みなさん、はじめまして。ふかつ歯科で摂食機能療法専門歯科医として勤務している深津ひかりです。
大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室 准教授の野原幹司先生監修のもと、口腔ケアや摂食・嚥下(えんげ)などについて解説していきます。
今回のテーマは、高齢者の増加にともなって、多くの方が悩みを抱えている“ドライマウス”です。
ドライマウスの患者さんは、潜在的な方も含めて推定3000万人とされており、単純に計算すると日本人の4人に1人が何らかの症状を抱えていると言えます。
とはいえ、何を確認すればドライマウスだとわかるのか、ドライマウスにどんなリスクがあるのかは少し想像がしづらいかもしれませんね。
そこで今回はドライマウスの原因やリスク、治療についてお話します。口腔ケアの介護などに役立ててくださいね。
(監修)野原 幹司
大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能治療学教室 准教授。NPO法人「摂食介護支援プロジェクト」理事。一般社団法人「日本在宅薬学会」理事。ドライマウスのリスク
ドライマウス自体は病名ではありません。
唾液が出にくい、口が乾いている、と自覚する症状のことをドライマウスと言います。
唾液には、口の中の粘膜を保護する作用、抗菌する作用、食塊形成作用(食物を飲み込みすい形にする作用)など、さまざまな働きがあります。
そのため、ドライマウスになると単に口が乾くという症状だけでなく、舌や上あごなどの粘膜の痛み、虫歯や歯周病にかかりやすい、飲み込みにくい、話しにくいなど多様な症状が出現します。
そのため、「口が乾いていますか?」という問いかけだけでなく、簡単なチェックリストを使用して症状の確認をしてみるのも一つの方法です。
ドライマウスのチェックリスト
- 口が乾く
- 口の中がねばねばする
- 口の中がひりひり痛い
- しゃべりにくい
- 味がわかりにくい
- 醤油や酸味などがしみる
- パンなどのパサついたものが食べにくい
- 口臭が気になる
- よく水を飲む
- 舌や唇(口角)がひび割れやすい
- 夜間、水を飲むために起きる
これらに当てはまる項目が多いほど、ドライマウスの可能性が高くなります。
(※注 引用1.『ドライマウス 今日から改善・お口のかわき』(阪井丘芳/医歯薬出版/2010年)
(※注 引用2.『月間薬事2017年7月号 嚥下機能を考慮した薬物治療実践メソッド』(小谷泰子著/野原幹司編/じほう)
ドライマウスの原因
ドライマウスの原因はたくさんありますが、高齢者の場合は、「薬の副作用」「ストレス」「筋力低下と老化」が3大原因があるとされています。
その他、シェーグレン症候群という病気に起因するものもありますので、ひとつずつ詳しく見ていきましょう。
- 薬の副作用
- 降圧薬、睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、抗アレルギー薬など、副作用として口喝が出現する薬剤はたくさんあります。
- また、これらの薬剤以外でも多剤服用しているとドライマウスが出現することがあります。
- ご自分の判断で治療薬を休薬することは危険ですので、主治医の先生に相談して服用薬の見直しができるといいかと思います。
- 筋力低下、老化
- 老化も唾液分泌を低下させるとされており、口が乾くのは年のせいで片付けられることがあります。
- しかしながら、高齢者であっても唾液分泌が良好な方も大勢おられますので加齢だけが原因とは考えにくいです。
- 唾液を分泌する唾液腺は筋肉に囲まれていて、筋肉が働くことで唾液は分泌されます。
- そのため、加齢などによる筋力低下や、口を動かす機会が減った方がドライマウスになりやすいのです。
- 基本的なことですが、よく噛んで食べる、会話をたくさんするなど、口をしっかり動かすことが、ドライマウスの予防にもつながります。
- ストレス
- 人はストレスを感じると、口やのどに渇きを覚えます。
- 例えば、大勢の方の前で話をする場合など緊張しているときは、お水が飲みたくなりますよね。
- 反対にリラックスした状態では唾液は多くでます。
- ストレスをまったくためないことは難しいと思うのですが、体を動かす、温泉に入る、映画を観る、音楽を聴くなど、自分なりのリラックス法を見つけるようにしましょう。
- シェーグレン症候群
- シェーグレン症候群は、涙や唾液を作りだしている涙腺、唾液腺などに慢性的に炎症が生じ、涙や唾液の分泌が低下してしまう病気です。
- 他の原因で生じるドライマウスとは違い、シェーグレン症候群は唾液腺自体が破壊されてしまうので、唾液を作り出すことが難しくなります。
- そのため、ドライマウスの症状が強くでることが特徴です。
- これらの原因が単独でドライマウスを引き起こす場合もありますが、複数の原因が存在する場合も多く、原因が多いほど症状は強くなる傾向があります。
ドライマウスの治療
ドライマウスの治療は、原因によって異なります。
原因が薬の副作用の場合、処方薬の変更や休薬などで原因が除去できる場合があります。
原因が除去できそうなものがあれば、まずはそれに対してアプローチしていきます。
次にストレスや筋力低下などの原因と考えられる場合には、ストレスをためない生活を心がけていただく、口を積極的に動かしてもらうなどの生活指導を行い、改善を試みます。
原因がシェーグレン症候群などの唾液腺自体が破壊されており、唾液が分泌されにくい病態の場合には、唾液分泌促進剤が処方できます。
しかしながら唾液腺自体が破壊されているため、実際には薬を服用しても唾液はなかなか分泌されません。
このように、治療は何通りかありますが、完全には改善せずにドライマウスと付き合っていかなければならない患者さんも大勢おられます。
そのような方には、つらい症状をできるだけ和らげることを目的とした対症療法を行います。
方法としては、唾液に近い成分が含まれている保湿剤を用いて行う唾液腺マッサージが効果的です。
また、口の外からの唾液腺マッサージや、ガムを噛むなどの対処法もあります。
最後に一言
普段あまり存在を意識することがない唾液ですが、実は食べる、嚥下する(飲み込む)、話すといった私たちの日常生活において重要な役割を果たしています。
ドライマウスによりこれまで何気なくできていた日常生活が送れなくなることは、大いに不安で不快になります。
治療により改善できることが、少なくともマイナスになることはありませんので、ドライマウスかな?と思われる方は、一度専門医療機関にご相談ください。