自宅にいるからといって安全とは限りません。実は高齢者の事故が最も多いのは家の中なのです。
そこで、家の中で安全に過ごせるためのポイントをご紹介いたします。
皆さんが元気に生き生きと過ごしていくためには、足・環境・食事・社会性などの総合力が求められます。ぜひ最後までお読みいただき、ご自分らしい生活の継続にお役立てください。
65歳以上の事故は家庭内が最も多い
高齢者は家庭内での事故が多いことがわかっています。
場所 | 割合(%) | 件数 |
---|---|---|
住宅 | 77.1 | 516 |
民間施設 | 8.2 | 55 |
一般道路 | 6.9 | 46 |
海・山・川等自然環境 | 3.3 | 22 |
公共施設 | 1.5 | 10 |
公園・遊園地 | 0.3 | 2 |
その他 | 2.4 | 16 |
不明 | 0.3 | 2 |
(※国民生活センター「医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故ー高齢者編ー」より)
また、2018年版「高齢社会白書」によると、65歳以上の方は、20歳以上65歳未満の人よりも住宅内での事故発生の割合が高いことが明らかにされています。
65歳以上の方の事故時の場所をみると、場所では「居室」45.0%、「階段」18.7%、「台所・食堂」17.0%の順に多くなっています。
これらのデータからもわかるように、いつもと変わらない生活を送っていても、突然事故が発生することが推測されます。
足を健康に整え、食事をしっかり摂っていても家の中でつまづいてしまったら元も子もありません。
転倒予防のために家の中を再度点検しよう
転倒予防は、環境と自分を分けて考えてみると対策がしやすいです。
まずは自分の足について考えてみましょう。一つには履き物の問題があります。外履きだけではなく、室内履きにも注意が必要です。これは第144回でも解説しているので、ぜひ参考にしてください。
また、履き物の手入れや、日々どんな運動をするかなどもポイントになります。
こうしたさまざまな要素の検討が必要になりますが、今回は環境にフォーカスしたいと思います。次のようなポイントに気をつけて、家の中を整理してみましょう。
- ①整理整頓してつまずくものを減らす
- 使ったものを片付ける
- 本や新聞紙などを机の上から下ろさない
- コード類を収納する
- 廊下にものを置かない
- ②危険な場所に対策をしておく
- カーペットの端がまくれ上がっていたらきちんと留めておく
- 手すりを設置する
- 階段に滑り止めを設ける
- 滑りやすい敷物や座布団を片付ける
- ③照明を活用する
- 切れた蛍光灯はすばやく交換する
- 日が当たらない場所は照明などで明るくする
- ④まぶしさを軽減する
- 鏡や床の反射でまぶしい場合は、反射を和らげる
- ⑤家具の高さを合わせる
- 箪笥やテーブル、椅子、ベッドなどは適切な場に手すりをつけたりして高さを調整する
こうした準備は、必要になってからではなく「まだ早いかな?」と思うような時期から意識しておくことが大切です。
また、できれば一人で行うのではなく、お子様や家族と一緒に整理すると有効です。自分では気づかない部分の見落としを防ぐことにもなります。床に何かが置いてあることが、自分では「普通」になってしまっているとそのまま放置してしまうかもしれません。ぜひ、どなたかに協力してもらい、定期的に家の中をチェックすることをおすすめします。
【事例】使い慣れていない布団で寝たら骨折!?
80代のAさんが家族で旅行に行かれたときの話です。普段は寝るときにベッドを使用していましたが、宿泊先では布団だったそうです。
旅館から帰る日の朝、Aさんは歩けないほどの腰痛に襲われ、やっとの思いで車に乗車し帰宅しました。医療機関を受診したところ、圧迫骨折との診断。Aさんもご家族もいつそうなったのかまったく気づかなかったそうです。
唯一思い当たったのが布団に寝る際に、膝を付いたりしないで「ストン」とお尻から座ったことでした。
若い頃は問題なかったでしょうが、80歳を超えたAさんにとって高さの合わない寝具は大きなリスクです。苦い思い出となってしまいました。
まとめ
自宅は長年住み慣れて愛着があるものです。家屋も経年劣化しますが、毎日過ごしていると危険な環境になっていても見逃してしまい、気づきにくいものです。
そこで第三の目として、たまに会うご家族やヘルパーさんなどの力を借りて家の中を見直してみましょう。
転倒の要因は一つではありません。爪の状態が悪いだけでも転倒を誘発します。
足をはじめとした元気な体、そして整頓されて無理なく過ごせる環境。そのどれかが欠けているだけでも転びやすくなります。できるところからでもそれぞれへの意識が対策につながります。
家の中を整理して転びにくい環境をつくっても、足が痛くなってしまったり食事が摂れなくなってしまうと、元気に過ごすことが難しくなります。
ひとつのことを意識しすぎるのではなく、家の中も整えながら足や食事、運動も意識して暮らしましょう。
【参考文献】
羽鳥研二『高齢者の転倒予防ガイドライン.MEDICAL VIUE .2012』
独立行政法人国民生活センター『医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-』
内閣府『2018年版高齢社会白書』