こんにちは。メディスンショップ蘇我薬局・管理薬剤師で、訪問薬剤師をしている雜賀匡史です。
今回のテーマは、「薬の服用時間」についてです。薬局の日常業務で、患者様や介護者から受ける問い合わせとして、「決められた服用時間に薬を飲むことができなかったので対応を教えてほしい」というご質問があります。
薬局で薬をもらうとき、薬の服用時間の説明を受けると思います。この服用時間は医師や薬剤師が適当に決めているのではなく、最初から薬ごとに決まっています。薬の服用時間は薬の吸収や効果に大きな影響を及ぼすことがあるため、正しく理解しておきましょう。
一般的に決まっている服用時間
- 食前
- 食事をする30分前~1時間前(胃の中に食べ物が入っていないとき)
- 食直前
- 食事の5分前(いただきます。と箸を持つすぐ前)
- 食直後
- 食事を終えて5分以内(ごちそうさま。と箸を置いたすぐ後)
- 食後
- 食事を終えてから30分以内(胃の中に食べ物が入っているとき)
- 食間
- 食事を終えてから2時間後(胃の中に食べ物が入っておらず、次の食事まで時間が空いているとき)※食間は、食事中のことではないので注意
- 就寝前
- 就寝する30分くらい前
- 頓服
- 発作時や症状のひどいとき
服用時間はどのように決まっているの?

製薬会社が新しく薬を開発するとき、動物や人などを使った研究データを分析することで、最も効果が得られやすく、かつ副作用の心配が少ない服用時間や服用回数を選出しています。これら薬ごとに決められた服用時間・服用回数を原則として、医師が処方しています。 有効成分の持つ特性や創薬技術の進歩により、時間帯に縛られずに服用できる薬も存在しますが、多くの薬には決められた用法が存在しています。
注意が必要な薬について

目の前に美味しそうな料理と薬が置いてあったら、多くの人は料理の方に先に手が出るでしょう。食後の薬と比較すると食前の薬は、飲み忘れやすいのが特徴です。また、薬の服用時間で最も多いのは食後の服用です。食後に服用することは、飲み忘れを防ぐだけでなく、胃への負担を軽減し胃腸障害を予防します。しかし、あえて食事の前に服用する薬もあります。
たとえば、糖尿病治療薬のアカルボースやボグリボースは、食事に含まれる糖分の消化吸収を遅らせることで血糖値の上昇を抑える作用を持ち、食べ物よりも先に薬が消化管内に入っている必要があるため、食直前の服用となっています。食事中に飲み忘れに気づいたら、すぐに服用してください。もし食後に気づいた場合、食後の服用では効果が期待できないため、その回の服用は避けて次の食事の前に1回分服用しましょう。
漢方薬も食前または食間(空腹時)が多い服用時間です。じつは、漢方薬の服用時間については食前・食間を推奨する文献もあれば、食後でも問題ないとする文献も存在しており、賛否が分かれている分野です。食前・食間を推奨する意見としては、「漢方薬の独特な苦みやにおいが、効能効果に関係する」「空腹時は吸収が良く、作用が穏やかな漢方薬には適している」「腸内細菌で代謝され吸収される成分が、空腹時に服用することで恩恵を受けやすい」などが言われています。
一方で、漢方薬すべてに上記のような特徴がないことから、食前・食間投与については科学的な根拠に乏しいという指摘もあります。第7回の記事で漢方薬についてご紹介しましたが、漢方薬は実に奥が深いので、現代科学では解明できていないことが多いのです。漢方薬の承認時(1964年)には、すでに食前・食間の飲み方が主流になっていたことから、製薬会社の添付文書(使用上の注意が記載されている能書)には、食前・食間の服用と記載されています。これらの理由から漢方薬は食前・食間に服用することが基本ですが、もし飲み忘れてしまった場合には、食後の服用でも大きな問題はないので服用しましょう。
他にも、ビスホスホネート製剤に分類される骨粗しょう症の薬は、起床時に服用します。この薬はもともと非常に吸収されにくい薬であることに加え、少しの食べ物や他の薬によっても吸収が妨げられてしまいます。もし飲み忘れに気づいたら、その日は飲むのを止めて次の日に1回分を飲みましょう。
食直後(食事を終えて5分以内)の服用が決められているEPA製剤(EPA製剤イコサペント酸エチルカプセル)は、高脂血症などに使われる薬です。この薬はイコサペント酸エチルという脂肪酸が主成分であり、吸収には胆汁酸が必要です。胆汁酸は食後すぐに最も分泌されるため、EPA製剤は食直後の服用となっています。また、空腹時では吸収が非常に悪い成分でもあることから、飲み忘れた場合にはその回の服用は避け、次の食後すぐに1回分服用するよう説明されています。
このように、薬の種類によって服用時間が異なるだけでなく、飲み忘れたときにすぐ飲んだ方が良いものもあれば、飲んでも効果が期待できないため、1回分とばした方が良いものもあり、ご自身で判断することは非常に難しいことだと思います。一般的には気づいたときにすぐ飲むよう推奨されていますが、一番確実で安心なのは、薬をもらった薬局に問い合わせ、個々の薬ごとに具体的なアドバイスをもらうことですね。
薬剤師の仕事は薬を渡すことで終わりではなく、皆さんが安全に正しく服用できるところまでフォローしています。いろんな場面で薬局を利用してくださいね。