手足のしびれは身近な健康問題の一つです。しびれの原因はさまざまですが、その多くは神経に生じた何らかの異常によるものです。
例えば、正座の状態から足を崩したときに感じるしびれは、正座をやめることで回復した足の血流が刺激となり、神経が過敏状態になるためだと考えられています。
また、手足のしびれは薬の副作用としてもたらされることもあります。そこで、しびれの原因となる末梢神経障がいや、しびれをもたらす薬の副作用について解説します。
糖尿病患者がなりやすい末梢神経障がい
神経は、体の外からもたらされる多様な刺激を知覚して、体内のさまざまな場所に情報を伝達したり、刺激に応じて内臓や筋肉の機能を調整する役割を担っています。
例えば、耳に入った音の情報を伝達する聴神経や、目に入った光の情報を伝達する視神経など、いわゆる五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)と呼ばれる感覚は、神経による情報の伝達と、その情報に対する体の反応によって認識されています。
神経は情報処理の中心的な役割を担う中枢神経と、体の隅々まで情報を伝達するためのネットワーク(電線のようなもの)である末梢神経に分けられます。
中枢神経は脳と脊髄から構成され、前者は頭蓋骨、後者は背骨(脊柱)という硬い骨によって守られています。一方で、中枢神経と体のさまざまな部位をつなぐ末梢神経は、頭蓋骨や背骨のような硬い骨に守られているわけではありません。
そのため、末梢神経はとても傷つきやすいのです。末梢神経が傷つくことによって生じるしびれや痛み、麻痺の感覚を「末梢神経障がい」と呼びます。
末梢神経障がいが起こりやすい人
末梢神経障がいを患う人は10万人当たり2,400人(2.4%)と言われており、この割合は年齢とともに増加し、高齢者では10万人あたり8,000人(8%)に達するといわれています。
末梢神経障がいは、一般的に男性に多く、その最大の原因は糖尿病です。糖尿病患者の6割以上の人が末梢神経障がいを患っているという研究結果も報告されています。
糖尿病以外の原因としては、飲酒、栄養不足、感染症、怪我(外傷)によるものなどが挙げられます。
お酒に含まれているアルコールは、体内で分解される過程でビタミンB1を消費するため、お酒を習慣的に飲まれる方はビタミンB1が不足しがちになります。
ビタミンB1が不足すると、手先や足先に麻痺が起きたり、しびれを感じることがあるのです。ちなみに、ビタミンB1の不足がもたらす手足の麻痺やしびれを脚気(かっけ)と呼びます。

末梢神経障がいをもたらす原因は30種類以上にも及ぶといわれていますが、薬が原因でもたらされる末梢神経障がい(薬剤性末梢神経障がい)も珍しくはありません。
例えば、がんの治療に用いられる抗がん剤、感染症の治療に用いられる抗菌薬のほか、心臓病の薬やパーキンソン病の薬でも末梢神経障がいの報告があります。
末梢神経障がいに注意が必要な薬
次に、病院から処方される機会が多く、末梢神経障がいの副作用に注意が必要な薬について解説します。
- 心臓病の薬
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末梢神経障がいの副作用が知られている心臓病の薬は、不整脈の治療に用いられるアミオダロンという薬と、コレステロール値を下げる目的で用いられるスタチン系と呼ばれる薬です。
アミオダロンによる末梢神経障がいは1,000人当たり年間で2.38件の頻度で起こると報告されており、服用する薬の量や期間が長いほど、そのリスクが高まるといわれています。
日本で使用されているスタチン系の薬には、アトルバスタチン、シンバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンがあります。
これらの薬を服用していると、ごくまれに手足の痛みや感覚の異常、力が入らないなどの症状が起こることがあります。これがスタチン系の薬による末梢神経障がいです。
ただし、スタチン系の薬による末梢神経障がいの発生頻度は低く、一般的には副作用のリスクよりも心臓病を予防するメリットの方が高いと考えられています。
- パーキンソン病の薬
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パーキンソン病の薬で末梢神経障がいを引き起こしやすいのはレボドパと呼ばれる薬です。その発生頻度は高く、レボドパを服用している患者さんの55%で末梢神経障がいを認めたという研究結果も報告されています。
レボドパが末梢神経障がいを引き起こす原因としては、神経の正常な機能を維持するために必要なビタミンB12の不足が関連していると考えられています。
- 感染症の薬
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結核菌の治療薬であるイソニアジドやエタンブトール、細菌感染症の治療薬であるリネゾリドやメトロニダゾール、真菌(みずむし菌)感染症の治療薬であるアゾール系と呼ばれる薬も末梢神経障がいを起こしやすいです。
アゾール系の薬は水虫の治療薬として広く用いられており、その中でもボリコナゾールやイトラコナゾールによる末梢神経障がいの報告があります。
さらに、末梢神経障がいの発生頻度が高く、英国で行われた研究によれば、イトラコナゾールを服用している患者の17%、ボリコナゾールを服用している9%で発症したと報告されています。
アゾール系の薬を長期間にわたって服用する場合は、同薬による末梢神経障がいに注意してください。
薬による末梢神経障がいの治療法
薬による末梢神経障がいの症状は、薬を中止することで改善しますが、神経細胞の部位によっては、症状が長引くこともあります。
特にシスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンといった抗がん剤は、神経細胞の細胞体と呼ばれる部位に障がいを起こすことが知られており、症状の回復はあまり良くありません。
抹消神経障がいに対する一般的な痛み止めの効果は小さく、その治療にはうつ病の治療薬や、てんかんの治療薬などが用いられます。近年では、末梢神経障がいに有効性を認めた新薬も登場し、治療の選択肢は広がっています。
とはいえ、薬の副作用による末梢神経障がいは、症状を悪化させないためにも、早期に発見し対応することが大切です。
末梢神経障がいを早期に発見するポイント
末梢神経障がいは、薬を飲んですぐに発症するケースと、長らく薬を飲み続けることで発症するケースがあります。
そのため、これまで副作用が出ていなかった薬でも、決して安全というわけではありません。特に薬の服用量が多い場合には、末梢神経障がいの危険性が高まります。
薬による末梢神経障がいは、手や足のしびれや痛みなどの異常感覚で始まることが多く、そのまま放置していると、症状は徐々に悪化します。
また、「筋肉に力が入らない」「手や足が動きにくい」といった麻痺症状のほか、ごくまれなケースではありますが、「物を飲み込みにくい」や「呼吸が苦しい」などの症状が起こることもあります。
抗がん剤はもちろん、心臓病の薬、感染症の薬、パーキンソン病の薬などを服用している方で、次のような症状を感じたら、かかりつけの医師や薬剤師にご相談ください。
- 手や足がピリピリとしびれる
- 手や足がジンジンと痛む
- 手や足の感覚がなくなる
- 手や足に力がはいらない
- 物がつかみづらい
- 歩行時につまずくことが多い
- 椅子から立ち上がれない
- 階段を昇れない
その際には、服用している薬の種類や用法用量、服用した期間などについて、医師や薬剤師にお知らせいただけると良いでしょう。
