新型コロナウイルスの感染が拡大する中で、ウイルスに感染しているか否かの検査を希望する人も増加しました。このような国民のニーズに答えるため、厚生労働省は2021年9月に、薬局での検査キット(新型コロナウイルスの抗原検査キット)販売を許可しました。
ただ、新型コロナウイルスに感染している疑いがある場合、検査キットを購入するために薬局に行くことは、ウイルス感染の拡大につながる可能性があります。また、薬局が閉店している夜間や休日などは検査キットが購入できないなどの問題が残されたままでした。
自宅にいながら検査キットを入手できる体制の整備が議論されてきましたが、2022年8月17日に検査キットのインターネット販売が許可されました。
今回は、感染拡大が懸念される冬を前に、新型コロナウイルスの検査キットについて、インターネットで購入する際に気をつけるべきことや、特に高齢者・介護に関わる方に知っていただきたい、使用上の注意点について解説します。
抗原検査キットを購入する際の注意点
新型コロナウイルスの検査は、PCR検査と抗原検査キットを用いた抗原定性検査の2つに大きく分けることができます。PCR検査の精度は極めて高いのですが、検査をするためには専用の装置が必要となります。
一方で、抗原検査キットによる検査は、特別な検査装置が不要で、専門知識のない一般の方でも自分で検査できます。また、最近報告された研究によれば、抗原検査キットを用いた検査でも、適切な使用法を守れば、高い検査精度を期待することができます。
ただし、抗原検査キットには「研究用」と「医薬品(体外診断用医薬品)」の2種類があり、厚生労働省が承認した一般用の抗原検査キットは「医薬品」です。誤って「研究用」の検査キットを購入しないように注意してください。
「研究用」と「医薬品」を見分けるポイントは、検査キットのパッケージに「第1類医薬品」の記載があるかどうかです。研究用の検査キットには「第1類医薬品」の記載はありません。厚生労働省が一般用検査薬として承認した「医薬品」の抗原検査キットは以下の4種です。
- SARS-CoV-2ラピッド抗原テスト(一般用)【ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社】
- クリニテストCOVID-19 抗原迅速テスト(一般用)【シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社】
- HEALGEN COVID-19 抗原迅速テスト(一般用)【タカラバイオ株式会社】
- アンスペクトコーワ SARS-CoV-2(一般用)【株式会社医学生物学研究所】
- エスプライン SARS-CoV-2 N(一般用)【富士レビオ株式会社】
- Vトラスト SARS-CoV-2 Ag(一般用)【ニプロ株式会社】
- Panbio COVID-19 Antigen ラピッド テスト(一般用) 【アボット ダイアグノスティクス メディカル株式会社】
インターネットで検査キットを購入する際には必ず「第1類医薬品」と記載のあるものを選ぶか、上記の商品名でネットショップを検索するのがおすすめです。
なお、研究用の検査キットは検査性能が保証されていません。「セルフチェック可能」などの文言で、安価に販売されているケースも多いようですが、検査結果の精度が低い商品も多く、新型コロナウイルスの診断に用いることはできません。

どんなタイミングで抗原検査を行えばいい?
市販の抗原検査キットを無症状の方への使用することは推奨されません。
また、感染症の症状がある場合は、医療機関の受診が原則とされています。そのため、感染症の症状がない状況で検査キットを購入し、家庭などにおいて体調が気になる場合にセルフチェックとして用いることが一般的な使い方になります。
正確な検査結果を得るためには、検査を行うタイミングも重要です。新型コロナウイルスに対する抗原検査の精度を調査した研究によれば、症状がない状態で検査を行った場合、検査精度が大きく低下すると報告されています。
この研究では、抗原検査の精度に関する153件の調査データが分析され、新型コロナウイルス感染症を診断するのに十分な精度を有しているか、症状のある人とない人で精度が異なるかどうかなどが検討されました。研究結果の要点を以下にまとめます。
- 抗原検査によって新型コロナウイルス感染症が正しく判定されたのは、症状のある人で平均73%、症状のない人で平均55%でした
- 検査は症状が出てから1週間以内に行うのが最も正確でした
- 検査が陰性でも感染している可能性を否定することはできません
- 検査の精度は製造メーカーごとに異なりました
- 市販されている多くの検査キットについて、その検査精度に関する調査データは限られていました
市販の抗原検査キットは一般の方でも使用は簡単
新型コロナウイルスの抗原検査キットを使う際には、スワブと呼ばれる長い綿棒のようなものを鼻の中に入れ、検体(検査材料)となる粘液を採取(取り出す)することから始めます。
医療機関では、鼻の奥(喉に近い場所)までスワブを挿入して検体(鼻咽頭スワブ検体)を採取することが一般的でした。しかし、一般の方が自分で鼻の奥までスワブを入れることは困難です。
市販されている検査キットは、鼻の入り口1~2センチ付近の粘液(鼻腔スワブ検体)を採取して検査できます。これでしたら、高齢者や要介護者の方にも負担は少ないでしょう。ただし、せき込んだり、むせたりすると、もし感染していた場合には周囲に感染を広げてしまうリスクがあります。検査にあたっては、感染対策にも気をつけてください。
ちなみに、鼻の入り口付近の検体の信頼性に関しては、世界各国で調査・研究が行われています。主要なものを以下に紹介いたします。
まず、医療従事者を対象に、検体の採取方法と抗原検査の精度を比較した研究では、鼻の奥から採取した検体(鼻咽頭スワブ検体)と、鼻の入り口付近から採取した検体(鼻腔スワブ検体)で、検査結果の精度に違いはありませんでした。
また、米国の5ヵ所の診療施設で行われた研究でも、医療従事者が採取した鼻の奥の検体と、患者さんが自分で採取した鼻の入り口付近の検体で、検査結果の精度に違いは出ていません。
フランスで行われた抗原検査キットの使い勝手に関する研究では、調査の対象となった101人のうち、使用説明資料をわかりやすいと評価した人は99%、検査を適切な方法で実施できた人が98%、検査結果を間違いなく解釈できた人が98%でした。
さらに、米国で行われた研究では、子どもでも適切に検査キットを扱える可能性が報告されています。この研究では4~14歳の子供197人を対象としました。研究参加者に対して、抗原検査キットの使い方に関する説明を行った後、各自で検査を行ってもらったところ、医療従事者が行った場合と比べても検査結果に大きな違いはありませんでした。

「医薬品」の検査キットを購入し、適切なタイミングかつ適切な手順で検査を行えば、日常的に検査を行っていない一般の方でも、高い精度で新型コロナウイルスの検査を行うことができるようになってきました。
ただし、検査で陰性が出ても、新型コロナウイルスの感染を否定するものではないことに注意が必要です。特に、高齢者・要介護者の方は、仮にワクチン接種を済ませていても、相対的にリスクが高いのが現実です。症状がある場合や、仮に無症状でも濃厚接触の疑いがあったり、感染の不安がある方は、医療機関を受診して専門医の診断を受けるようにしてください。