『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』の著者であり、ケアラーサポートコミュニティー「よしよせての会」代表で、介護作家・メディア評論家として活動する奥村シンゴです。
日本ケアラー連盟では、仕事や学校に通いながら、親・祖父母の家族やきょうだいの世話などを日常的にする18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」、18歳以上の成年を「ケアラー」と定義づけています。
現在、自治体の支援は「ヤングケアラー」が中心ですが、「ケアラー」全体も含む取り組みが少しずつ広がっています。私は30歳過ぎから認知症の祖母と、ガン・精神疾患を患った母親を一人で9年介護する傍ら、執筆・講演・ケアラー支援活動をする身としてケアラー全体の支援を訴えています。
私が主催する「よしてよせての会」では、参加者が話し合った内容をまとめ、直接、国・自治体・政治家に伝えています。今回は、地元の兵庫県の事例を中心に、魅力的なケアラー支援をご紹介します。
(1)群馬県高崎市:ヘルパー派遣無料
群馬県高崎市は、2022年度から中学・高校生の家庭を対象に無料でヘルパーを派遣する事業を全国ではじめてスタートします。中高生の負担軽減を目的に、1日2時間、週2回までヘルパーを派遣します。
2020年度に国が実施したヤングケアラ―実態調査で、中学・高校生に「世話をしているためにやりたいけどできないこと」を尋ねたところ、「自分の時間がとれない」と回答した割合は中学生20.1%、高校生13.0%。「宿題や勉強する時間がとれない」が中学生16.0%、高校生16.6%。「友人と遊ぶことができない」が中学生8.5%、高校生11.4%に上ります。中高生が勉強やプライベートの時間が取れていない実態が浮き彫りになりました。
最近、ヤングケアラ―の相談やオンラインを中心とした交流窓口が増加傾向にありますが、直接支援する施策はまだまだ不足しています。
また、「時間がない」のは他のケアラーも同様です。今後は、年齢に限らず支援の拡張が望まれます。例えば、シングル・多重介護者で認知症や精神疾患など、要介護度が低くても負担が大きい場合、「低要介護者向けデイサービス」などの支援があってもいいのではないでしょうか。
私はワンオペ介護経験者ですが、要介護度が低いからといって介護に手がかからないわけではありません。祖母は認知症でしたが、要介護1のときから、近所の喫茶店へ行っては自宅の場所を忘れたり、ガスの火をつけ忘れたりする回数が増えていました。
精神的にピリピリしながら祖母をケアしたのを覚えています。このような状況を改善するためにも、年齢だけではなく「介護の重さ」で支援のあり方を考えてほしいと思います。

(2)埼玉県:ケアラーへのコロナウイルス対策
埼玉県は、ケアラーへの新型コロナウイルス対策を開設しました。ケアラーが、新型コロナウイルスに感染して入院などをする場合、要介護者の生活の場所を確保するため、特別養護老人ホームや障がい者施設を用意しています。
現在、高齢者は5ヵ所に20人、障がい児分は2ヵ所8人が用意されています。埼玉県の施策は、ケアラーへのコロナ対策として重要な視点だと考えられます。
こうした支援の充実により、ケアラーは病院などに入院できますし、自宅療養で心身の回復が望めます。そのおかげで、安心して生活を送れることでしょう。
これまでデイサービス・ケアマネージャーなどの介護サービスは要介護者に向けた要素が強く、ケアラーへのケアは不足していただけに、全国初のケアラー条例を制定した埼玉県のような施策が全国に広がっていくことを期待しています。
(3)兵庫県:独創的なケアラー支援施策
兵庫県は県や市町村単位で独自のケアラー施策を次々と打ち出し、積極的な支援を実施しています。
例えば、2021年6月に「子ども・若者ケアラー」相談・支援窓口を設置し、昨年の11月30日までに合計117件(子どもケアラー30件、若者ケアラー14件、そのほか30歳以上などからの相談73件)の相談があり、そのうち44件を具体的な支援に結びつけています。
さらに、明石市では認知症で在宅生活をしている人や家族に「認知症あんしんプロジェクト」と題した取り組みを展開しています。「認知症あんしんプロジェクト」の特徴は下記の通りです。
- 認知症の在宅生活者に2万円の給付金
- 認知症の在宅生活者とケアラーにあかしオレンジ弁当券20回分
- お試しショートステイ券(1回分)1泊2日(食費別)が無料
- 寄り添い支援サービス券(10回分)話し相手・外出時の付き添いなどのサービスが無料
そのほか、生活が困窮しているケアラーへの支援、ひとり親家庭などの自立支援、重度心身障がい者を介護する介護者に年間10万円を支給するなど、ほかの自治体にはない案が多数打ち出されており、今後さらに充実していくことが期待されます。
ヤングケアラ―とケアラーの双方を支援することは、理想的だと思います。しかし、それ以上に「ケアラーが本当に必要な支援を、いかに早く実行できるか」が重要ではないでしょうか。

詳しくは、近著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』(株式会社法研)にも書いています。読売新聞・神戸新聞・共同通信・マネ―現代(現代ビジネス)・介護専門誌日総研認知症ケアなど多数で紹介され、ジュンク堂ランキング1位を獲得しました。今、クローズアップされているヤングケアラーなどの若者介護問題とあわせて、ぜひご一読ください。