたいところですが、昨今の医薬品卸売業者の利益状況を考えるとやむを得ないことなのかもしれません。主要卸や各地の地場卸も近年は利益悪化の一途を辿っています。
コロナ禍で日常生活のあらゆる物価が高くなりましたが、医薬品は別です。原材料や包装材料、配送にかかるガソリン代が高くなったからといって、薬の価格を勝手に値上げすることはできません。
薬の価格は厚生労働省が決める公定価格に基づいているため、いくら現場が疲弊していようと勝手に値上げすることができないのです。そのため、コスト削減は企業努力にかかっており、その結果が土曜配送の中止につながっています。
薬を提供する側と使用する側のバランスが崩れてしまった今、この問題は一朝一夕に解決できることではありません。自分の薬を確実に確保できるような保証はないに等しいです。とはいえ、患者側が何も対策をできないわけではありません。
その対策が、かかりつけ薬局とかかりつけ薬剤師をもつことです。つまり、薬局の常連になるということです。
例えば、今回30日分の処方が出たら、次に処方されるのは約30日後。体調が安定している人であれば同じ薬が継続して処方されることを想定して、薬局は事前に発注をかけておくことができます。
たとえ発注後すぐに納品されない供給不安定な医薬品でも、余裕を持って発注をかけておくことで医薬品卸が在庫を確保した時点で入荷することができるため、薬が手に入る可能性は高くなります。
また、徐々に成分量を増量する必要のある認知症や高尿酸血症の薬や、用量の調節が必要な薬においても、かかりつけ薬剤師にご自身の体調を把握してもらうことで、次回の処方内容を薬剤師が予測して準備できるかもしれません。
事前に準備ができていれば、たとえ用量が変更されていても迅速に対応できるでしょう。
このように、自分の体調や治療内容をかかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師に把握してもらうことは、治療に必要な薬を自分のために確保してもらうことにつながります。

それ以外にも、薬の飲み合わせの確認や、副作用の早期発見など、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師をもつことには多くのメリットがあります。
まだかかりつけがない方は、通い慣れた薬局、相談しやすい薬剤師をご自身のかかりつけにされてはいかがでしょうか。