こんにちは。デイサービスで看護師として勤務している、認知症LOVEレンジャーの友井川 愛です。在宅介護で奮闘しているみなさんに、看護師目線で認知症介護のポイントをお伝えしていきます。
現在、認知症について一般の方にも正しい知識と理解していただきたいと考え、みんなの介護さんの場をお借りしてコラムを掲載させていただいています。
第29回は「軽度認知障害(MCI)と、治ると言われている認知症」についてお話をしていきました。今回は「認知症の方からよく聞かれる質問」についてお話しさせていただきます。
認知症の方が食べたかどうかを覚えられない理由

皆さん、認知症の方との会話で、ご飯を食べたばかりなのに「ご飯、まだ?」という言葉を耳にしたことはありませんか?このようなことを、認知症の方は言う傾向にあります。
皆さんでしたら、何を食べたかは思い出せなくとも、ご飯を食べたことは思い出せますよね。私たちは食べた物を思い出せなくても、食べたことは思い出せます。しかし、認知症の方は食べたことそのものを思い出せません。なぜなら、認知症の方には記憶障害が起きているからです。
私たちは若い頃、たくさんのことをどんどん覚えられたはずです。しかし、歳を重ねるごとに少しずつ覚えにくくなります。これは認知症からくるものではなく、老化現象からなるものなんですね。
じゃあ、認知症の方はどうなるかというと、新しいことを覚えられなくなるのが特徴。だからこそ「何を食べたか」ではなく、「ご飯を食べたかどうか」を答えられないのです。そこで、このような認知症の方と、どのようにして関わればいいのかをご説明したいと思います。
認知症の方への対処法
例えば、ご飯を食べたばかりの、認知症のおじいさんがいたとします。でも、認知症の初期状態なのでご飯を食べたことを覚えておらず、奥さんに対して言いました。「ご飯まだ…?」と。
すると、おそらく奥さんは心の中で「いま、食べたばかりなのに。変なことを言い出してどうしよう」と思うはずです。もし、あなたが奥さんの立場ならなんと言いますか?
Aさん→「えーっ。さっき食べたじゃない?忘れたの?」
Bさん→「いま、作っている最中だから待っていてね」
さあ、皆さんはどちらが認知症の方には良い対応だと思いますか?基本的にはBさんのような対応が正解だと言われているのですが、Aさんが正解だと思われた方もいるかもしれません。
Aさん→「じゃあ、何を食べたかヒントを言ったらわかるでしょ?それに、食べたのは事実だから本当のことを言って何がいけないの?」
と、もしかしたらAさんのように思う人がいるかもしれません。たしかに、実際には認知症の方の中にはヒントを出せば思い出せることもありますが、ほとんどは思い出せないことのほうが多いとされています。皆さんはなぜだと思いますか?
なぜなら、認知症は覚えられない病気だからです。Aさんが言う通り、ヒントを出してもらったら、私たちなら思い出せるかもしれません。なぜなら、私たちは「かつて覚えていたこと」なら何かのきっかけで思い出すことができるからです。
しかし、認知症の方はそもそも覚えられないので、思い出すことは難しい。なので、私たちが認知症の方と関わるときには 私たちとの違いである記憶障害を正しく理解することがとても大事なんです。
同じ質問をされたとき、介護者はどうすれば?

先ほど説明したように、認知症の方は同じことを何度も言うことが多いです。これは、短期記憶の障害から起こる症状の一つなわけですが、介護者からすれば、そうとわかっていても何度も同じことを聞かれることは、ストレスとなるでしょう。
皆さんなら、何回までなら大丈夫そうですか?おそらく、2~3回聞かれた時点で「また?」と思うのではないでしょうか?よく、認知症の本やセミナーだと正しい関わり方として初めて聞いたように対応したり、丁寧に話を聞いてあげることが挙げられます。
確かにこの対応でも良いとは思いますが、これを続けてできるかというと、多くの方はストレスを感じてイライラしたり、優しく対応できなくなると私は思います。特に、私たちのように専門職として関わる場合は、仕事が終われば一旦、認知症の方と離れる時間ができます。
しかし、家族など介護者の方は、24時間365日ずっと一緒に過ごされるわけですから、同じことを一日何回も言われたらストレスが溜まって耐えられないかもしれません。
そこで、同じことを言われたら一旦その場を離れてみましょう。お風呂やトイレでも構いません。少しだけ、認知症の方と過ごさない時間を作ってみましょう。すると、介護者の方は離れたことで気持ちの整理ができますし、認知症の方も、その間に話題や興味が違うことに変わっていることがあります。
私は、認知症の方から20回ほど続けて同じお話をされたことがあるのですが、5回目くらいから返事の内容をいろいろ変えていました(笑)。すると、10回目くらいから、お相手から「さっきと返事の内容が違っている」と言われ2人で笑ったことがあります。気を張ってずっと介護をしていると、介護者が参ってしまうので、時には肩の力を抜くことも大切です。最後に、絶対にしてはいけない対応方法をお話しします。
認知症の方にやってはいけないコミュニケーション
認知症の方は、私たちよりもはるかに感受性が強いです。なので、何度も言ったことに対して注意したり、責めるような言い方をしたりすると、認知症の方は言われた内容は覚えていなくても不愉快に感じたこと、注意されたことは記憶に残ります。
こうした感情はずっと覚えているので、後に同じような状況になったときに認知症の方が情緒不安定になる可能性があります。なのでどうか皆さん、認知症の方にこのような対応だけはされませんようにお願いします。
次回は「認知症基本のき・お金を盗まれた」のケースでお話しします。