皆さん、こんにちは。(公社)大分県栄養士会の栄養ケア・ステーションを担当している管理栄養士の濱田美紀です。
今回は、「高齢者が食事を拒否する理由と対策」についてお話ししたいと思います。
高齢者の方が食事を拒否する3つの理由
高齢者の方で食事を拒否される方がいます。その理由はさまざまですが、原因は大まかに下記の3つだと思います。今回は、これらのパターンとその対策を具体例とともに解説していきたいと思います。
- 認知症の症状
- 食べものの好き嫌い
- 機嫌や体調が悪い
1:介助の際は食事を見て中身を確認してもらう
認知症の症状において、食べものが目の前にあっても頭で「食べるもの」として認識できない「失認」という症状があります。
この症状が出ている方への対策としては、目の前の食事を見て確認してもらい、食べ方を伝えて最初の一口を口に運んでいくと、スムーズに食べてもらえることが多いです。また、食べる道具(箸やスプーン)の使い方がわからない方もいますので、そのような方には一度手を添えて食べるように介助すると、その後食べてもらえることがあります。
そして、認知症で体に麻痺などがあり、自分で食事ができない方が食事介助を拒否されることがあります。その場合、食事を行う場所(食堂等)へ誘導する際にはきちんと正面に向かって顔を向き合い、これから食事であることを伝えましょう。「認知症だから」と何も説明しないで誘導することで不信感を抱いてしまい、スムーズに介助できないことがあります。これは食事に限る話ではなく、介護を行う際はきちんと説明して行うことが大切です。
食事介助の際は、スプーンなどを口に持って行く際に目の前に見せて、確認してもらいましょう。何がスプーンに乗っているかがわかるので、食事介助を拒否されることが少なくなります。
また、介護する方との相性も食事の拒否に関係があるようです。相性の悪い方が介護を担当すると、摂取量が減ってしまう場合があります。もし栄養状態を心配されるなら、相性の良い職員に食事介助を代わってもらうことも一つの手。認知症の方は相性の良し悪しも変動することがあるので、その日にいる職員の何人かが対応し、最も相性の良い介護士が行うと良いと思います。
2:本人の嗜好に合わせて提供する
食べものの好き嫌いで食事を拒否される方もいます。本人に確認できればそれで良いのですが、認知症の症状があってその確認が本人にできない場合は食べものの好物を知っている方(ご家族など)への聞き取りを行いましょう。提供される食事を変更した場合、食べてもらえることがあります。
たとえ偏った嗜好でも、慣れるまではできるだけ嗜好に合わせて食事の提供をしてみてください。すると、段々と普通の食事でも食べてもらえるようになることが多いです。
3:補食(濃厚流動食など)を検討しよう
認知症の方は、1日の中でも気分の良いときと悪いときがあります。気分の悪いときに食事を提供しても食べていただけないことが多いです。この場合、無理に勧めず、気分の良いときに主食や補食(食事の代わりに提供する補助食品や間食など)を提供すると食べていただけ、栄養不足を回避できます。
もし気分の悪い日が続いてなかなか食事をしてもらえないときは、濃厚流動食(1cc1キロカロリー以上)のジュースタイプを飲んでもらうことも検討しましょう。125ccで200キロカロリーの濃厚流動食は味の種類も多く、摂取量が少なくても栄養が摂れるのでお好きなものを飲んでいただくことが可能です。金額は1本110円~160円くらいのものが多いですね。
病気などで体調が悪く食欲がない方の場合、主治医の指示を確認し、看護師や介護士と食べていただけそうな食品や食事形態について話し合いましょう。このとき、本人の好物を意識しながら食事を提供し、栄養不足を防ぐことが大切です。そのような場合に良く提供するものとして、卵粥やうどんなど、さっぱりしたものが多いです。
ミキサー食が原因で食事をしなかった80代女性
次に、施設で起きた事例を紹介します。軽度の認知症状のある80代の女性の話です。その方は入所後ほとんど食事をせず、飲みものしか口にしません。その理由を本人に聞いても「食べたくないから」としか答えませんでした。それまで入院していた病院でもあまり食事をしなかったとのことです。以前に入院していた病院ではミキサー食が主だったとのことで、当施設でもミキサー食を準備して提供していました。
食べものの好物の聞き取りを家族にお願いすると、「チョコケーキやチーズケーキのような甘いものが好き」との回答が得られました。そこで、「入所記念」と称してケーキをつくり、ほかの入居者の方や職員とケーキを食べる機会を設けることにしたのです。すると、その女性がとてもおいしそうに自分でケーキを食べだしたのです。
ケーキを食べた後に本人に聞き取りを行うと、「病院から家に帰れると思ったら施設だったので悲しかった」「病院と同じどろどろのミキサー食で食べたくなかった」といった思いを聞くことができました。
それからは、看護師や介護士とどのくらいの食事形態や大きさなら食べられるかを確認し、「軟飯や一口サイズの大きさなら可能ではないか」ということになりました。本人に一度食べていただいたところ、「主食の軟飯は食べられたが、おかずは肉や魚はもっと細かく切って欲しい」などの要望を本人からいただくことができました。その後、献立により大きさを変えるということで、ニーズにあった食事の提供ができるようになったのです。
その後、この方は軟飯・一口大の食事形態ではあるものの、料理のほとんどを召し上がるようになり、施設で話ができる友達もできて楽しく生活しています。
食事を取らない「理由」に目を向ける
今回は「高齢者が食事を拒否する理由と対策」についてお話ししました。具体例については、筆者が認知症専門病院や介護施設の勤務で経験した成功例ですので、参考にしていただけると幸いです。
入居してきたときは「会話が好きではないのかな」と思っていた方が、満面の笑みを見せ てくれることがとてもうれしいです。食事を拒否して食べない方はほとんどが食べたくないのではなく、何かしらの理由があって拒否をしているということに気づける人が増えると良いですね。この記事が、高齢者の方に「おいしいね」と笑顔で言ってもらえるきっかけになればと願っています。