自分ではそんなことをやっていないと思っていても、実は「虐待」にあたるというケースがあります。
介護は介護者に負担がかかるものですが、虐待することがあってはなりません。
今回は事例をもとに虐待の予兆を察知するためのノウハウをご紹介いたします。
虐待の分類
まず虐待にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。
一般的に虐待には以下の5種類があるとされています。
- ①身体的虐待
- 暴力的行為によって体に傷やアザ、痛みを与える行為や外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為
- ②心理的虐待
- 脅しや侮辱などの言葉や態度、無視、嫌がらせ等によって精神的に苦痛を与えること
- ③性的虐待
- 本人が同意していない、性的な行為やその強要
- ④経済的虐待
- 本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限すること
- ⑤介護・世話の放棄や放任(ネグレクト)
- 必要な介護サービスの利用を妨げる、世話をしない等により、高齢者の生活環境や身体的・精神的に状態を悪化させること
特に在宅介護の中で多い事例としては、同居している子が介護疲れなどによって「身体的虐待」を行うというケースです。
実際にあった虐待事例
私が実際に担当した虐待のケースをご紹介いたします。
【事例1】別居している家族が生活保護費を持っていく
生活保護を受給している高齢夫婦の事例です。
夫のAさんは要介護認定を受けていませんが、妻のBさんは要介護2の認定を受けていて、精神科の訪問看護を受けています。
同じ市内の他区に家族が住んでいるのですが、その方も生活保護を受けています。
毎月保護費の支給日になると家族がやってきて、もらった保護費のほとんどを勝手に持っていってしまいます。
Aさんはいつも「お金がない」といって、妻に必要な介護サービスを受けさせることができず、食費も最低限度に切り詰めて生活していたため、栄養状態が偏っていました。
Aさんは生活保護を受けているので、介護サービスの費用については保護費で見てくれることを何度も説明して、ようやく週に1回の訪問介護を受け入れてもらえるようになりました。
【事例2】同居する息子が要介護者を罵る
次は心理的虐待のケースです。
「要介護2」の男性Cさんは、妻と離婚しており、精神障がいのある長男と、複数回逮捕歴のある次男の3人で生活をしていました。
離婚したとはいえ、妻もときどき3人が暮らしている部屋に訪問してきていました。
Cさんは当初、施設で生活をしていたのですが、次男の強い希望により施設を退所して、本人・長男・次男の3人で生活するようになりました。
3人で生活するようになってから、Cさんに対する次男からの罵声がひどくなり、精神的に追い込まれていきました。また、次男の金品搾取もひどくなり、食費も最低限に切り詰めていたので、栄養の偏りも見られました。
最終的には、次男は再度逮捕され、成年後見制度を利用して金銭管理等を行うことになりました。
この2つのケースで共通しているのは、金品搾取や精神的苦痛を与えるといったものです。

ケアマネージャーや相談窓口を活用する
こうした虐待を未然に防ぐためにどうすればいいのでしょうか。
まずは担当しているケアマネージャーがいれば、家族が胸の内を明かすことが大切です。
ケアマネージャーは介護保険制度のプロなので、介護サービスを利用することで家族の負担を軽減させる提案もします。
例えば「デイサービス」を利用すれば、日中の介護負担を減らすことができます。また「ショートステイ」を利用すると、何日かは介護を休むことができます。
経済的に不安がある場合は「高額介護サービス費」や「高額介護合算療養費」などといった負担軽減制度の活用を支援できます。
ショートステイや施設入所をする場合は「介護保険負担限度額認定証」の交付を受ける申請を行えば、施設サービス利用時の食費と居住費を抑えることが可能です。
担当しているケアマネージャーがいない場合は、各市区町村役場の介護保険の窓口や地域包括支援センターに相談しましょう。
介護の問題は、1人で抱え込まず誰か身近な人に相談をする。これが大前提です。
誰かに相談することで、精神的な負担が軽くなる場合も多く、虐待を防ぐ一助になります。
また、ケアマネージャーが虐待事例を発見した場合、速やかに各市区町村の相談窓口に通報します。もしご家族や周囲で虐待が疑われる方がいる場合は、ケアマネージャーもしくは各市区町村の相談窓口にご相談ください。
