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第40回

介護事故に遭ったときの示談交渉の進め方

最終更新日時 2022/02/16
#親の介護
甲斐みなみ法律事務所の弁護士で、「介護事故の法律相談室」を運営している甲斐みなみと申します。介護事故は年々増加しており、誰の身にも起こり得ることになりつつあります。その際、損害賠償を裁判ではなく示談交渉で進めるのも一つの手段です。今回は示談交渉の流れやポイントについて解説します。

甲斐みなみ法律事務所の弁護士で、「介護事故の法律相談室」を運営している甲斐みなみと申します。

今回は家族がもしも介護事故に遭ったとき、裁判をせずに損害賠償請求をするにはどうしたら良いのか、示談交渉の進め方などについて解説したいと思います。

介護事故について弁護士に相談してから解決に至るまでの流れについては、第8回でも解説していますので、興味のある方はそちらもご確認ください。

介護事故に遭った際に最初にやるべきこと

介護事故の増加

要介護・要支援の認定者数は、右肩上がりで増加し続けています。介護保険制度がスタートした2000年度末時点では約256万人だったのに対し、2019年度末時点には約669万人に達しています。

介護保険の利用者が増加すれば、当然のことながら介護事故も増加します。世田谷区が公表している介護事故件数の報告によると、2002年度には13件でしたが、2019年度は1,538件にも増加しています。

介護事故状況の把握

弁護士に相談する段階で、介護事故に遭った方が事故状況の詳細を把握できていないケースが少なくありません。そういった場合、以下のようなことが起こり得るので注意が必要です。

相談者:父が入所中の施設で転倒して大腿骨を骨折。今も入院しているんです。損害賠償請求できるのか知りたいのですが。

弁護士:どういう状況でお父さんが骨折したのか、具体的な事故の状況は把握できていますか。施設側から説明を受けましたか?

相談者:いえ、まだです。

弁護士:事故の状況がわからないと、転倒事故の責任が施設側にあるかないか判断できません。まず、どういう状況で転倒されたのか施設側に詳細を確認してもらえませんか。できれば、時系列で書いたものや事故報告書をもらってください。

施設でケガをしたら、責任は施設にあると考えている人もいますが、損害賠償請求が認められるかどうかは、その方の心身の状況から想定されるリスクと、実際に生じた事故の状況で判断されます。そのため、事故の状況は可能な限り詳しく確認する必要があります。

示談交渉を始める前に

事業所側からの提案がない

介護事故に関する相談には「父が介護事故に遭って入院しています。治療費くらいは負担してほしいのに、施設からは何の話もありません。どうしたらいいですか」というような内容が少なくありません。

事業所側に法的責任がないと思われる場合は別として、事業所に法的責任があると考えられる場合でも、賠償について事業所側から何の説明がないこともあるようです。

利用者側は事業所側から言い出してくれるのを待っているつもりでも、事業所側からすると「事故の状況を話して家族も納得してくれたようだ」と思っていたり、「利用者側から特に賠償の話はないし、私たちからする話でもないだろう」と思っていたりするケースもあります。

利用者側から「損害賠償はどうなりますか?」「治療費はどうなりますか?」と話をして、事業所側は、はじめて「保険会社に聞いてみます」と動き始めることもあります。

医療照会の同意書を求められる

そのほかにも、「保険会社宛の同意書を出すように求められたのですが、出してもいいのでしょうか」という相談を受けることがあります。

このように介護事故の際に、保険会社から医療照会の同意書を求められることがあります。

事業所側は、利用者側から事故に関する賠償請求を受けた場合、加入している賠償責任保険を利用して支払うのが一般的です。保険会社は賠償責任の有無や金額を判断するため、事故前後に利用者が入・通院した医療機関から画像データを取り寄せたり、主治医の意見を尋ねたりしてから、賠償額の提示をするのが通例です。

この場合、診療情報は利用者個人の情報ですから、利用者の同意なしに保険会社が診療録を取り寄せたり、主治医に意見を尋ねたりすることはできません。

示談交渉を円滑に進めたいのであれば、医療情報の取得に同意をした方が良いと思います。仮に裁判になった場合には、裁判所を通じて診療録を取り寄せることになります。もっとも、自分で診療録を取り寄せて、賠償請求に関する問題点を前もって把握しておいた方が良いとも言えます。

必ずしも事業者側から損害賠償の話を持ち出すとは限らない

事業所側の提示から、今後の見通しをつける

事業所側から損害賠償の提示を受けるのを待つのか、利用者側から積極的に賠償請求をするかはケースバイケースになるかと思います。

入手した事故報告書や介護記録などから、事業所側の責任追及が十分可能であると思われる場合や、損害の算定に難点がなさそうな場合には、利用者側から積極的に賠償請求のための通知書を送ることもあります。

一方で、高齢者の骨折後の後遺障がいなど損害の評価が難しい場合や、賠償責任の有無(過失や因果関係の有無)について、事業所側がどう考えているのかがわかりづらい場合には、ひとまず事業所側からの提示(保険会社からの提示)を受けてから判断する方が良い場合もあります。

なお、後遺障がいとは、医学的にみると「これ以上治療を続けても大幅な改善が見込めない状態になった状態」を指します。

主に交通事故や労災事故では、後遺障がいの程度によって、等級が定められており、認定をする機関があります。しかし、介護事故の場合はそのような認定機関がなく、もともと事故以前に障がいを抱えているケースも多いため、判断が難しい場合があります。(詳細は第8回参照)

その等級の判断が難しい場合、例えば事業所側から十一級相当を前提とする提案があれば、「後遺障がいについてはさほど争点にならなさそうだ」というように見通しをつけることができます。このような場合は、示談交渉がまとまる可能性も高そうです。

また、死亡事故なのに事業所側からの提示が100万円程度の場合は、事業所側(あるいは保険会社)は「過失または因果関係がない」すなわち「賠償責任がない」と考えていることがわかります。

このような場合は、示談交渉がまとまるとは考えられず、死亡についての責任を追及しようと思えば、もはや裁判をする覚悟を決めなければなりません。

事業所側から、事故について賠償責任があるという前提で提示がなされた場合でも、裁判になった場合の賠償額よりも低額の提示がされる場合も少なくありません。事業所側からの提示を受けた場合、示談をする前に、その提示額が妥当なものかどうかは、専門の弁護士に相談して確認した方が良いでしょう。

示談交渉におけるボタンの掛け違い

利用者側が、事業所側に事故の発生状況の詳細を尋ねたり、示談交渉の進捗状況を問い合わせたりするのは当然のことです。

しかし、その段階で利用者側と事業所側の温度差が原因で、ボタンの掛け違いが生じ、利用者側があたかもクレーマーのように扱われてしまう事例が見受けられます。

利用者側としては、当然のことを尋ねようと事業所側に連絡をしているだけなのに、ある日突然、事業所側の弁護士から通知書が届き「今後、一切の連絡は代理人である弁護士にしてください」と通知されることがあります。

介護事故の賠償責任保険では、一般に保険会社に示談交渉の権限まではなく、あくまで交渉の窓口は事業所です。しかし、事業所側もどんな風に話を進めて良いのかわからず、積極的に利用者側への連絡をしないうちに、利用者側の不信感が高まることがあります。そうして頻繁に事業所側に連絡をしていくうち、事業所側に弁護士がついてしまうパターンです。

また、保険会社による医療照会に時間がかかっているうちに、利用者側が待ちきれず、頻繁に事業所側に状況を確認する連絡をしていたら、事業所側に弁護士がついてしまうケースもあります。

事業所側がどのようなスタンスであれ、話し合いによって解決しようと思っている場合には、このようなボタンの掛け違いは致命的になりかねません。事業所側との協議がスムーズに進まない場合には、アプローチの仕方を見直してみましょう。

協議がうまく進まなくなる「ボタンの掛け違い」

以前に比べると、介護事故の賠償請求が示談交渉でスムーズにまとまらず、訴訟提起せざるを得ないケースが増えているように感じます。介護事故に遭ったけれど事業所側との話し合いがうまく進まない場合、当事者同士の関係性の悪化がネックになっているのか、そもそも法的に賠償請求が困難な事案なのかなど、弁護士に一度相談することが大切です。

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