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第61回

高血圧治療の常識が変わる?最新の医学研究から読み解く高齢者の血圧管理

最終更新日時 2021/12/15
#高齢者の健康
皆さん、こんにちは。薬剤師兼メディカルライターの青島周一です。健康のバロメーターとして馴染みの深い血圧ですが、血圧の値を正常に保つことが健康的であると考えられるようになったのは、この半世紀ほどの出来事です。今回は、高血圧研究の歴史から最新の研究についても解説し、高血圧治療の目標値が定められた経緯をご紹介いたします。

皆さん、こんにちは。薬剤師兼メディカルライターの青島周一です。

現代では健康のバロメーターとして馴染み深い血圧ですが、その値を正常に保つことが健康的であると考えられるようになったのは、この半世紀ほどの出来事です。かつては、高血圧が必ずしも病気とはみなされていませんでした。

今回は、高血圧研究の歴史を振り返りながら、現在の研究について解説していきます。

高血圧治療の礎を気づいたフラミンガム心臓研究

血圧とは心臓から送り出された血流が、血管の内壁を押す圧力のことで、mmHgという単位で表されます。Hgは水銀を意味する記号で、血圧が150mmHgであれば「水銀を150mm押し上げる力」が血管の内壁にかかっていることになります。

血圧は年齢によって変化し、一般的に加齢とともに上昇します。日本高血圧学会では、下記のように正常血圧と高血圧を定義しています。なお、収縮期血圧は「最高血圧」、拡張期血圧は「最低血圧」のことです。

  • 正常血圧:収縮期血圧 120mmHg未満、かつ拡張期血圧 80mmHg未満
  • 高血圧:収縮期血圧 140mmHg以上、または拡張期血圧 90mmHg以上

高血圧による健康への影響に関心が集まったきっかけは、米国の第32代大統領であったフランクリン・ルーズベルトの急死でした。終戦間近の1945年4月12日、突如として脳卒中を発症したルーズベルト大統領は、そのまま帰らぬ人となり63歳の生涯を終えました。このとき、彼の血圧は収縮期血圧が300mmHg、拡張期血圧が190mmHgと、正常と呼ばれる血圧値の2倍以上であったことが報告されています。

ルーズベルトの死後、米国では国家プロジェクトとして、心臓病研究が次々と開始されます。その中でも、高血圧と脳卒中や心臓病の関連性を明らかにしたのが、フラミンガム心臓研究(Framingham Heart Study)でした。

この研究は、米国マサチューセッツ州のフラミンガムという街に在住していた28~62歳の5,209人を対象に、1948年から開始された大規模疫学調査です。一連の追跡データから、血圧が高い人ほど、脳卒中や心臓病の発症リスクが増加することがわかりました。

SPRINT研究に至る道のり

フラミンガム心臓研究によって、高血圧と脳卒中や心臓病の関連性が明らかとなる一方、血圧を下げることで心臓病や脳卒中が予防できるのかについては、医学界の中でも意見が分かれていたそうです。

血圧を下げる治療の有効性を検証した最初の研究は、1967年に報告された「VAⅠ(VA Cooperative Study phase 1 )」です。この研究は、被験者を募集して、血圧を下げるグループと、血圧を下げないグループにランダムに振り分け、その後の健康状態の比較する実験的な研究でした。

このように、有効性を調べたい医療行為を行う群と、行わない群にランダムに被験者を振り分けて追跡調査を行う研究手法をランダム化比較試験と呼びます。

「VAⅠ」では、拡張期血圧が115~129mmHgの米国退役軍人143人が対象となり、血圧の薬を投与する群と、プラセボ(薬剤成分の入っていない偽薬)を投与する群にランダムに振り分け、1年半にわたる追跡調査が行われました。その結果、死亡した人は、血圧の薬を投与した群で0人だったのに対して、プラセボを投与した群は4人でした。さらに、プラセボを投与した群では脳出血や心筋梗塞を発症した人も多いことがわかりました。

この「VAⅠ」以降、多くのランダム化比較試験が行われ、高血圧治療のメリットがわかってきました。今回、ご紹介する「SPRINT(Systolic Blood Pressure Intervention Trial)研究」も、高血圧治療の有効性を検証したランダム化比較試験の一つで、2015年11月に、世界的にも有名な医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載されました。

血圧を正常に保つことが健康に良いと証明されるまでの経緯

SPRINT研究が明らかにしたこと

高血圧治療のメリットは、複数のランダム化比較試験で明らかとなっていましたが、血圧をどれほど下げれば良いのか、その目標値については未解決でした。そのような中で報告されたSPRINT研究は、糖尿病を発症していない高血圧患者さんの治療目標値を明らかにするために、米国で行われたランダム化比較試験です。

この研究では、収縮期血圧が130mmHg以上で、心臓病のリスクが高いものの糖尿病ではない9,361人が対象となりました。被験者は、収縮期血圧で120mmHg未満を目標値とする強化治療群と、140mmHg未満を目標値とする標準治療群にランダムに振り分けられ、心臓病や脳卒中の発症リスクが比較されました。その結果、標準治療群と比べて強化治療群で心臓病や脳卒中の発症率が25%低下したのです。

日本高血圧学会は、2019年に公開した「高血圧治療ガイドライン2019」で、高血圧症の治療目標を収縮期血圧130mmHg、拡張期血圧80mmHgとしています。この目標値は、過去に報告されているランダム化比較試験データの統合解析値を参考にして設定されていますが、SPRINT研究の結果が与えた影響は極めて大きいものでした。

高齢者の高血圧治療と「STEP研究」という新たな兆し

SPRINT研究の結果が報告されて以降、高血圧症においては血圧をなるべく下げたほうが良いという認識が強まります。

一方で、75歳以上の後期高齢者においては、目標とすべき血圧の値に関するデータが不足しており、血圧を下げる治療に十分なメリットがあるのかについても、医学界で意見が分かれていました。後期高齢者では血圧を下げて脳卒中や心臓病を予防できたとしても、肺炎など他の病気によって亡くなってしまう可能性も高まるからです。

日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン2019」でも、75歳以上の高血圧患者さんに対する治療目標値は、副作用の恐れがなければ収縮期血圧140mmHg未満とされており、一般的な推奨値である130mmHgよりも高めに設定されています。

そのような中、高齢の高血圧患者さんを対象に、血圧コントロールの強化治療と標準治療を比較したランダム化比較試験の結果が2021年8月に報告されました。「STEP(Strategy of Blood Pressure Intervention in the Elderly Hypertensive Patients)」と名付けられたこの研究では、中国に在住している60~80歳の高血圧患者8,511人が対象となっています。被験者は、収縮期血圧を110~130mmHg未満を目標値とする強化治療群と、130~150mmHg未満を目標値とする標準治療群にランダム化に振り分けられ、脳卒中や心臓病の発症が比較されました。その結果、脳卒中や心臓病の発症率は標準治療群と比べて、強化治療群で26%低下しました。

STEP研究では高齢者においても、しっかり血圧を下げたほうが良い可能性が示されています。しかし高齢者といっても、その健康状態はさまざまです。同じ年齢であったとしても、要介護状態の高齢者と、生活が自立している高齢者では、身体状態がかなり異なることでしょう。

そして、高齢者では身体状態の違いによって、高血圧治療の結果が異なる可能性に注意しなくてはなりません。いわゆるフレイルのような身体状態が虚弱な高齢者では、「収縮期血圧が低いと、死亡リスクの増加に関連する」という研究が報告されているためです。

上の血圧が低いと、死亡リスクが増加することも

高齢者に対する高血圧治療で留意しておくべきは、「高血圧治療の目標値を検討したランダム化比較試験の多くは、心臓病リスクの低い若年層や、数多くの病気を治療中の高齢者を対象としたものではない」ということかもしれません。

加齢とともに亡くなってしまう原因(死因)は多様化し、後期高齢者では高血圧だけを積極的に治療しなければならない理由は少なくなります。単に「血圧を下げれば良い」ということではなく、人それぞれの心身状態に合わせた治療に配慮すべきでしょう。

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