団塊の世代の7割以上が75歳以上の後期高齢者となりました。次世代は、今まさに働き盛りです。誰もが、仕事と介護の両立という課題に向き合う時代となりました。
仕事と介護の両立では、職場の理解と協力が不可欠です。しかし、いざ介護問題に直面すると、誰にどこまで話せばいいのか、心理的距離感に戸惑うことがあります。
特に、それほど関係性が深くない人からあれやこれやと詮索するような質問を受けると、対応に悩むものです。
【事例】会社員のSさん(40代女性)のケース
会社員のSさん(40代女性)の母親(70代)は、昨年夏に大腸がんの手術をしました。上司には早い段階で相談し、母親の手術や抗がん剤の治療の時期は仕事を休めるようにするなど、配慮を受けることができました。現在は、週末に片道2時間半かけて実家に戻り、母親のサポートをしています。
Sさんが今悩んでいるのは、別の部署の先輩との関係です。更衣室で顔を合わせる程度なのですが、実家に戻るための荷物をみて「旅行に行くの?」と質問されるようになりました。
Sさんは「実家に戻るだけです」とあたりさわりのない範囲で答えていましたが「また実家? 毎週行っているの?」とさらに質問が続きます。
Sさんは、母親の病気というプライベートなことを伝えるのは必要最小限の人だけにしたいと考えています。
先輩に悪気があるわけではなく、挨拶程度の気持ちで声をかけているのだと頭では理解できますが、仕事と介護の両立で余裕がないときに、他人にあれこれ詮索されているようでイライラがつのっています。
話したくない話題では、話題の主体を相手に変える
一般的に、関係性が遠い人から、家族や介護についてあれこれ尋ねられるのはあまり心地良いものではありません。Sさんのように余裕のない状態が続いていれば、必要最低限の人との情報共有にとどめたいと思うのも自然なことです。
Sさんの先輩のような言動に「家族について詮索したい」といった他意はなく、挨拶する感覚で声をかけていることがほとんどです。
具体的な状況など、プライベートなことを話す必要はありませんし、話さないことへ罪悪感を持つ必要もありません。
しかし、隠そうとする気持ちのまま相手と対応すると、相手はかえって「何だろう?」「知りたい!」と好奇心が刺激されることがあります。こちらも、挨拶を返すぐらいの心持ちで対応すると気持ちも楽になるでしょう。
具体的には、「どこか旅行?」と聞かれたら「旅行です / 実家に行くんです」と、「先週もだったよね」と続けば「そうなんですー」と、そのままオウム返しをしてその場から離れましょう。
すぐに離れられず、しばらく相手と会話しなければならないときは「○○さんは週末どうされるんですか?」「○○さんのご実家ってどこですか?」と質問返しをするのが一番簡単で効果的です。
質問をされる度に「何をどこまで答えなければならないのか」「どう返答しようか」と考えること自体が疲れますから、質問されたら「○○さんはどうですか?」と質問で返すことで、話題の主体を相手に変えることができます。

「今、何をすべきか」に集中する
介護に限らず、コミュニケーションのトラブルを防ぐために気をつけたいのは、心理的距離感の違いです。気軽に話しかけたり、話す時間を多く取ることで感じる親密さが心地よく感じる人もいれば、コミュニケーションの回数や量は最低限で済ませる方が心地よいと感じる人もいます。
どちらが良い、悪いではなく、人によって快適だと思う心理的距離は違うことを意識しておきましょう。
心理的距離感が異なる人とのコミュニケーションのポイントは、相手の考えや意図を深読みしないことです。「あの人は、どうしてあんなことを言ってくるのだろう?」とあれこれ考えても答えは出ませんし、むしろ自分のストレスが増えるだけです。
また、疲れているときは、他人の行動に違和感や嫌悪感を持ちやすくなります。相手への対応をどうすればいいのか考える前に「今、疲れているのかも?」「睡眠時間や休息は取れているか?」と意識を向けましょう。
さらに「今、相手との関係の取り方を考えるために時間を割く意義はあるのかどうか」も冷静に見極めてください。気力、体力、時間は全て有限です。仕事に介護にと時間がないときこそ、今対応すべきことだけに集中していきましょう。

みなさんが家族間で抱えている悩み、介護で経験されていること、対策をとられていることをぜひ教えてください。お困りのことやご相談には、こちらの「介護の教科書」の記事でお答えできればと考えています。
「介護サービスを嫌がって使ってくれない」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手にとって参考にしていただければと思います。