こんにちは。一般社団法人元気人の向川 誉です。
当法人では、認知症ゼロ社会の実現を目指して、地域の認知症予防活動をサポートする「認知症予防活動支援士」の育成と支援に力を入れております。
みなさんは子どもの頃、「絵本の読み聞かせ」をしてもらったことはありませんか?
幼少期に両親に読んでもらったという方もいれば、絵本ではないけれど、紙芝居屋さんから読み聞かせをしてもらったという方もいるかもしれませんね。
現在、絵本の読み聞かせをする団体として、世代間交流プロジェクトのNPO法人「りぷりんと・ネットワーク」が組織化されており、当記事を執筆するにあたって取材をさせていただきました。
今回は「絵本の読み聞かせプログラム」をご紹介しながら、認知症予防につながるポイントをみていきたと思います。
「絵本の読み聞かせプログラム」が注目されている背景
2019年6月、政府は認知症に関する施策について、今後の方針を発表しました。
これまでは、認知症になっても地域で安心して暮らせる「共生」が軸でしたが、認知症の発症や進行を遅らせる「予防」を加えて、二本柱でいくことが決定したのです。
共生は「社会参加と仲間づくり」、予防は「効果が高い活動を長く続けること」が重要なカギ。
この両方に効果的な活動として、「絵本の読み聞かせ」に注目されだし ています。

「絵本の読み聞かせプログラム」とは?
「絵本の読み聞かせプログラム」とは、東京都健康長寿医療センター研究所(東京都板橋区)が提唱・実施しているプログラムです。
プログラムの参加者は、インストラクターによる講習会を受講し、心構えやスキルを身につけてから、絵本の読み聞かせを行います。
このプログラムの修了者が有志で集まって組織化されたのが、先ほどご紹介したNPO法人「りぷりんと・ネットワーク」で、首都圏を中心に読み聞かせの活動を行っています。
具体的な活動内容について、同法人の理事長である松島康夫さんに話を伺いました。
参加者は原則60代以上のボランティア。子育てを終えた主婦や退職後の男性など、地域で生活する人たちが行政の広報誌を読み、応募するケースが多いようです。
自宅で子どもや孫に対して行う絵本の読み聞かせとは異なり、幼稚園、保育園、小中学校、福祉施設などのさまざまな場所で1対多の形式で行われます。
また、通常は聞き手側からテーマ(四季、家族、いのちなど)が指定されるため、話し手が読みたい絵本ではなく、指定されたテーマに沿った絵本を選定して、読み聞かせをします。
一冊の読み聞かせにかかる時間は3~10分ほどです。ただ、読み聞かせの実演で聞き手に絵本の内容が十分に伝わるように読むためには、入念な準備と練習が求められます。
認知症予防にとって重要な要素
この準備と練習にこそ、認知症予防にとって重要な要素が含まれています。
それでは、読み聞かせにはどのような認知症予防の要素が含まれているのか、活動の流れとともにみてみましょう。
1.絵本の吟味・選択
感性をみがく、知的活動、身体活動
2.読む練習
五感を刺激、言語機能、記憶力
3.読み聞かせの実演
社会参加、緊張感、視覚機能、注意・実行機能
4.反省会
良好なコミュニケーション、反省からの学び、仲間づくり
このように、高齢者が絵本の読み聞かせをすることには、社会参加やコミュニケーション、知的活動や適度な緊張感など、認知症予防に役立つ要素がふんだんに含まれているのです。

東京都健康長寿医療センター研究所がプログラムの効果を科学的に検証したところ、記憶力を司る海馬の萎縮を抑える可能性があるとわかりました。
また、別の調査では、参加者には記憶力アップの効果があり、記憶したことを覚えている状態を継続しやすいこともあきらかになりました。
もちろん、絵本の読み聞かせ活動により、一旦低下した認知機能が回復することまで保証されたわけではありません。
しかし、記憶機能は日常生活のさまざまなシーンを支えているだけに、新たな認知症予防の取り組みとして期待できます。
また、絵本の読み聞かせの活動はグループで行います。
そのため、仲間づくりができるほか、地域ネットワークの窓口になったり、他の介護福祉・児童生徒の支援ネットワークとの連携のきっかけになったりなど、社会とのつながりも広がっています。
認知症予防に大切な「継続」しやすい要素も
テレビ番組や雑誌などではさまざまな認知症予防が提唱されていますが、認知症予防では「何」をするかよりも、「続く」ことが大切になります。
高い効果が期待できる予防法でも、それが続いてこそ、はじめて効果が期待できるのです。
1.読み聞かせは“飽きにくい”
頭では「認知症予防によいこと」と理解できていても、自分のやっていることが「楽しい」と感情がついてこなければ、続けることはなかなか難しいものですよね。
絵本の読み聞かせには、絵本の名作が多数存在しているのに加えて、新刊も次々に出版されており、活動が飽きにくいという利点があります。
今回お話を伺った、りぷりんと・ネットワークの松島さんは、「読み聞かせの実演後には、課題が見えるため、常に新しい学びがあり、奥深い活動です」とおっしゃっており、活動自体に面白さを感じている人も少なくないようです。
2.読み聞かせは“高齢者でも行いやすい”
読み聞かせの活動は生活に根付きやすく、高齢になっても続けやすいことが、活動が長続きする要因になっています。
例えば、高齢で長時間立つことが難しくても、椅子に座りながら対応するなど、工夫次第で長期的に活動を続けられるのも、この読み聞かせの魅力のひとつ。
3.読み聞かせは“貢献ができる”
さらに、読み聞かせには、自分のための認知症予防としてだけでなく、人の役に立つといった目標があります。
また、実演後は子どもたちから「また来てね」と反応がその場で返ってくるなど、モチベーションが上がりやすいしくみとなっており、この点も見逃せないと思います。
読み聞かせのグループ内でも、自分の役割が与えられることによって、「みんなの役に立っている」という実感を持ちながら働くことができます。
このように、活動が長続きできる要素がたくさんあるため、その分、認知症予防が期待できることになるのです。

世代を超えた認知症予防の効果が期待できる
絵本の読み聞かせでは、聞き手が子どもたちの場合、子どもたちの将来の認知症予防に役立つのではと考える研究者もいます。
読み聞かせでは、言語機能が刺激されたり、読書好きになったりと、子どもたちの言語能力の向上に好影響を及ぼすと考えられています。
また、視覚に頼りすぎている現代社会において、子どもたちの活字離れが問題視されています。
読み聞かせは活字文化に興味を抱くきっかけになったり、聴覚を主としたイメージトレーニングになったりなど、教育面での効果も期待できます。
若い頃の言語機能が、高齢になったときの認知機能に影響することが研究調査からわかっています。
言語能力が高まることで、読み聞かせを受けていた子どもたちの将来の認知症予防につながるのであれば、日本の認知症対策もさらに進むものと思われます。
「りぷりんと・ネットワーク」では、全国的に活動の輪が広がるように取り組みを行っています。
現状としては、絵本の読み聞かせの方法を学べる講座は、首都圏を中心とした一部の自治体だけの開催となっており、関心・興味がある人が誰でも受講できるという体制までは整っていません。
ただ、自分が住む自治体にそうした講座がなくても、絵本の読み聞かせ活動を自身で行う方法はあります。
図書館や育児関連施設でのボランティアが募集されていれば、それに応募するのもひとつの手でしょう。
最後に一言
以上、「絵本の読み聞かせ」についてみてきました。
絵本の読み聞かせでは、自分のためにはじめた認知症予防活動が、地域に貢献する社会参加活動につながっており、認知症対策の「予防」と「共生」という二本柱を構成するひとつになると期待されています。
また、絵本の読み聞かせは世代を超えて認知症予防につながる可能性もあります。
これからの認知症予防は、読み聞かせのように「自分の予防活動が、周囲の予防活動にもつながるか」、さらには認知症の人をはじめ、子供から高齢者までの「さまざまな人々との共感・共生につながる」という視点も大事になってくると思います。