皆さん、こんにちは。ふかつ歯科の摂食機能療法専門歯科医、深津ひかりです。
前回は、認知症のタイプ別に嚥下の特徴についてお話ししました。
今回は、認知症の進行に伴う嚥下機能の変化について、終末期に焦点を当てて説明します。
「認知症初期」認知症の各タイプごとに症状が異なる
認知症初期の段階では、各認知症のタイプごとに、特徴が大きく出ます。
アルツハイマー型認知症は、記憶障がい(時間や場所、人の認識が困難に状態)や見当識障がい(頭で考えたことを実行に移すことができない状態)、実行機能障がいなどにより、食べたことを忘れる、食器の使い方がわからない、などの症状が特徴です。
レビー小体型認知症は、認知機能の日内変動が「食べむら」の原因になったり、パーキンソン症状が出てきた症例では、食べ物を口に取り込みにくくなるケースが報告されています。
「認知症中期」すべての認知症において「失行」や「失認」を発症
認知症中期には、脳の萎縮が進行するので、すべての認知症において「失行」や「失認」といった症状が出てきます。
嚥下に関しては、少しずつ食事介助が必要となってくる段階です。
【認知症中期の症状】
- 食事が始められない
- 途中で中断する
- ペースが速い
- 手を使って食べる
はじめは食器を持って食事をしたり、声かけや集中できるような環境を整えるなどの介助によって、自食が続けられます。
食べこぼしが増えたり、自食が困難になった場合には、介助者が食べ物を口に入れるなどの直接的な介助が必要となります。
また、誤嚥も時折みられるようになってきます。
「認知症末期」脳の萎縮が重度になって嚥下機能が障がいされる
認知症末期になると、脳の萎縮が重度になり、嚥下機能自体が障がいされます。
【認知症末期の症状】
- 食塊形成(しょっかいけいせい)の障がい
- 送り込み不良
- 誤嚥
- 窒息
この頃になると、生活リズムの乱れや、意識レベルの低下、傾眠傾向といった症状も出現し、それらが食事摂取量に影響することがあります。
さらに進むと経口摂取量が極端に少なくなる症例もあり、その場合には終末期の対応が必要となります。
【終末期の特徴】
- 誤嚥のリスクが高い
- 本人の意思決定の確認が困難
- 終末期の経過が長い
これらのことから、誤嚥性肺炎のリスクが高いうえに、「本人が経口摂取を希望しているのかわからない」など、さまざまな不安要素が絡み合うため、経口摂取を継続するか否か、判断に迷うことが多々あります。
経口摂取継続のメリット
一方で、経口摂取を継続することには、メリットもあります。
まず、「口腔・咽頭ケア」としての経口摂取です。
まったく経口摂取をしなくなると、口腔や咽頭を唾液以外のものが通らなくなり、口や咽頭の動きも少なくなることから、痰や剥離した粘膜上皮が固まって不潔になることがあります。
少量でも経口摂取を行うことで、口腔や咽頭がきれいになり、口腔ケアも効率よくできるようになります。
次に、QOLの維持のための経口摂取です。
「一口も食べられない」場合と「一口食べられる」とでは、量の差はあまりありませんが、患者や家族の気持ちとしては、大きな違いがあると思います。
さらに、コミュニケーションとしての経口摂取です。
家族にとって、「食べ物を口から食べてもらえる」ということは、安心感から気持ちが満たされるものです。
認知症が進行して、会話ができなくなり、自発的な動作が少なくなった患者さんでも、家族が患者の「口に食べ物を入れる」行為に対して、患者は「口を動かして飲み込む」という行為で応えることができます。
このやりとりは、最期まで続く双方向のコミュニケーションとなります。
認知症末期の経口摂取は、それなりの覚悟が必要ですが、少量でも経口摂取を続けることは、何事にも変えがたい思い出になります。
もし患者や家族がそれを望むのであれば、我々歯科医師は、実現すべくできるかぎりの支援をしていく必要があるでしょう。
そのためには、今後も正しい知識と技術を習得し、患者や家族と一緒に悩み、寄り添っていくことが大切ですね。