介護者メンタルケア協会代表、橋中今日子です。
当協会には、主に家族を介護する方からご相談が寄せられます。ところが、昨年から「友人が認知症になって、1日に何度も電話をかけてきて困っている」「ご近所さんがゴミ屋敷化している」といった、家族以外の身近な人や知り合いが認知症になってトラブルが起きているというケースが増えてきています。
今回は、職場で認知症を疑われる方とのトラブルを経験されたというご相談です。
事例【スーパーに来るお客さんに認知症の疑いがある】
【30代 女性 会社員 Aさん】
「スーパーに勤めています。常連の高齢男性が、所持金をほとんど持たずに買い物をするようになりました。最近はほぼ毎日来店し、同じことを何度も尋ねる様子から、認知症の症状なのではと感じています。丁寧に対応していますが、そのたびにレジはストップし、溶けてしまったアイスなどは破棄しなければならず、困っています。大切な常連のお客様ですし、『何かできることはないか』と思いながら2ヵ月以上経過しました。家族でもないし、どうすればいいでしょうか?」日本は現在、4人に1人が65歳以上、65歳以上の人の7人に1人が認知症を発症しています。日常生活の中で認知症の方と出会うことも多くなるでしょう。そんなとき、「どう接したらいいの?」「どう手助けしたらいいの?」と戸惑ってしまうのは当然のことです。
Aさんには、地域包括支援センターに相談するようお勧めしました。地域包括支援センターは、高齢者が地域で安心して暮らせるようにサポートする「高齢者と介護に関するよろず相談所」です。
相談をする際は、家族である必要はありません。「一人暮らしをしている高齢のご近所さんが、ゴミの分別ができなくなっているようだ」といった相談にも応じてくれます。個人情報は厳守されますので、誰が相談したかを公にされることはありません。
Aさんはまず、自分で地域包括支援センターに電話をしてみました。すると「ご連絡いただきありがとうございます!市の高齢福祉課に連絡をし、どのようなサポートが必要なのか調査します。今日すぐにお店に伺うことはできないため、引き続き経過をご連絡ください」という、頼もしいお返事をもらえて、とても安心したそうです。
その後、店長やほかのスタッフとも相談。店で姿を見かけたらお声がけをして、来店時間や様子を記録して地域包括支援センターに連絡する、という対策が決まったとのことでした。
「今回の事例をきっかけに、認知症の方だけでなく、高齢者の方や何かしらのサポートが必要な方への対応も考えていこう、という意見も出ています。このような対策をほかのお店とも共有できれば」と話してくれました。
「認知症サポーター養成講座」で正しい知識を得る
認知症特有の言動を「困った人だ」と誤解され、地域から孤立してしまうケースは多く見受けられます。高齢の方が万引きを繰り返して窃盗罪で有罪判決を受けた後、認知症だと診断されたという事例もあります。
しかし、いざ自分が認知症の方のトラブルに直面したとき、「どう対応したらいいかわからない」と困惑する人もいるでしょう。
そこで、活用したいのが「認知症サポーター養成講座」です。
「認知症サポーター」とは、認知症に対する正しい知識と理解を持ち、地域で認知症の人やその家族に対して、できる範囲で手助けする人のことです。国がその養成を推進し、全国の都道府県・市区町村などの自治体と、企業や団体等との協催で講座が実施されています。
厚生労働省によると、認知症サポーターの役割は以下の5つです。
- 認知症に対して正しく理解し、偏見を持たない
- 認知症の人や家族に対して温かい目で見守る
- 近隣の認知症の人や家族に対して、自分なりにできる簡単なことから実践する
- 地域でできることを探し、相互扶助・協力・連携、ネットワークをつくる
- まちづくりを担う地域のリーダーとして活躍する
「地域のリーダーとして活躍する」と聞くと、なんだか大変な責任を負うようなイメージがあるかもしれません。ですが、前述のAさんのように、「地域包括支援センターに連絡、相談する」ことが、まさに認知症サポーターの役割です。サポーターが1人で頑張るのではなく、「地域のつながりをつく作っていく」ことが求められているのです。
講座では、動画視聴と講師による授業で、認知症に関する正しい理解と起こりやすいトラブルや、対応方法について学びます。認知症サポーター養成講座で学んだ小学生が、行方不明になっていた認知症の方に声をかけ、安全を守ったとの報道もありました。
認知症の家族を介護している人でも、他者のサポート方法については意外と知らないことがあります。私自身、認知症の祖母の介護で「わかっているつもり」になっていました。ですが、講座を受講したことで、ハッとさせられる事例や新しい情報を得られ、とても勉強になりました。
養成講座の情報は、「全国キャラバン・メイト連絡協議会」のホームページ「認知症サポーターキャラバン」で確認できます。コロナ禍の影響もあり、オンラインでの開催も増えているようです。受講費は無料ですので、ぜひ検討してみてくださいね。
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皆さんが介護で経験されていること、対策を取られていることを介護者メンタルケア協会の問い合わせフォームでぜひ教えてください。
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「職場が介護の状況を理解してくれない」といった日々の介護の悩みについては、拙書『がんばらない介護』で解説をしています。ぜひ、手に取って参考にしてほしいと思います。