はじめまして。管理栄養士の端場愛と申します。フリーランスの管理栄養士 兼 ライターとして活動をしています。今回から介護に関する食事や栄養のお話をさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
家族に介護が必要になると、食事も普通食から介護食へと切り替えなければならないケースもあります。しかし、いきなり「介護食をつくれ」と言われても、何をどうしていいかわからない人も多いでしょう。
そこで、介護食の基本を説明するとともに、自宅で介護食をつくる際に気をつけるべきポイントや介護食づくりに役立つおすすめグッズをご紹介します。
介護食の基準
介護食とは、噛んだり飲み込んだりする能力が弱くなった人のための食事です。介護食といっても、全員に同じ形態の食事を提供するわけではありません。人によって嚙んだり飲み込んだりする力は異なるため、個々人に合った形態を見つける必要があります。介護食は、主に次の4段階に分けられています。
- 容易に噛める:飲み込む力が普通で、硬いものや大きいものはやや食べづらい人はすこし柔らかい食事
- 歯ぐきでつぶせる:飲み込む力がやや衰えてきて、硬いものや大きいものは食べづらい人は柔らかい食事
- 舌でつぶせる:液体がやや飲み込みづらく、柔らかく調理したものが食べられる人は半固体の食事
- 噛まなくて良い:液体が飲み込みづらく、固形物は食べられない人は液状の食事
区分 | 容易に噛める | 歯ぐきでつぶせる | 舌でつぶせる | 噛まなくて良い | |
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噛む力の目安 | 硬いものや大きなものはやや食べづらい | 硬いものや大きなものは食べづらい | 細かくて柔らかければ食べられる | 固形物は小さくても食べづらい | |
飲み込む力の目安 | 普通に飲み込める | ものによっては飲み込みづらいことがある | 水やお茶が飲み込みづらいことがある | 水やお茶が飲み込みづらい | |
かたさの目安 | ごはん | ごはん~柔らかごはん | 柔らかごはん~全がゆ | 全がゆ | ペーストがゆ |
魚 | 焼き魚 | 煮魚 | 魚のほぐし煮 | 白身魚のうらごし | |
卵 | 厚焼き卵 | だし巻き卵 | スクランブルエッグ | 柔らかい茶碗蒸し |
「どのくらいなら食べられるのかわからない」と悩むケースもあると思いますので、かかりつけの病院の医師や言語聴覚士、管理栄養士に相談してみましょう。適切なアドバイスをもらえるので、自宅での介護食づくりがグッと楽になるはずです。
介護食をつくる際に気をつける8つのポイント
介護食は、ただ柔らかい食事をつくればいいわけではありません。より安全で食べやすい介護食をつくるための8つのポイントをご紹介いたします。
- 1:サラサラなものにはとろみをつける
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食品の例:水・お茶・汁物など
サラサラとした液体は、飲み込む力が弱まった人(咽頭の反射が遅い人)にとってはリスクがあります。速いスピードで喉に下りていくので、咽頭の反射が遅いと誤嚥の原因になってしまいます。サラサラとした液体にとろみをつければ飲み込みやすくなるので、小麦粉やとろみ剤、ゼラチンなどでとろみをつけてみましょう。山芋や納豆、オクラなどネバネバした食材を足すのもOKです。ただし、あまりにもとろみをつけすぎるとベタベタして飲み込みにくくなります。調整が難しい場合は医療機関で相談してください。
- 2:大きい食材は食べやすいサイズにカットする
- 嚙む力が弱まっている人にとって、大きいサイズの食材は食べにくいもの。一口で無理なく食べられるサイズにカットしてください。家族と同じ料理を取り分ける際は、調理後にカットしても良いでしょう。
- 3:パサつく食材には水分を加える
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食品の例:じゃがいもなどのイモ類・かぼちゃ・パン・ゆで卵など
パサつく食材は、普通の人でも食べにくいことがあります。飲み込む力が弱まった人は、なおさら食べにくいのです。そこで水分を加えることが大切です。例えば、じゃがいもはふかし芋の状態で提供するのではなく、煮物にすると良いでしょう。パンはトーストではなく、フレンチトーストにすると食べやすくなります。
- 4:口の中でまとまりにくいものはとろみをつける
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食品の例:れんこん・ごぼう・こんにゃく・たけのこ・肉・イカ・タコ・かまぼこなど
上記の食品は、噛んでも口の中でまとまりにくく、いつまでもバラバラとした状態です。細かいバラバラの食品を飲み込むのは難しく、誤嚥の原因となってしまいます。とろみをつけることである程度かたまりになるので、飲み込みやすくなります。また、小麦粉や卵などのつなぎを使うのもかたまりになりやすく、おすすめです。
- 5:硬いものは柔らかく調理するか液状にする
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食品の例:肉
「入れ歯が合わない」「噛む力が弱まっている」などといった理由で、硬いものが食べにくい人もいます。硬いものは柔らかく調理しましょう。煮る以外にも、蒸す、つぶすといった方法があります。
- 6:酸味の強いものには注意
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食品の例:酢・柑橘類
酸味の強い食べ物は、むせる可能性があるので注意しましょう。対策法としては、酢の物の場合は「だしを足して酢の濃度を下げる」、柑橘類は「ゼラチンで固めてゼリーにする」などがあります。
- 7:細かく刻みすぎない
- 病院や介護施設では、刻み食が提供される場合があります。その場合は、介護職員がとろみ剤を追加するなど、無理なく食べられるよう工夫しています。自宅では細かく刻みすぎると、口の中でまとまりづらく、むせる原因になりかねません。刻む場合は一口大程度にするとよいでしょう。
- 8:餅など粘りが強く張りつく食材は避ける
- 冬になると餅を食べる家庭も増えてきますが、介護食において餅はリスクの高い食べ物です。餅は喉に張りつきやすく、窒息の危険が高い食べ物なので、摂食嚥下(えんげ)機能が弱まっている人には向いていません。どうしても食べたい場合は、介護食の餅を利用すると良いでしょう。主に通販サイトなどで手に入れられます。

介護食をつくる際に役立つグッズ3選
ここからは、介護食をつくる際にあると便利なグッズを3つご紹介します。
- キッチンばさみ
- ちょっと料理をカットしたいとき、わざわざまな板を出すのは面倒なこともあります。キッチンばさみがあれば、お皿の上で好きな大きさにカットできます。キッチンばさみは100均のものなどでOKです。
- ハンドブレンダーまたはミキサー
- 硬い食材を砕くときや、ポタージュをつくるときにハンドブレンダーやミキサーがあると役立ちます。特にハンドブレンダーは手入れも楽で、保管場所を取らないのでおすすめです。一つあれば、介護食だけでなく通常の料理をつくるときにも役立ちます。
- 圧力鍋
- 介護食において、柔らかい食事は基本中の基本。煮るのが手っ取り早いのですが、根菜などはどうしても柔らかくなるまで時間がかかってしまいます。そこで、圧力鍋を利用してみてはいかがでしょうか。 通常の1/3程度の時間で柔らかく調理ができます。少々お値段は高くなりますが、安全に調理できる電気の圧力鍋を利用してもよいでしょう。
介護食は、個々人に合った形態を見つけなくてはなりません。「どの程度の介護食がベストなのかわからない」という方は、一度医療機関に相談してみてください。ケアマネージャーや訪問看護職員でも大丈夫です。また、介護食をつくる際には「柔らかく調理する」を基本に、食べやすくなる工夫をしてみましょう。今回のおすすめグッズをぜひ役立たせてくださいね。
