「歳のせいか、歩行時に最近ふらつくようになった」と感じる方は、もしかしたらバランス能力が低下しているかもしれません。
歩行を安定させるには筋力も重要ですが、バランス能力も同じように大切です。
本記事では、バランス能力を高めるメリットや、自宅でもできるトレーニング内容についてご紹介します。バランストレーニングを実践することで身体の安定性が高まり、歩くときの転倒予防につながるでしょう。
バランス能力とは?
バランス能力とは、止まっている状態あるいは動いているときに、姿勢が崩れないようにキープする力のことを指します。バランス能力は、おもに以下の3つの要素によって決まるとされています。
- 感覚系:触覚や視覚などによるもの
- 中枢系:バランスを保つように、脳から送られる司令によるもの
- 筋力系:筋肉によるもの
これらの要素がうまく組み合わさることで、身体のバランスを保っているのです。しかし、いずれかの要素が弱まるとバランスが崩れやすくなり、転倒のリスクが高まります。とくに高齢者は、3つの要素のなかでも「筋力」が重要であるとされています[1]。
バランス能力をチェックするための評価
実際に、自分がどのくらいのバランス能力があるのかチェックしてみましょう。気軽にバランス能力を評価できる方法として、「片足立ちテスト」があります。片足立ちをして、どのくらいの時間を保てるかをチェックする方法です。
以下に当てはまる方は、バランス能力が低下している可能性があります[2]。
- 目を開けた状態で、片足立ちを保てる時間が30秒以下
- 目を閉じた状態で、片足立ちを保てる時間が10秒以下
両方の足を計測して、バランス能力がどのくらいなのか評価してみましょう。
バランストレーニングを行うメリット
バランストレーニングを行うことでバランス能力が向上し、転倒予防が期待できます。また、トレーニングによって体幹や下肢の筋力を鍛えると、姿勢にも好影響を与えるでしょう。キレイな姿勢を維持できれば、身体に余計な負担がかかりにくくなり、肩こりや腰痛の軽減につながります。
このように、筋力トレーニングやストレッチなども重要ですが、バランストレーニングも同じように行うべき運動と言えます。
それでは自宅で行えるバランストレーニングの内容をみていきましょう。道具を使用するときと、使用しないときのトレーニング内容をご紹介します。
道具を使用しないバランストレーニング
まずは、道具を使用しないバランストレーニングについてご紹介します。
【ヒップリフト】
ヒップリフトは、股関節まわりの安定性に関わる「大臀筋(お尻の筋肉)」のトレーニングです。寝た状態で行えるので、バランスが悪い方でも安全に行えます。
- あお向けになって両膝を立てる
- 膝から体幹までがまっすぐになるようにお尻を上げる
- お尻を上げた状態で5秒間キープして元に戻す
- ②~③の手順を10セット行う
【サイドステップ】
サイドステップは、横方向の安定性を高める「中臀筋(お尻の横側の筋肉)」のトレーニングです。
- 立った状態で前を向いたまま片足を横方向に踏み出す
- ゆっくりと元に戻す
- 反対の足で横方向に踏み出す
- ゆっくりと元に戻す
- ①~④の手順を10回×2セット行う
【ランジ】
ランジは下半身の筋肉のトレーニングになるだけでなく、体幹のブレの防止につながります。実施中によくふらつく方は、足を踏み出す距離を調整してみましょう。
- 立った状態で片足を前に踏み出す
- ゆっくりと元に戻す
- 反対の足で再び前に踏み出す
- ゆっくりと元に戻す
- ①~④の手順を10回×2セット行う
道具を使用するバランストレーニング
バランスを鍛える道具を使用したトレーニング内容についてご紹介します。
【バランスディスクを使用したスクワット】
バランスディスクとは、空気の入った円盤上の形をした道具です。
バランスディスクの上に乗ることで、不安定な状態をつくりながらトレーニングができます。
- 立った状態で足を肩幅程度に開く
- バランスディスクの上に足を乗せる
- 両膝をゆっくりと曲げる
- ゆっくりと元に戻す
- ③~④の手順を10回×2セット行った後、反対の足で同じ内容を行う
【バランスボールを使用したリーチトレーニング】
バランスボールとは、サイズの大きいボールのことです。
バランスボールに座って不安定な状態でトレーニングすることで、バランス能力の強化につながります。
- バランスボールに座って背筋を伸ばす
- 両手を前に出す
- 背筋を伸ばしたまま身体を前に傾ける
- ゆっくりと戻す
- ③~④の手順を10回×2セット行う
【ストレッチポールを使用した足の運動】
ストレッチポールとは、円柱の形をした道具です。
ストレッチポールの上に乗ることで、バランストレーニングだけでなく体幹のストレッチ効果も期待できます。
- ストレッチポールの上にあお向けの状態で乗り、両膝を立てる
- 身体のバランスを保ったまま、両膝を広げる・閉じる運動を行う
- それぞれ10回×2セット行う
今回紹介したトレーニング内容や回数は一例なので、無理なく行えるように調整してみてください。
バランストレーニングをする際の注意点
バランストレーニングでは、いくつかの点に注意しないと怪我をしたり、効率的な運動ができなかったりする恐れがあります。それではバランストレーニングでの注意点についてみていきましょう。
転倒に注意する
バランストレーニングでもっとも注意したい点は、転倒によるケガです。バランストレーニングは内容の関係上、不安定な環境で運動をする必要があります。そのため、ほかのトレーニングよりも転倒の可能性が高いといえます。
バランストレーニングをする際は、転倒対策が整っている環境で行うことが重要です。以下のような対策をとって、転倒予防に努めましょう。
- すぐにつかまれるように、手すりや壁に近い場所で行う
- 物が散乱していない部屋で行う
- 床に滑り止めを敷いておく
- 道具を活用する際は危険な使い方をしない
最初は難易度の低い内容からはじめる
いきなり難易度の高いトレーニングをすると、転倒の危険性も高まり、継続が困難となる恐れがあります。まずは簡単な内容のトレーニングから慣らして、そこから少しずつ可能な範囲で難易度を高めていきましょう。
また、調子にあわせてトレーニング内容を柔軟に変更することも大切です。「いつも通りにいかない」と感じたらトレーニング内容を軽減するなどの調整をおすすめします。運動は継続することが重要なので、無理のない難易度でトレーニングを続けていきましょう。
筋力トレーニングも並行して行う
高齢者の場合は、バランストレーニングだけでなく、筋力トレーニングも並行して行うと良いでしょう。若い方は十分な筋肉量があるので、バランス能力を高めるのにそこまで筋力トレーニングは重要視されません。
一方、高齢者は加齢によって筋力が衰えてくるので、バランス能力を低下させる大きな要因につながるとされています。実際に、高齢者が筋力トレーニングを行うことでバランス能力の向上がみられ、転倒の回数が減少したという報告もあります[1]。高齢者がバランストレーニングを行う際は、筋力トレーニングも一緒に行ってみましょう。
バランストレーニングで転倒予防をしよう!
バランス能力は、普段の生活や歩行を安定して行うための重要な要素です。
身体のふらつきがみられる方は、バランストレーニングを行って歩行時の転倒予防に努めていきましょう。
また、筋力トレーニングも並行して行えば、よりバランス能力の向上につながります。バランストレーニングは不安定な状態で行う内容が多いので、怪我には十分に気をつけて実施してください。
【参考文献】
[1]厚生労働省|バランス運動の効果と実際-e-ヘルスネット
[2]理学療法評価学 改訂第4版 松澤 正、江口 勝彦