こんにちは。デイサービスで看護師として勤務している、認知症LOVEレンジャーの友井川 愛です。
認知症の症状が中等度になってくると、食事のときにお箸やスプーンを使わず、手づかみで食べてしまう方がいます。
今まで普通にお箸を使えていた方が、いきなり手づかみで食べ始めてしまったら、一緒に暮らしているご家族はショックを受けるかもしれませんね。
ただ、ここで理解してもらいたいのは、一番ショックを受けているのは本人だということです。
では、どうして手づかみで食べる行為が起こるのか考えてみましょう。
手づかみで食べてしまうのは"失行"の状態
認知症の症状が進行していくと、今までできていたことができなくなります。そのなかでも手足の麻痺などもないのに、日常生活動作ができなくなる障がいは、「失行」と呼びます。
そして、使い慣れた道具を使えなくなることは、「観念性失行」に分類されます。
大脳の頭頂葉に障害が起こって、このような症状が起こるのです。
本人の気持ち
認知症の方自身も、自分がお箸が使えないことに困っており、情けない気持ちになっています。
そして、その気持ちを言葉に出せないので、苦肉の策として手でつかむという行為に繋がっていくのです。
注意すべきこととは?
目の前で認知症の方が手づかみでご飯を食べてしまったら、つい「なんで箸をつかわないの?」「手でたべるなんて汚いでしょ」などと、強い口調で言ってしまうことがあるかもしれません。
こうした家族から責められるような言葉を投げかけられると、本人の心は傷つき、自尊心の喪失につながることがあります。
それでは、どうしたら良いのか?ということですが、まずは、観察してみましょう。
今まで使えていた箸を使えないのはなぜか?手に障害があるか?
手に障害がないのなら他に原因があるのではと考えられますね。
手づかみの行為をする前に、箸を1本だけ使用して食べようとしたり、箸が上下逆だったりした場合は、認知症の症状かもと考えてください。
また、箸が使えないみたいだからと、スプーンに安易に変えてしまうことについて、私は「違うかな」と考えています。 高齢者の方は元々、習慣として箸のほうが使いやすい方が多いのです。
そのため、使い方が分からないだけだと考え、まずは箸の持ち方などを伝えてみると良いのではと思います。
本人に安心してもらえる工夫をしてみましょう
本人のプライドを傷つけないためにも食事を工夫してみましょう。
箸が使いやすいくらいに食材の大きさをカットしたり、手で食べても大丈夫なパンやおにぎりにして提供するなどです。
もちろん、その際にはしっかりと手洗いが必要となります。
手づかみの方の事例と対応方法
それでは、80歳男性のAさんの事例を基に、認知症の方が手づかみで食事してしまった場合の対応方法についてお話していきます。
Aさんは、長男Bの家族と同居していました。
Aさんに少しずつ年相応の物忘れはみられていましたが、目立った症状はありませんでした。
そのため、Bさんや家族は物忘れについて特に気にしていませんでした。
しかし、いつものように一緒に食事をしていたときに突然、失行は起こりました。
いきなり手づかみになった父に家族は驚愕
息子のBさんは、Aさんがいつもと様子が違うことに気づきました。
目の前に食事があるのに、なかなか食べようとしないAさんを不思議に思ったBさんは、「父さん、どうしたの?食べないの?」と尋ねました。
それでもAさんは、「うーん」と気のない返事をするだけ。
Bさんが体調でも悪いのかと心配していたそのとき、Aさんは突然、手づかみで目の前にあったサラダを食べ始めたのです。
家族は、Aさんが手づかみで食べたことに驚きました。
Bさんが「何してるんだ。父さん。なんで手づかみで食べてるんだ」と責めるように言うと、Aさんはバツが悪そうな顔になりました。そして何も言わず、自分の部屋に戻ってしまいました。
Aさんは自分が箸を使えなくなり、どうして良いか分からず、手づかみで食事をしたのです。
そして、それを息子に叱られたことで、自尊心を傷つけられたことにショックを受けてしまいました。
それからAさんは、家族と一緒に食事をすることを嫌がるようになりました。
家族は話し合いAさんが箸を使えなくなったことがわかったものの、どう対応したら良いか分からないため、担当ケアマネージャーに相談しました。
手づかみで食べることができる食事に
するとケアマネージャーから、食事のときに手づかみで食べても気にならないように、おにぎりやトーストなどを主食で提供することをすすめられました。
さらに、食材はAさんが箸で食べやすいように、少し大きめにカットするアドバイスも貰いました。
Aさんの家族は早速、アドバイス通りの食事を提供することにしました。
家族が食事に誘うと、最初は嫌がっていたAさんでしたが、再三の誘いに応じて一緒に食事をすることにしました。
このときの献立はサンドイッチだったので、家族も同じように手づかみで食べます。
そのため、Aさんは安心して食事することができたのです。
それからは食事内容に工夫して、Aさんが食べやすいように注意しながら、家族は対応するようになりました。
最後に一言
ここで良かったのは、Aさんだけでなく家族も同じ“箸を使わない”状態で、食事を食べたということです。
家族と同じように食事できることで、羞恥心や孤独感がなく、ストレスを感じずに食事することができますよね。
認知症の方にとってストレスは、症状を進行させる要因になります。
失行という状態にいる本人の気持ちを考え、寄り添って接することが大切になります。