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第81回

高齢の親子関係に潜む共依存の危険性とは?介護者のための対処法と支援・相談の重要性を解説

最終更新日時 2022/12/28
#親の介護
目 次

私が代表を務める介護者メンタルケア協会では、介護者からの相談をのべ2,000件対応してきました。

その中でも緊急性が高いのが「要介護者から理不尽な暴言や暴力を受けている」というものです。中には、「要介護者が嘘を言い、ケアマネジャーや地域包括支援センターから虐待を疑われている」というような深刻な悩みも届いています。

【事例】介護をしている母に中傷され…

50才の女性会社員・Hさんのケースです。

Hさんには、うつ病と両膝の変形性膝関節症を患って要支援2の判定を受けている母親がいます。昨年、老老介護をしていた父が亡くなり、Hさんは母親の世話をするために実家に戻りました。

最初は喜んでくれていた母親でしたが、次第にHさんのやることにケチをつけるようになり、最近では「あんたの辛気臭い顔を見るだけで嫌になる」「育て方を間違った」「どうせ職場でも迷惑をかけているんだろう」など、Hさんの存在そのものを否定するような言動が増えてきました。

先日は、つくった食事を食器ごと投げられ、危うく怪我をするところでした。Hさんにはそのような態度をとるのに、年に1回も帰省しない兄のことは「娘と違って、親孝行な子なんです」と人に話します。

困ったことにケアマネージャーにも「最近、娘が私のことを叩くんです」と嘘をつくようになり、虐待を疑われてしまいました。Hさんは、虐待を疑われたのがショックで「もう誰も信用できない」と孤独感を深めていきました。

理不尽な言動で主導権を握る「共依存関係」

Hさんには、まず母親と物理的に距離が取れるよう「自分を守るために逃げてください。相談してください」とお伝えしました。

Hさんは言葉の暴力、精神的な虐待を受けている状況です。母親がHさんに暴言を吐き、事実ではない話を周りに吹き込む原因はわかりませんが、ただ一つ言えるのは「理不尽な対応を受けてまで相手を介護することはない」ということです。

「暴言や暴力を受けてまで介護しなくてもいいんです、まずはお母様から離れましょう」と伝えても、Hさんは「でも、私がいなけば母が…」と、罪悪感を感じていました。

これまでの関係性についてお伺いすると、Hさんは子どもの頃から、母の愚痴の聞き役をしていたそうです。

母親本人に自覚があるかどうかはわかりませんが、何か不満を感じたときに、Hさんに当たり散らすことで自分の気持ちを落ち着かせ、気分を晴らすパターンを持っていたのでしょう。

Hさんは、自分が母親の支えにならなければと思い、自分が甘えることよりも母親の希望を叶えることを優先してきました。父親が健在なときはその一部を担ってくれていましたが、今ではすべてHさんに向いています。

Hさんは、介護をきっかけに気がつかないうちに、母と共依存状態に陥っていたのです。

共依存とは、問題を起こす役割の人と問題を解決する役割の人が、お互いの役割を無意識に強化しながら、状況を悪化させていく関係性を指します。

Hさんは母のためにと頑張ってきましたが、Hさんが頑張れば頑張るほど、母は機嫌を悪くしたり、問題を大きくしたり、時にHさんをなじったりしながら、主導権を握っていきました。

推測ではありますが「介護が必要になり、娘に迷惑をかけている」という後ろめたさを隠すために、無意識に無理難題を言ってHさんより優位に立とうとしていたのかもしれません。

共依存に陥っているときは、ケアする側の人が頑張れば頑張るほど、関係性も状況も悪化していきます。今回のケースでは、Hさんが周囲の人からの信頼を失うような嘘の情報も伝えられていたため、非常に難しい状況でした。

お互いの関係がどんどん悪くなる共依存

問題を一緒に考えてくれる支援者とつながる

Hさんには「周りの人が信じてくれない状況で辛いけれど、あきらめずに相談を続けましょう」と伝えました。同時に、気が進まないかもしれないけれど、母親の暴言や暴力を録音や撮影しておくこともすすめました。

母親を陥れるためではなく、周りの支援者に事実を理解してもらうためには客観的な証拠が必要だからです。

また、口頭で上手に伝えられないときは、携帯やパソコンにメモを書き出し、それを読みながら伝えることもすすめました。いざ話そうと思っても、自分の気持ちを伝えるのは難しいことが多いからです。

「ケアマネージャーも母の味方だし、私のことを信頼してもらえないかも」と不安そうだったHさんでしたが、「母から、お前を産んだのは間違いだった、役に立たない!と怒鳴られ、物を投げつけられる。先日は杖で殴られた」とメールを送ったところ、ケアマネージャーからすぐに「話を聞かせてください」と対応してもらえたとの連絡がありました。

その後、兄を含めたさまざまな支援者を交えながら、母の介護保険サービスを見直し、Hさんが実家を出ることも含めた話し合いが少しずつ始まったといいます。

母親の暴言や暴力がなくなったわけではありませんが、「家を出ていいんだ、理不尽なことを言われてまで介護する必要ないんだとわかって、ほっとしました。何より理解してくれる人ができたと思うだけで心強いです」と話してくれました。

介護は、支援する人が一方的に提供するものではない

Hさんのケースも含めて、要介護者からの暴言や暴力をいきなりゼロにすることはできず、なかなか答えが出ない問題です。

しかし、介護者を一番苦しめるのは「誰も助けてくれない」「わかってもらえない」と孤立と孤独を深めることです。

問題がすぐに解決できなくても、一緒に考えてくれる支援者とつながることが、難しい状況を乗り越えるための最初の一歩となります。

「要介護者=守ってあげる人」との意識が強すぎると、要介護者の要望や希望をすべて叶えなければならないと考え、支援する側が苦しむことになります。

介護は、支援する人が一方的に提供するものではなく、要介護者と支援者相互に協力することでしか成り立ちません。

今、もし要介護者からの理不尽な言動、暴言や暴力に悩んでいる方がいましたら、迷わず周りの人に相談してください。

そのときには、どのような理不尽なことを受けているのか、できるだけ具体的に書き出して伝えましょう。録音や動画も利用してください。

何をどう伝えていいかわからないときは、「暴力と暴言を受けている。辛くてもう耐えられない」「これ以上はかかわれない」と伝えてください。

まずはご自身の心身の安全を守るための行動を最優先してください。

まずは自分の心身の安全を守ろう

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