いいね!を押すと最新の介護ニュースを毎日お届け

施設数No.1老人ホーム検索サイト

入居相談センター(無料)9:00〜19:00年中無休
0120-370-915
第313回

横須賀市はじめ、自治体の終活サポートが登場。「いざ」というときの頼りになる!

最終更新日時 2022/06/01
#看取り・終活
最期まで自分らしく生きる終活は一般的に広まり、自治体によるサポート事業も始まっています。東京都豊島区では、区民からの緊急連絡先や延命治療の意向といった「終活情報」の登録受付を開始しています。この制度の先駆けは神奈川県横須賀市で、身寄りのない高齢者支援として始めたそうです。取材を通して、自治体のサポート事業の実態と課題を探ります。

ようやく東京23区でも、住民の「終活対策」に本気で乗り出す自治体が出現しました。終活とは、介護や保険、お墓などの準備・計画をして、最期まで自分らしい人生をより良く送るための活動のことです。

今回は各自治体が乗り出している終活サポート事業について、掘り下げてみたいと思います。

豊島区で始まった「終活情報」の登録

東京都豊島区は令和4年4月1日から、区民からの緊急連絡先や延命治療の意向といった「終活情報」の登録受付を開始しました。

この事業は本人が病気や事故、死亡などによって意思表示ができなくなった時、警察・消防・医療機関・福祉事務所及びあらかじめ区に登録した方からの照会に基づき、区が登録情報を開示するものです。

豊島区は池袋駅を中心に商業地が集中しているような印象がありますが、繁華街から少し離れると住宅街が広がり、単身の高齢者が多いお土地柄。

区から委託を受けた社会福祉協議会が令和3年2月に23区初となる終活総合相談窓口「豊島区終活あんしんセンター」を開設したところ、相談者のうち単身世帯が約半数を占めたそうです。

「相談内容に死後事務や遺言、相続等の、死後の手続きに関する相談が多かった」ことで、安心した終末期を実現できる具体的な仕組みの構築が必要だと痛感。できるうちに、準備をしてもらうことを主眼に置いて、実施につなげたというわけです。

「これにより登録者の意思を的確に伝達し、希望に沿った終末期の医療や円滑な死後事務等の実現につなげ、本人の尊厳を守るとともに、今後の人生をより豊かで安心できるものにします」と豊島区のホームページではうたわれています。

登録可能な情報と、情報開示が可能な関係機関は以下のようになります。

登録可能情報と情報開示関係機関一覧
登録情報 登録申請者が登録できる情報 区が照会に対し開示できる情報
本人 後見人 警察・消防・医療機関 福祉事務所 照会可能な登録者
1 緊急連絡先
2 本籍 ×
3 通院先・アレルギー等
4 リビングウィルの保管場所
5 エンディングノートの保管場所 × ×
6 臓器提供の意思 × ×
7 献体登録先
8 死後事務委任契約や終活に係る生前契約等
9 遺言書の保管場所 × × ×
※豊島区公式ホームページより

開設開始以降、1ヵ月の相談件数は約20件。10人のスタッフが交代で対応しています。認知度アップに伴い、相談は増加傾向。申請件数は5月17日の時点で3件ですが、内容は自然に終活相談となるそうです。

豊島区終活あんしんセンターのスタッフは、次のように語っていました。

「登録の話を始めてご本人の緊急連絡先がなかったりすると、『任意後見はこういったもの』ですとか、『死後事務委任手続きはこういったものです』と説明して、それを誰に託していくのかを考えていただく、ということはあります。死後は誰がやってくれるのか、とか、先にエンディングノートを、という話になって、それも併せて相談に乗っている感じにはなりますね」

さらに、新事業立ち上げの裏事情も解説してくれました。

「昨年12月に豊島区のエンディングノートである『豊島区終活あんしんノート』ができあがりました。4人のプロジェクトチームが昨年2月に立ち上がった時点で、すでに構想はある程度ありました。こういうものをりたいという思いがありながら、社会福祉協議会のエンディングノートや、書店で販売されているものや、いろいろな自治体が出しているものを参考にして、必要なものをピックアップして作りました。介護、医療、相続、お墓の場所までひと通りの項目は入っていて、豊島区版ということで終活に関する連絡先を一覧にして載せています」

初版は2,000部(無料)。そのうちの約1,000部は区の広報誌を見た区民が取りに来たり、高齢者サロンや終活講演会などで配布され、あっという間になくなったそうです。

また、「ただ、もらうだけで手に取っておしまいになってしまうと終活の準備は何も進みません。もらった後に『書く』というところを後押しできるように、エンディングノート書き方講座などを開いて、活動につなげられるようにしていくことに、気を付けてはいます」と、終活を始めるサポートもしていくとのことです。

私が講師を務めている終活カウンセラー協会では、終活について、こう定義づけています。「人生の終焉を考えることを通じて、自分を見つめ、今をよりよく自分らしく生きる活動」。突然の病気や事故で意思表示ができなくなる前に「終活情報」をまとめておくことは、そのなかでも大事なことのひとつといえます。

元気のうちに終活に関する情報をまとめておく

終活情報登録事業の先駆けは神奈川県内の自治体

米ロサンゼルスほか世界各地に23,000人以上が散らばっている終活カウンセラー。そのなかには、地元の行政と深く関わって活動している会員も少なくありません。神奈川県逗子市在住の稲恵美子認定終活講師もその一人。逗子市発行の「ずしエンディングノート」の制作にも携わりました。

この逗子市も、令和2年の10月1日に終活情報登録事業をスタートさせています。担当者は「行政のサポートに期待する市民は多い。本人が元気なうちに、終末医療や介護の希望を書いた、“ずしエンディングノート”を逗子市が預かってくれていることがわかれば、遠く離れて暮らす家族も安心です」と、終活の広がりを話してくれました。

神奈川県内で先行している登録制度。その源流をたどると、横須賀市にたどりつきます。ここで先駆け的役割を果たしたのが、横須賀市役所の北見万幸さん。豊島区でも始まった終活支援事業について、次のように喜びを表現していました。

「2015年に低所得者向けの「エンディング・プラン・サポート事業」をスタートさせました。さらに2018年には0歳児以上の市民全員に向けた「わたしの終活登録事業」を後で開始したんです。終活支援事業を、行政、市役所本体でやっているのは横須賀が初めてなんだと思います。横須賀のコンセプトを知りたくて、全国から80ヵ所以上の議員の方が見えました。両事業のコンセプト通りにやってくれているのが、熱海、逗子、鎌倉です。今回、池袋を抱えている豊島区が始めてくれたことは、すごいことになってきたな、と思っています。23区に公認されたようなところがあって、うれしいです」
北見さん稲さん

北見万幸さんと稲恵美子さん(写真提供:稲さん)

いざというときに役に立つ登録情報

では、この制度を導入した北見さんの真意はどこにあったのでしょうか。北見さんは、こう明かしてくれました。

「今、身寄りのない高齢者は助けてくれる人がいないんです。身元保証会社、あるいは信用保証会社と契約していても、それが実際に動き出すのは、本人が倒れたり意思表示できなくなってしまった後です。そのときに本人は、もう文句言えない状態。だから、その契約内容が本当に履行されるかどうかの保証がない。つまり『やらずぼったくり』もできちゃう。それを防ぐ方法としては、監視する国の組織が必要だなとは思うんですけども、私は国の役人じゃない。市役所の役人として何ができるのかなっていうのを考え、それで2018年に作ったのが『わたしの終活登録』です。『私がその会社と契約してあります』ということを登録しておいてもらう。それでいざというときに警察とか病院とか福祉事務所とか、指定しているところからの問い合わせに、登録している契約先を答える形を取れば、本人が契約をした会社にも問い合わせが入る。この流れで、その会社には契約を実行してもらうのです」

2015年から2021年の3月31日現在までで、エンディングプランサポート事業の相談件数は、すでに累計1,150件あり、登録件数は105件(男性57件、女性48件)。身寄りのない横須賀市民で、65歳以上と限定された人のうち39人が、すでに亡くなっているとのことでした。市のお金で火葬することになる墓地埋葬法第9条の対象者に間違いなくなっていた人たちを、39件防止したということになります。

一方の「わたしの終活登録」は平成30年度からの事業で、令和3年度末までの相談件数が累積で1,187名。登録件数は512件です。「約1万1,000人が単身の高齢者ですから、5,000件は登録してほしいですね。コロナでだいぶ減ってしまいましたから」と北見さんは、話していました。

北見さんは最後に、こんなエピソードを披露してくれました。

「終活登録事業の、身元引受人がいないから登録してくれていた90歳のおじいちゃんからハガキの感謝状が来たんです。ぎっしり小さい字で書いてありました。心不全で救急車で運ばれて、ICUに入った時に『ご家族は?』とか『身元保証人は?』とか聞かれて、『いません』と答えたら『大変大変。入院できないよ』って言われたそうです。その時ふと思い出して、横須賀市の終活登録のカードを財布の中から取り出して『はい、これでどうですか』って言って見せたら、『はいはい、これでいいわよ』って言ってくれたんだそうです。市役所の連絡先と、山形県の姪御さんの連絡先しか書いてなくても、病院としては、どこかに連絡つけばなんとかしたいっていう気持ちがあるということ。『私は救われました』って書いてありました」

さらに北見さんは、こう言っていました。

『身寄りなし問題』っていうのは、まさにこの緊急入院の時にこそ起こるんです。自宅に来た救急車が、なかなか発進できないケースがあります。ひとつは病棟が空いてないっていう理由。もうひとつは『身元引き受け人はいるんですか?』って聞かれてる場合。そのふたつがクリアされないと、救急車は発進できない。でも、今回、それがなくても入院できるっていう、1つのスキームが示せたと思うんです」
緊急時にも役立つ登録情報

高齢化社会が進むにつれ、注目を集めつつある「終活のチカラ」。行政と終活の関わりも、ますます深まっていくことになりそうです。

関連記事
【レポート】「終活ができる寺」證大寺の画期的な試み。生前から遺族に託すラストレターが叶える幸せな最期
【レポート】「終活ができる寺」證大寺の画期的な試み。生前から遺族に託すラストレターが叶える幸せな最期

小川 朗
株式会社 清流舎 代表取締役
2024/02/02
「終活のチカラ」とは?お寺が果たす役割と、合同葬の広がりとともに増える「墓友」の実態
「終活のチカラ」とは?お寺が果たす役割と、合同葬の広がりとともに増える「墓友」の実態

小川 朗
株式会社 清流舎 代表取締役
2023/09/29

キーワードから記事を探す

#親の介護 #介護予防 #老人ホームへの入居 #介護保険サービス #看取り・終活 #高齢者の健康 #嚥下 #地域包括支援センター #介護食 #介護にかかるお金 #薬 #フレイル #仕事と介護の両立

住民と行政をつなぐ生活支援コーディネーターの3つの役割。地域包括ケアシステムの推進へ取り組む

!
記事へのご要望
お待ちしてます


この記事へのご要望、
お聞かせください

みんなの介護は皆さまの声をもとに制作を行っています。
本記事について「この箇所をより詳しく知りたい」「こんな解説があればもっとわかりやすい」などのご意見を、ぜひお聞かせください。

年齢

ご要望を
受け付けました!

貴重なご意見を
ありがとうございました。

頂戴したご意見は今後のより良い記事づくりの
参考にさせていただきます!

【まずはLINE登録】
希望に合った施設をご紹介!