こんにちは。メディスンショップ蘇我薬局・管理薬剤師で、訪問薬剤師をしている雜賀匡史です。
薬の知識ってなかなか勉強する機会は少ないですよね?
介護の教科書「介護✕薬剤師」では、老人ホームに勤務されている方はもちろんですが、介護者のみなさんにもわかりやすく薬の知識をお伝えしていきます。
今回は、「服薬に関するNG行為」をご紹介していきます。Q&A方式でまとめてみました。意外とみなさんにもありがちな内容ですので、ぜひこの機会に薬の知識を身につけて、大事なご家族を守ってあげてください。
Q.大きな錠剤は潰して飲んでるけど大丈夫? A.NGです。大きのには理由があります!
在宅訪問をしていると、「服用を間違ってしている」「正しい飲み方を理解していない」という方がちらほらいるのが現状です。そういう方たちがどのように服薬しているかを知るには、自分の目で服薬の確認をし、正しい飲み方を教えてあげるのが薬剤師の仕事でもあります。
ある老々介護の夫婦宅を訪問したときのことです。
佐藤さんは要介護3で、狭心症とアルツハイマー型認知症を患っていました。佐藤さんの薬を準備される妻、居間に座って妻を待つ佐藤さん。薬は1日1回2種類処方されており、狭心症の薬と認知症の薬を服用しています。
どちらも錠剤で、飲みやすいように一包化してお渡ししていました。目の前で準備する妻が、コップと一包化の薬をテーブルに用意し、おもむろにスプーンを取り出しました。次の瞬間、一包化の袋の上からスプーンの腹を使って錠剤を潰し始めたのです。
「えっ!ちょっと待ってください!錠剤潰してから飲んでいるのですか!?」「だって大きすぎて、飲み込むのに時間がかかっちゃうでしょ?いつもこうしてスプーンで潰してから飲ませていますよ」。
実は、その佐藤さんが飲んでいた狭心症の薬は徐放錠という製剤で、潰しや粉砕をして服薬してはいけないものでした。徐放錠とは、投与回数や副作用の低減を図る目的で、有効成分の放出速度、放出時間、放出部位などが調整された製剤です。
つまり、佐藤さんの狭心症発作がいつ起こるか予測不能なため、24時間かけて薬が効き続けるように工夫された薬剤でした。
この薬剤を潰すとどうなるか?せっかく少しずつ成分が放出されるように工夫された製剤が壊れてしまい一気に成分が放出。短時間で血中薬物濃度が高濃度になるため、副作用発現の確率が高まるとともに、狭心症発作を24時間かけて防ぐことが困難になります。
幸い、佐藤さんは早い段階で気づくことができたため、健康被害もなく無事でしたが、正しい知識を知らずに薬を潰す行為を続けていたら大変なことになっていたかもしれません。
徐放錠は薬の名前の語尾にLやCRなどの英語文字がついているものに多いですが、中にはこのような目印となる英語文字が付いていない薬剤も存在します。
また、錠剤同様にカプセル剤でも徐放カプセルというものが存在し、勝手にカプセルを開けて服薬することは絶対にしてはいけません。
もし、この佐藤さんのように錠剤が大きすぎて飲み込めないような場合には、薬をもらっている薬局で薬剤師に相談してください。粉砕可能であれば粉砕してお渡しすることもできますし、粉砕不可な薬剤であれば医師と協議して飲みやすい形の薬剤へ変更することもできます。
勝手に自分で判断して薬を加工することは非常に危険な行為及ぶので、決して行わないようにしましょう。
Q.薬を自分の判断で減らして良い? A.NGです。自己判断は止めましょう!
要介護1の加藤さんの話です。介護されている娘さんから「薬がたくさん余っているから一度見てほしい」との相談でした。
身の回りのことのほとんどは加藤さんご自身で行うことができ、服薬に関しても加藤さんがご自身で管理しているとのことですが、薬がたくさん余っているようです。
娘さんが薬の管理をしようとしても、「自分でできるから大丈夫」と薬を渡さないとのことでした。高血圧症、脂質異常症、骨粗鬆症、心不全、腰痛症、便秘症など、多くの疾患を抱え、処方薬数8種類を服薬しています。
訪問してどのように管理しているか、おばあさんに残っている薬を持ってきてもらいました。残薬を確認すると、それぞれ残っている薬の数が異なっています。
「この薬だけ他の薬よりも沢山残っていますね?けれど、血圧の薬は一番数が少ないです。どうしてこうなっているか、ご自身で理由はわかりますか?」「この薬は説明書にビタミン剤って書いてあるから、栄養は十分に摂れているし必要ないと思って。血圧の薬は高いときに2錠飲んでいるからかな」。この加藤さんがビタミン剤と言っているのは、骨粗鬆症の薬でした。骨が破壊される骨吸収を抑え、小腸のカルシウム吸収を助ける活性型ビタミンD3という薬剤です。
確かにビタミン剤には変わりはありませんが、食事から摂取したビタミンDはそのままの形では骨形成に作用しません。活性型ビタミンD3製剤は、骨の形成に働くように加工された薬剤で、骨粗鬆症に使用される大事な薬剤です。血圧の薬に関してもいつもより高めのときに2回分を服薬しているとのことでした。
複数回分をまとめて服薬するという行為は、副作用発現につながる非常に危険な行為です。この加藤さんのように、自己判断で必要な薬と不必要な薬を飲み分けているような方は実際に少なくありません。
介護されている方に注意深く観察していただきたいのは、極端に余っている薬や極端に少ない薬がないかどうかです。
このような場合はもしかしたら自己判断で調節されているかもしれません。自己判断をする理由はさまざま。自分で解決しようとせず、困ったときは薬剤師に相談してみましょう。
Q.よく青汁を飲んでいます。問題ない? A.服用する薬によっては危険です。確認を!
要介護2の高橋さんの健康を心配して、隣町に住んでいる息子さんから定期的に青汁が送られてくるとの話を聞きました。
健康に気を遣い、サプリメントのような栄養補助食品や健康補助食品などを日常的に摂取されている方も多いでしょう。医薬品ではないので使いやすい、との意見も多いサプリメントですが、使い方を間違えると重大な事故につながる恐れがあります。
この高橋さんは心筋梗塞の既往があり、長年にわたり血液をサラサラにするワルファリンという薬を服薬していました。
このワルファリンはビタミンKの含まれる薬やサプリメントは食物との相性が悪く、一緒に摂取すると効果が減弱してしまうことが知られています。
高橋さんの健康を気遣って青汁を送ってきた息子さんですが、この青汁にはビタミンKが豊富に含まれており、ワルファリンを服薬している人には禁止の食物になります。ワルファリン以外にもサプリメントや食物に相性が悪い薬剤がいくつか存在します。
薬局で薬をもらう際に相性の悪いものを説明してもらえると思いますが、その説明を聞いていないご家族や介護者が知らずに提供してしまうことも考えられます。
今一度、使用している薬の情報を確認してみましょう。サプリメントなどを購入する際にも薬剤師にお薬手帳を見せて併用の確認をしてもらった上で使用してください。
薬の使用は正しい知識と理解を!
ここまで「薬の加工について」「自己判断の服薬について」「サプリメントの使用について」、実例をもとに紹介してきましたが、この他にも服薬で気を付けるべきことは沢山あります。
要介護者にとって、服薬介助してくださる介護者の皆さんは、信頼して命を預けるかけがえのない存在です。大切な家族を守ってあげるためにも、薬を正しく使用できるようにしたいですね。
薬の種類は多数あり、自分ですべてを把握しようとすると、思い悩んでしまいがちです。相談できる薬剤師を一日でも早く見つけて一緒に支えてもらえると、良い関係が築くことができ、また薬との付き合い方がまったく新しい観点で見えてくると思います。
次回は、意外と知らない「漢方薬」についてお話しします。お楽しみに!