こんにちは。
一般社団法人元気人の向川誉です。
当法人では、認知症ゼロ社会の実現を目指して、地域の認知症予防活動をサポートする「認知症予防活動支援士」の育成と支援に力を入れております。
現在、日常生活のあらゆるシーンで「デジタル化」が進んでいます。
パソコンやスマホなどのデジタル端末も、今ではビジネス層だけでなく、子どもから高齢者まで全世代が手にするようになりました。
「パソコンやスマホなしで生活してください」と言われたら、多くの人は生活に支障を来すのではないでしょうか。
認知症の特徴は、脳の認知機能の低下によって、日常生活のさまざまなシーンで支障を来すことです。
私たちの日常生活にデジタル化が深く関係していることを踏まえると、認知症予防とデジタルを結びつけて考えることは興味深いテーマです。
今回は、パソコンやスマホなどのデジタル端末が、認知症予防とどのような関係があるのかをみていきたいと思います。
パソコンの使用頻度が高い人ほど、軽度認知障害の発症リスクが低かった
米国の総合病院「メイヨー・クリニック」などの研究者たちは、アメリカに住む70歳以上の2,000人を対象に、脳に刺激を与える活動が、軽度認知障害(認知症の前段階、MCI=Mild Cognitive Impairment)の発症リスクとどのような関係があるのかを調べました。※
※参考 Krell-Roesch J, et al. Neurology. 2019 Aug 6;93(6):e548-e558.
参加者は、50〜65歳の中年期と66歳以降の高齢期それぞれに、脳に刺激を与える5種類の活動(読書、パソコン操作、社会参加、トランプやクロスワードなどのゲーム、裁縫や陶芸などのクラフト作業)をどのくらいの頻度で行っていたのかを回答しました。
研究者らの報告によると、中年期にパソコンを使用していた人は、中年期以降パソコン操作をしていなかった人と比べ、MCI発症リスクが48%低下し、高齢期に使用していた人で30%、中年期から高齢期まで継続して使用していた人では37%低下していることがわかりました。
ちなみにこの研究は、ある条件でグループに分けた対象者を一定期間観察して、グループ間にどのような違いが生じたのかを調べたものになります。
そのため、この研究だけで「脳に刺激を与える活動=有効な認知症予防法」と断言できない面はあります(別の要因でこの結果が生じた可能性もある)。
しかし、パソコンやスマホなどのデジタル端末を日常的に使用することは、以下の点で認知症予防につながると考えられます。
新しいことを学習すると、脳への刺激になる
慣れたことに取り組むよりも、新しいことを学習する方が、認知機能の強化につながるとする研究報告があります。
新しいことを学ぶときは、失敗するたびにうまくできる方法を考えようと脳に負荷がかかります。
この負荷が脳への良い刺激となって、頭を鍛えることにつながるというのです。
例えば、筋トレの際、250mlのペットボトルを何回も上げ下げしても、筋肉はあまりつかないことをイメージしてみてください。
やはり筋肉をつけたかったら、回数よりもある程度の負荷が必要なように、頭を鍛えるにもある程度の負荷が必要。
その負荷とは「新しいことを学ぶこと」なのです。
パソコンやスマホなどのデジタル端末を使いはじめた人にとっては、一通り操作を覚えて使いこなせるようになるまではなかなか大変だと思います。
デジタル端末の使い方を覚えようとして脳に汗をかいている状態は、認知症予防につながる面もありますので、楽しみながら取り組んでみてください。
脳をフル活用する「人とのコミュニケーション」を促進する
パソコンやスマホなどのデジタル端末を使う目的のひとつは、家族や友人たちとのコミュニケーションです。
コミュニケーションツールの代名詞でもあるSNSは、以前は若者が使うものというイメージがありましたが、現在は使いこなしている高齢者も少なくありません。
何気ないコミュニケーションにも、相手の発言内容を覚えて理解しようとしたり、相手の表情を見て使う言葉を選んだりなど高度な作業が含まれており、脳の認知機能をフル活用しています。
また、社会的な孤独感は、早死や依存症、うつなどの病気につながるほか、将来の認知症リスクを高めることが指摘されています。
つまり、デジタル端末を使うことで、コミュニケーションの量が増えたり、充実したりするのであれば、コミュニケーションそのものが脳を刺激することに加えて、孤独感という認知症リスクを小さくすることにもなり、結果として、認知症予防につながると考えられます。
健康に良い生活スタイルを習慣化できる
「脳の老化」が認知症を招いているため、脳の健康を保つことは脳の老化を遅らせることになり、認知症予防につながります。
しかし脳の健康維持には、運動や食事、禁煙など生活スタイルの改善が不可欠です。
ただ、自分の意思の力だけで生活スタイルを見直すのはなかなか大変です。
人生100年時代になり、健康であることの価値が大きく注目されている今、健康習慣をサポートするさまざまなサービスやアプリが提供されています。
例えば、一日の活動内容をアプリに記録すると、食事内容を元に栄養管理士からアドバイスがもらえたり、一日の活動量をグラフで表示してくれたりなど、健康管理をアシストしてくれるものがあります。
自分の意思に頼っていたときはなかなか続かなかった健康習慣も、こうしたサービスやアプリを利用することで習慣化できたという話はよく聞きます。
パソコンやスマホを使えると、これらのサービスやアプリを利用することができ、自分自身や家族の健康習慣の改善につなげることができます。
物忘れなどから生じる「日常生活の困りごと」が軽減される
認知症で問題となるのは、脳の認知機能の低下にともない、生活機能が障がいされることです。
認知症になったからといって、何もできなくなるわけではありませんが、今日の予定が思い出せない、お金の管理ができない、道に迷ってしまうなど、日常生活の困りごとで悩む方は少なくありません。
通常、加齢に伴う視覚の衰えは「老眼」として、聴覚の衰えは「老人性難聴」として知られており、そのままの状態で過ごすのであれば、生活機能に影響が出ます。
ですが、老眼鏡や補聴器のような低下した身体機能を補う器具を装用することで、生活機能の障がいを軽減することができます。
脳の認知機能の場合でも同様に、道具や機器を活用することで、認知機能の低下を補うことができます。
そのなかでも、パソコンやスマホなどのデジタル端末は、日常生活のさまざまなシーンで活躍してくれます。
パソコンで登録した予定をスマホで確認することができますし、時間が来たらスマホのアラートを鳴らして、うっかり忘れを防ぐこともできます。
また、写真を撮っておくことで、いつどこで何をしていたのかも確認しやすくなります。
キャッシュレス決済でしたら、小銭がじゃらじゃらと貯まることがありませんし、利用履歴も簡単に確認できます。
道に迷ってしまった場合も、スマホの地図アプリを活用すると、現在地がすぐに確認できるほか、カーナビのように音声で道案内もしてくれます。
また、自分なりにデジタル端末の使い方を工夫することは脳を鍛える訓練にもなります。
最後に一言
今までパソコンやスマホなどのデジタル端末に慣れ親しんでいなかった人にとっては、これらの使い方を学んだり、日常生活に取り入れる工夫を考えたりすることは、脳を刺激して頭を鍛える訓練になります。
頭を鍛えて脳の認知機能の蓄えができると、その分、認知機能の低下により日常生活に支障が出る時期、つまり、認知症を発症する時期を遅らせられることになります。
また、今回取り上げました研究によると、高齢になってからパソコンやスマホなどを使い始めたとしても効果が期待できるため、始めるのに遅すぎることはない点も見逃せません。
脳の認知機能に低下がみられたとしても、デジタル端末を活用することで、その低下した分を補って、日常生活に支障を来さないようにすることもできます。
2020年を迎えて、何か新しいことにチャレンジしたいと考えている方。
今年はパソコンやスマホに取り組んでみてはいかがでしょうか。