こんにちは。薬剤師の雜賀匡史です。
昨年は多くの方に記事を読んでいただくことができ、大変感謝しております。
本年も皆さまのお役に立てるような記事を書いていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
年末年始はいかがお過ごしでしたか?
しっかり休みを取れたという方も、なかなか休みが取れずに介護や仕事に追われていたという方もいらっしゃると思います。
なかには「すっかり寝正月だった」という方もいるでしょうが、お正月や長期連休のように日常と異なった日を過ごしていると、つい忘れてしまうのが服薬です。
日頃は忘れないのに、休日になると服薬を忘れてしまう人も多いのではないでしょうか。
皆さんはこのような理由で余ってしまった薬について、どのように対応していますか?
今回は、余った薬の賢い使い方をご紹介いたします。
薬が余った場合は正直に伝えましょう
「薬が余っているなんて言ったら、怒られてしまうかな?」
こう考えて、残薬を医師に正直に伝えない患者さまは少なくありません。
しかし、これは薬代の無駄であると同時に、とても危険な行為なのです。
医師は患者の体調に合わせて処方内容を考えています。
薬の効果が得られていると判断すれば、同じ薬の継続や減量などの対応が一般的です。
一方で、処方した薬で十分な効果が得られていないと判断すれば、種類の変更や用量の増量などを検討するでしょう。
期待する効果が得られていない理由が薬そのものにあるのであれば、変更や増量も良いでしょう。
しかし、本当の理由が「薬を飲まなかった」にある場合、変更や増量が予想もつかない副作用を招きかねません。
このような理由から、医師には正直に服薬状況を伝える必要があります。
「わかっていても、気まずくて医師には伝えられない」という人は、かかりつけの薬剤師に伝えてみましょう。
医師との間を上手につなぐ手助けをしてもらえるでしょう。
余った薬を返品してもお金は返ってこない
「まだ封を開けていない薬を、薬局に返品したらお金が返ってくるかな?」
そう疑問に思ったことがある人もいらっしゃるでしょう。
結論から申しますと、残念ながら薬を返品してもお金は返ってきません。
「療養の給付」と呼ばれる健康保険法での決まりごとがあり、日本全国どこの薬局でも同じ対応になっています。
また、法律以外の理由もあります。
薬の有効成分の安定性を保つために、保管時の環境(光、温度、湿度など)には十分な注意を払う必要があります。
例えば、薬局が医薬品卸(※)に冷所保存の薬を発注した時の流れをご紹介します。
※医薬品卸…医薬品を仕入れて、医療機関に提供・販売する業者のこと
発注を受けた医薬品卸は、冷蔵薬貯蔵庫から薬を取り出し、保冷バッグに梱包(こんぽう)します。
これは、輸送中の温度上昇を防ぐためです。
検品までは保冷バッグに入れたままの状態です。
医薬品卸から薬を受け取った薬局は、直ちに薬局内の冷蔵庫に保管し、患者さまの手にわたる直前まで冷蔵庫から取り出しません。
ほかにも遮光が必要な薬であれば、光の当たらない保管庫内で管理しますし、調剤室内の温度・湿度管理には日頃から十分に気を配っています。
このように、医薬品ごとに決められた保管方法で正しく管理された状態の薬だけが、患者さまの手に渡るようになっています。
ところが一度患者さまにお渡しした薬については、家でどのように管理されていたかをすべて確認できないため、返品されても薬局としては廃棄処分するしかありません。
例えば、一度溶けたアイスクリームを再度冷凍すると、食感や風味が変化して別物になることをイメージしてみてください。
一見医師が処方する薬と同じでも、品質の保証ができない一度調剤された薬を、ほかの患者さまに使用することはできないのです。
ここでのポイントは、あくまでも“ほかの患者さまに”使用できないという点。
しかし、“自分で使用する場合”に限り、飲み忘れた薬を使用できるケースがあるのです。
医師や薬剤師に伝えて、薬を節約できたケースを紹介
飲み忘れを医師に伝えて薬を節約できたケース
正直者のAさんは30日ごとに受診し、糖尿病治療薬を1日1錠30日分、合計30錠処方されています。
たまたま今月は5日間飲み忘れてしまいました。
正直者のAさんは、医師に5日分飲めなかったことを正直に伝えました。
医師からは「以後気を付けてくださいね。今回は25日分で処方しておきましょう」と言われ、5錠分のお金を無駄にせずに済みました。
医師には伝えられなかったが、薬剤師に伝えて薬を節約できたケース
心配性のBさんは30日ごとに受診し、糖尿病治療薬を1日1錠30日分、合計30錠処方されています。
たまたま今月は5日間飲み忘れてしまいました。
しかし心配性のBさんは医師に正直に伝えることができなかったため、今回も30日分で処方されてしまいました。
次の受診は30日後なので、このペースでいくと永遠に5錠余ったままになってしまいます。
そう考えたBさんは薬局で、5錠余っている旨を相談しました。
すると薬剤師は、30日分処方ではなく25日分処方になるよう、医師に処方変更の問い合わせをしてくれました。
医師から日数変更の了解が得られ、Bさんは5日分のお金を無駄にせずに済みました。
最後に一言
このように未使用の薬を再利用すれば、薬やお金の無駄を減らすことにつながります。
薬には使用期限があるので、残薬が出た際はできるだけ早い段階で医師、薬剤師に伝えましょう。
あまりにも古い薬は再利用できませんので注意してください。
また、相談の際は余った薬を袋のまま持参し、一緒に確認してもらうことをおすすめします。
期限の確認や数え間違い防止ができて安心ですね。
最も良いのは飲み忘れをしないことですが、誰にでも起こり得ることですので、心配せずに相談してみましょう。