皆さんこんにちは。陽だまりのnekoの夢のmaruこと井上百合枝です。
今回は「食事が高齢者の心理に与える影響」についてお話ししていきます。
食事は高齢者の方の気持ちを前向きにする
皆さまは、高齢者の方の食事にはどのような意味があると考えていますか。一般的な考え方は以下のようなものだと思います。
- 命の維持
- 健康の維持
- 栄養の補給
なぜ、人はおいしいものを食べたくなるのでしょうか。筆者が勤務していた福祉施設や入院施設でも、入院していた高齢者の方が毎回の食事をとても楽しみにしているのを目にしてきました。なかには、食事を食べたばかりなのに「次のごはんはまだかい」などと聞く高齢者の方も(疾患によるもの忘れもありますが)。また、筆者自身も親知らずの抜歯のために1週間ほど入院したときは、人が見舞いにきてくれること以外では、食事が何よりも楽しみでした。
高齢になると得るものより失ったり減退するものが増えていきます。例えば、視力や聴力、足腰の筋力といった身体的機能の衰えもそうですし、友人や家族を失うこともそれですよね。
そうなると、気力ややりがいが低下し、積極的な活動や対人・外出の機会が減少しやすくなります。すると気持ちが塞ぎがちになり、自宅やベッドから離れることが次第に億劫になってしまうのです。
では、食事によって、高齢者の方の気持ちにどのような変化がもたらされるのでしょうか。まず、高齢者の方がどのようなものを食べたくなるのか、考えてみましょう。例として、以下のものが挙げられると思います。
- おいしいと感じる
- 食べやすい
- 懐かしい味
- 季節や旬を感じる
- 珍しい
- 良い香りがする
- 盛りつけが美しい
- どのような工程で調理したかわかる
- 体に安心・安全な食材が使用されている
- 自分の信頼する人が美味しそうに食べている
食事は五感のすべてを使って感じることができる
人はなぜ「食事をしたい」と感じるのでしょうか。その理由の1つとして、食事は人間の五感(味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚)のすべてを刺激することがあります。
味覚:おいしい・懐かしいと感じる味や季節の味
触覚:舌触りや歯ざわり・のどごし
嗅覚:魚の焼ける匂いやスープの香り
視覚:珍しい(初期段階での覚知)と思う感覚や盛りつけ、旬の食材を見る
聴覚:煮込む音や包丁で食材を切る音
これらの五感が刺激されると、食欲が湧いてきたり、気持ちが高揚しますよね。高齢者の方でなくても、このように五感が刺激されるとわくわくすると思います。通りがかりの焼き鳥屋さんの煙に誘われて焼き鳥を買ってしまうのも、このような刺激に誘導されるからです。
ですから、高齢者の方が家庭や厨房で料理中の音や、食べものの匂いを感じることで食事が楽しみになるのも納得できると思います。また、人は満腹になると「幸せホルモン」とも呼ばれる「オキシトシン」が分泌されます。満腹になると幸せな気持ちになるので、食事をしたくなるというわけです。
食事は1人でなく誰かと一緒に食べること
では、味覚や聴覚などの要素が揃っていれば、食事はどのように取ってもおいしくなるものなのでしょうか。実は、食事は「1人ではなく誰かと一緒に食べること」が重要なのです。皆さまもご経験があるかと思いますが、1人で食べる食事はホッとするときもありますが、毎日・毎回1人で食べるのは何だか味気がないものです。
食事を誰かと一緒にすることで自分自身や一緒に食べる人の価値観や味の好み、これまでのライフヒストリーなどもわかってきます。だからこそ、親睦を深めるために食事に誘ったり、食事に誘われると嬉しくなったりするのですね。誰かと一緒に食べることで食事はますますおいしくなりますし、楽しくなるのです。
しかし、逆に食事中に叱られたり嫌な顔をされたり、緊張してばかりいたらどうでしょう。食事が「楽しい」「うれしい」と感じなくなってしまい、おいしさや感謝を感じる心の余裕がなくなってしまいますよね。こうなってしまうと、食欲も低下してしまうかもしれません。高齢者の方と食事をするときには、以下のような検討・準備をしておくことをお勧めします。
- 疾患や嗜好・アレルギーなど、相手の体調に考慮した食事内容
- 相手の咀嚼・嚥下(えんげ)機能に応じた食事形態
- 1人でも食べやすい食器や配膳・テーブルの高さの工夫
- 気持ちが落ち着くように部屋の明るさや静かさを調整
- 食事を残したりこぼしたりしても掃除しやすくする
上記のように、高齢者の方や一緒に食事をする人への配慮や準備が必要となります。
おいしくて楽しい食事は生活の質を上げる
高齢者にとって、おいしい・楽しい食事は、以下のような気持ちの変化をもたらしてくれると思います。
- もっとおいしいものを食べたい
- 好きなものを食べたい
- ふるさとの味が食べたい
- ○○というお店の△△が食べたい
- □□と一緒に食事をしたい
おいしくて楽しい食事は、⾼齢者の気持ちを前向きにするきっかけになります。このような「~~したい」という気持ちは、高齢者自身の目標や自己決定にもつながり、生活の質(QOL)を高めることにもつながるのです。食事を起点にして、高齢者の方のケアの循環につながっていくとうれしいですね。
今回は、食事が高齢者の方の心に与える影響について考えてみました。高齢者の皆さまの食事がおいしく楽しいものになり、ケアする皆さまにとりましても嬉しく楽しい時間となるよう願っております。