近年、日本では急速にジェネリック医薬品が普及してきました。ジェネリック医薬品大国のアメリカでは9割以上をジェネリック医薬品が占めており、日本もそれに追いつく勢いです。
ところが、ここ数年、相次ぐジェネリック医薬品企業の不祥事により、製造中止や出荷停止などの行政処分が下され、一部のジェネリック医薬品が供給不足となっています。
そこで今回は、ジェネリック医薬品の供給が不安定になった背景を解説します。
ジェネリック医薬品とは
そもそも、ジェネリック医薬品は、後発医薬品とも呼ばれ、先発医薬品と同じ成分を使っており、品質・効き目・安全性が同等とされる医薬品を指します。
特許が切れた医薬品なので、開発費用を抑えて、安い値段で製造販売できるのが特徴です。医療費の削減のために国も推奨しています。
また、後から発売するというメリットを活かし、先発品よりも味や形を改良してつくられている製品もあります。
このジェネリック医薬品ですが、2021年12月の時点で、3,000品目以上の製品が供給不足となっています。みなさんの中にも薬局に薬をもらいに行ったら、「在庫がないのでお出しできません」と言われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
供給が不安定になったきっかけ
ジェネリック医薬品や供給不足となった、事の発端は2020年12月、小林化工が製造販売していた経口抗真菌剤のイトラコナゾール錠の一部のロットに、リルマザホン塩酸塩水和物という睡眠薬が混入してしまった事件がきっかけです。
イトラコナゾールは水虫の治療などで使われる薬です。睡眠薬の成分が混入したイトラコナゾールを服用した人たちに、意識がもうろうとしたり、自動車事故を起こしたり、死亡するなどの事例が相次ぎました。
厚労省はすぐに該当する製品の回収を実施しました。そして、小林化工には全国で過去最長の116日間の業務停止命令処分が下されました。
その後の調査によって小林化工の検査データの捏造や、ずさんな管理体制が浮き彫りとなりました。
これを皮切りに、ジェネリック医薬品企業の調査を実施したところ、2021年だけでも9つの製薬企業が業務改善命令や業務停止命令などの処分を受ける事態に至りました。この中にはテレビCMなどでもお馴染みの製薬会社も含まれています。
これらの製薬企業は一定期間、薬を製造できなくなったことから、市場に出回る薬の数が減ってしまったのです。また、一つの薬が製造中止になってしまうと、代替となる薬に需要が集中するため、代替薬も市場からなくなってしまうという負の連鎖が起きているのが、今の状態です。
薬局が発注をかけても医薬品卸からまったく納品されないという事態が毎日起こっています。医薬品卸にも在庫がないため、患者さんの手に届くはずもありません。

供給不安定の状況はしばらく続く
この状況がどのくらい続くのかという点が気になりますが、残念ながら数ヵ月から数年単位で続くことが予想されます。
単純に業務停止期間が過ぎれば業務が再開できるわけではなく、誤った工程を正し、管理体制を整えてから再開するため、どうしても時間がかかってしまいます。
私たちが口にしている薬はミリ単位の微量な成分で構成されています。食品を購入するときや、料理をするときにミリグラムの単位まで気にすることはほとんどありません。
しかし、医薬品はミリグラムを間違えただけで、人の命に関わる事故につながってしまいます。一錠がマイクログラム(1mgの1000分の1)の薬もあります。こんな微量でも体に作用してしまうのです。
だからこそ医薬品製造業の皆様には、人や動物の命に直接影響を与えるものを製造しているという自覚を持って業務にあたり、その責任を負う覚悟で仕事をしていただきたいと思います。多くの命を救う仕事は、一方で多くの命を奪うことにもなり得るということです。
患者さんは薬剤師から受け取った薬を信頼して飲んでくれます。病は気からと言いますが、信頼して飲むから十分な効果も得られるのだと思います。
私たち薬剤師は医師の処方内容を確認し、患者さんが安全に使用できるということに確信をもって薬をお渡ししています。
薬剤師を信頼して相談することが一番の対策
この先も医薬品供給不足は続くことが予想されるため、薬局や病院で、在庫が足りない事態に遭遇することもあると思います。
そんなときは、利用されている薬局の薬剤師を信頼して、薬剤師の判断に任せることが一番の対策だと思います。
私たち薬剤師は薬が不足しているとき、発注をかければすぐに手に入るものか、そうでないかを判断することができます。
すぐに手に入りそうもない場合、他のメーカーで同じ成分の薬を取り寄せます。他のメーカーで同じ成分の薬が販売されていなければ、医師に問い合わせて同じ効能効果をもつ異なる成分の薬に変更してもらう相談をしています。
今まで飲んでいた薬が市場になくても、健康維持に影響が出ないような、安全に配慮した提案をしています。
ジェネリック医薬品の供給不足により、途中で処方される薬が変更された場合の注意点をお伝えします。たとえ同じ成分の薬であっても、製薬会社が変われば添加物が異なることもあります。
添加物によってはアレルギー反応を示す方もいるので、変更初期の段階で発赤や、じんましんなどアレルギー反応が出た場合には、すぐに医師か薬剤師に相談しましょう。
また、薬の成分が変わった場合には、効果が強く現れたり、弱く現れたりすることがあります。血圧の薬を変更したら、血圧が下がり過ぎてしまったということもあり得るため、変更してからしばらくは体調変化に注意しましょう。もし今までと異なる症状があれば、医師、薬剤師に相談してください。
高齢者の方は少しの変化でも敏感に反応が出やすいので、特に注意しましょう。

今回はジェネリック医薬品の供給不安定についてお話しました。
多くの患者さんに不便な思いや、不安にさせてしまい申し訳なく思います。もうしばらく時間がかかることですので、この機会に信頼できる薬局や薬剤師をみつけて、薬のことや体調を相談してみましょう。きっと力になってくれるはずです。