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第276回

芥川賞作家・高橋三千綱さんの在宅看取りに見る、介護される側の希望を叶えることの大切さ

最終更新日時 2021/11/19
#看取り・終活
こんにちは。終活認定講師でジャーナリストの小川朗です。今回は8月17日に亡くなった芥川賞作家・高橋三千綱さんの在宅での看取りについてお伝えしたいと思います。その在宅介護生活は、三千綱さんの愛妻・和子さんと愛娘・奈里さんに支えられてきました。その過程でさまざまな奇跡を起こしてきた高橋さんのご家族のインタビューをお届けいたします。

こんにちは。終活認定講師でジャーナリストの小川朗です。

今回は8月17日に亡くなった芥川賞作家・高橋三千綱さんの在宅での看取りについてお伝えしたいと思います。5月6日に退院後、3ヵ月と11日の在宅介護生活。その間、三千綱さんの愛妻・和子さんと愛娘・奈里さんの献身的なサポートがありました。

余命宣告にもへこたれない前向きな気持ち

高橋さんが肝硬変で余命4ヵ月を宣告されたのは11年前。しかしそれから、三千綱さんは次々に奇跡を起こします。肝硬変だけでなく糖尿病、食道がん、胃がんなどで、何度も余命宣告を受けながら、ゴルフやお酒を楽しんでいる姿を目にしました。

5月22日、自宅で取材に応じてくれた高橋さんは、4ヵ月の余命宣告を受けながら11年も余命を延ばせたことについて、こう話してくれました。

「病気を忘れちゃうことです」

三千綱さんは楽天的に生きることを、一番の理由に挙げていました。姉の三千子さんによれば、三千綱さんの口癖は「俺は奇跡を呼ぶ」だったそうです。和子さんもそれを受けて「内視鏡手術だけでなく、食道をバルーンで広げる治療は何度もやりましたから、辛かったはずです。やせ細っていくのも、無理はないですよね。そうした中で、生きる気力というのは、すごかったと思います」とうなずきました。

「一度は声が出なくなった時期もありました。お医者さんに『食道がんがひどくなっていて、この状態で声が出ないということは、もう(最期が)近いですよ。そろそろ身内の皆さんにも会わせておいた方がいいですよ』と言われて連絡しました」(和子さん)

ところがその後、病状は劇的に改善。すっかり声も出るようになったそうです。バルーンの治療を担当した医師のもとを、久しぶりの再診で訪れたときには、面と向かって『まだ生きてたんですか!?』と驚かれましたと言います。三千綱さんは、医師さえも驚くリカバリーを何度も実現したのです。

前向きな気持ちで過ごすうちに病状が劇的に改善

アメリカから一人娘が帰国

こうした奇跡の連続の裏で、奥様である和子さんの献身的な介護を見逃すことはできません。

「食道がんの手術をした後『これで5年は平気だけど、肝臓の状態が悪いから、もう長くないですよ』と(医師に)言われたんです。それが最初の告知でした。だったらもう、後悔のないように、できる分だけ何かしてあげようという気持ちになりました。食事くらいしかないですよね。朝に結構食べられるので、好きな和食を用意するようになりました」(和子さん)

この朝食を、三千綱さんは毎日楽しみにしていたそうです。手を付ける前のお膳の写真を、ご本人が何度も自身のSNSに上げていたことでも明らかです。写真は、友人たちからも「高級旅館の朝食みたい!」と絶賛されていました。好きな食事を毎日口にできる生活が、何度もやってくる余命告知を乗り越える大切な要素であったことは間違いありません。

一方で、和子さんはすぐに地域包括支援センターで介護手続きをして介護認定を受けています。本などで介護の勉強もしていきます。甥が介護関係者ということもあり、ケアマネさんやヘルパーさん選びにもアドバイスを受けることができ、在宅介護の体制は整いました。

「今年に入って腹水が溜まって、それが抜けなくなったんです。がんによる食道狭窄も始まり、病院に月一度通院。2ヵ月に一度、バルーンにより食道を広げる治療をしていただくようになりました」(和子さん)

しかし、4月には、その治療もできなくなります。

「だいぶ食道が固くなってきているため、これ以上すると破裂して大出血してそこで命がなくなるので、もうできない、と言われたんです。『うちの治療はもう限界ですから、ホスピスに行かれては』と勧められました。でも、もう入退院を何度も繰り返していますから、本人が『病院はもういやだ』と。先生には『相当悪いんで、とても在宅では無理ですよ』と言われましたが、ちょうどその頃、娘が帰国してくれたんです」(和子さん)

アメリカのロサンゼルスから一人娘の奈里さんが孫娘を連れて帰国した翌日、三千綱さんは吐血して救急搬送されます。10日間入院することになりますが、退院後は在宅介護を選択。その段階で娘の奈里さんも再渡米を見送ります。

「仮に戻ったとしても心配で、気になっちゃうし、戻れる状態ではなかったですね。娘にも『もう少しいるよ』と伝えました。娘にとっても、(祖父の死に)立ちあえたことは良かったと思います。いまだに『ミッチー、ミッチー(三千綱さんの愛称)』と言いますし」(奈里さん)

妻・娘との在宅介護生活がスタート

2階の寝室のすぐ隣に、通常の書斎と、時代劇を書くときに使う書斎があります。体調の良いときは、どちらかの部屋で執筆する日常を大事にしつつ、在宅介護がスタートしました。

「ヘルパーさんが午前と午後、主治医も土日以外はほぼ毎日、来てくれるようになりました。腹水も最初のころは2週間に1回、抜いていましたが、最後のころは3日に1回くらいになりました。その準備でバケツを用意したり、常に時間を見ながらお湯を沸かして、タオルを10本用意したりと忙しくなりました。腹水を取ると次の日は食事ができるのですが、また翌日になると溜まってしまい、食事ものどが通らなくなるんです」(和子さん)

三千綱さんにとって、望み通りの環境だったことは間違いないでしょう。和子さんは「犬がいて、金魚がいる1階の部屋で、テレビを見ながらゆっくり食事をとるのが好きでしたから」と言います。愛妻、愛娘、お孫さんに囲まれ、愛犬とも過ごすことができる環境は、在宅でこそ実現するものです。

ヘルパーや医師の訪問を受けて在宅治療を進める

その一方で、病状は進行していきました。

「夜、トイレに起きた後、つまずいて倒れて動けないようになりました。一人では起こせないので、娘と二人でベッドまで連れていくことが、ほとんど毎晩でした。睡眠不足になりますし、一人だったら、とても無理でしたね」(和子さん)

24時間体制で訪問看護も可能でしたが、深夜に呼んだのは「痰の吸引のため」の一度だけでした。

新型コロナウイルスのワクチンもしっかり2回接種しました。インタビュー時に「ワクチン打ったら、すごく元気になっちゃうかも」といたずらっぽく笑ったときの三千綱さんの笑顔が、今も私の目に焼きついています。

しかし最後の1ヵ月は階下に降りることも難しくなっていきます。その頃、三千綱さんは、和子さんに財産分与などの遺言を残していくようになります。

「『もう駄目だな』と何度か口にするようになっていましたから」(和子さん)

それでも、亡くなる10日前に「映画が見たい」と、公開したばかりの『ゴジラVSキングコング』を劇場で観ました。三千綱さんはあくまで前向きでした。

介護される側の希望を叶えることの大切さ

奈里さんは「死の2日前まで口から食事を食べ、私に『歩行練習をしたい』と訴えていました」と三千綱さんのフェイスブックページに書き込んでいます。その日、三千綱さんは、奈里さんに財産分与などの詳細を直接伝えたと言います。

「それでもう、近いのかな、と思いました。次の日からはもう、話せなくなりましたから」(奈里さん)

8月17日午後2時過ぎ。三千綱さんは、眠るように息を引き取ったそうです。在宅介護の大変さは、和子さんと奈里さんの言葉から、ひしひしと伝わってきました。しかし、それと同時に、お二人の顔には望んだかたちで看取れたことへの、ある種の安堵も伺えました。

終活カウンセラー10年の経験で、介護する側とされる側のコミュニケーション不足から、その後、後悔の念に悩まされるケースを何度も見てきました。介護される側の希望をできるだけ聞いたうえで介護のかたちを決めること。それが本当に大事であることを、和子さんと奈里さんが教えてくれました。

今年5月闘病中にも関わらず、筆者のインタビューに応じてくれた高橋氏。これがご本人にとって最後の仕事になった。今年5月闘病中にも関わらず、筆者のインタビューに応じてくれた高橋氏。これがご本人にとって最後の仕事になった。
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小川 朗
株式会社 清流舎 代表取締役
2020/07/01

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