くるくる天然パーマのひよっこ音楽療法ライター海月(ミヅキ)ひなたです。高齢者の介護現場向け楽器の開発・販売を手掛ける『ソニフル』で音楽や音楽療法の魅力を発信しています。ぜひ在宅介護でも音楽を活かした介護を取り入れてみてくださいね。
今回は、“音楽療法にはどんなものがあるのか”、“高齢者が音楽療法を行う上で一番大切にしたいこと”についてをお話します。
「音楽療法ってなんだろう?」という方は、第4回「音楽を楽しみながら健康に♪認知症予防や痛みを緩和する音楽療法の魅力に迫る!」をご覧ください。
大きく2つに分類できる音楽療法 能動的音楽療法・受動的音楽療法
音楽療法は、大きく「能動的音楽療法(活動的音楽療法)」と「受動的音楽療法(受容的音楽療法)」の2種類に分けることができます。
能動的音楽療法(活動的音楽療法)とは
音楽療法士の下で歌をうたうことや楽器を演奏すること、音楽に合わせて簡単な動きを取り入れることなど、積極的に「音楽を聴く以外の動作」を組み合わせて行うセラピーを能動的音楽療法といいます(活動的音楽療法と呼ぶ場合もあります)。
対象となる人の様子を見ながら音楽療法を進める「即興」も能動的音楽療法です。高齢者の場合、歌をうたうことや楽器を演奏することはリハビリにもつながります。
介護施設やデイサービスなどで積極的に音楽を取り入れたレクリエーションが行われていますが、これは「能動的音楽療法」にならって行われていると考えて良いでしょう。
例としては、
- ハンドベルでの演奏
- 打楽器の演奏
- 合唱
- 輪唱
などが挙げられます。
受動的音楽療法(受容的音楽療法)とは
音楽療法士の下、対象となる人の目的にあった音楽や演奏を聴くことが中心となっているセラピーを受動的音楽療法といいます(受容的音楽療法と呼ぶ場合もあります)。
対象となる人に対して、音楽を通じて感情に訴えかける目的があります。このセラピーがよく取り入れられるのは、リラックスを目的とした「音楽心理療法」、音楽を聴くことで自分自身を調整する「調整的音楽療法」、神経症の人が好きな音楽の範囲を広げることで不安を解消する「嗜好拡大法」、対象となる人の気分に合わせた音楽を処方する「音楽処方」ということですね。
例としては、
- 懐かしい音楽を聴く
- 若い頃に好きだった音楽を聴く
などが挙げられます。
ただ、この2つの分け方にはさまざまな議論がなされており、受動的音楽療法であっても「精神的には能動的だ」という考え方や、即興音楽療法は能動的でないという考え方もあるようです。
しかし、一番大切なのは対象の人に対して適切な音楽療法を行うこと。そのためにも、音楽療法を受ける目的は何か、音楽の能力はどの程度なのかなどを、よく考えることが重要なのです。
個人音楽療法と集団音楽療法とは?
音楽療法はさらに、「個人音楽療法」と「集団音楽療法」の区別があります。簡単に言えば、個人で行うのか集団で行うのかの違いです。対象となる人が現在どのような状態なのかを見極めた上で、どちらを利用するのか判断します。
高齢者の場合、個人音楽療法は寝たきりの人などに行われることが多いようです。ベッドの横で音楽療法士が演奏している音楽鑑賞をしたりします。音楽を聴くことで動きが制限されていることでのストレスを軽減したり、感情が刺激されるので気分が楽になる、という効果があるようです。中には、病気が一時的に回復したという例もあります。
集団音楽療法が行われているのは、介護施設やデイサービスです。例えば合唱することや、ベル演奏など集団で行う音楽療法がこれにあたります。高齢者の分野で積極的に集団での音楽療法や音楽レクリエーションが取り入れられているのは、下記のような多くのメリットがあるからです。
- 周囲の関わりを持つ機会になり社会やコミュニティを意識できる
- 周囲と一緒に達成感や満足感を味わうことができ、充実につながる
- 一人ではできなくても集団だとできる
- 周囲から受け入れられていると感じ、孤独感や疎外感が和らぐ
などなど。このようなメリットがあるため、座ることのできる高齢者の場合、集団で行う音楽療法や音楽レクリエーションへの積極的な参加をおすすめします。
体よりも先に感情が老ける? 音楽療法で感情の動きを活発に!
歳を重ねるごとに衰えていくのは身体だけではありません。実は、感情も年々老化していくのです。これには脳の萎縮の場所が大きく関係しています。加齢によって脳が萎縮していく際に、萎縮がもっとも早く見られるのが前頭葉で、ここは感情をコントロールする器官。前頭葉によって「嬉しい!」という感情や、「やってみたい!」という意欲が起こります。
つまり、前頭葉が萎縮するということは、感情をあまり感じなくなり、意欲も低下してしまうということなのです。
前頭葉の萎縮で見られる主な感情は以下のようなものが代表的です。
- 些細なことで怒りっぽくなる
- 以前楽しめたものが楽しくなくなってきた
- 他人の意見を受け入れることができずに衝突することが多くなった
- 楽しみが見つけられなくなった
- 自分が好きだったことさえも意欲がなくなってしまった
- 何をするにも億劫になってしまった
など…。日常生活のモチベーションに関わるものが多いですね。高齢者の分野において、認知症については近年大きく注目されていますが、それと同じくらい注目してほしいのが“感情”のコントロールなのです。
体力よりも先に感情の老化が始まると訴えている先生もいるくらいで、前頭葉を活性化することが、健康維持の観点からも非常に重要だと言えます。感情や意欲がなくなってしまえば、身体を動かすことも億劫になり、体も衰えていくでしょう。このことからも、高齢者の介護予防には運動はもちろん、感情にも注目してあげることが必要だとわかります。そこで、“感情”を動かすのに一役買ってくれる可能性が音楽にあります。特に、受動的音楽療法の目的は“感情”を動かすことなので公開を発揮する可能性が高いです。
さらに、集団で音楽療法を行えば、多くの感情が動かされ前頭葉の活性化につながります。音楽療法は、高齢者の感情老化を防ぐのにぴったりなのです。
まずは高齢者の心理を知ることから始めよう
誰にでも訪れる老化現象。当たり前のことでありながら、実際に自分がその立場になったとき、自分でも想像がつかないほど深刻に悩んでしまうことがあるようです。そんなときに知っておいてほしい“音楽療法士向けの高齢者ケアの原則”というものがあります。これは、高齢者と一緒に住んでいる方や、介護している方にも役立つ内容だと思いますので参考にしてみてください。
どのようにするのが本人にとって一番良いのか。答えを出すことは難しいかもしれませんが、まずは高齢者が何を感じて何を考えているのか、そして寄り添うことが大切なのではないでしょうか?
高齢者が病気を持っている場合には、その病気についての理解を深めることも重要です。もちろん、状況はそれぞれ異なると思いますが、高齢者の心理の根本には共通する部分があると考えられています。実際に、この高齢者ケアの原則は音楽療法にも活かされているものです。上手に音楽を取り入れてみてくださいね。
高齢者への音楽療法は… あくまでもQOLの向上が目的!
高齢者が音楽療法を行う目的のひとつにQOL(人生・生活)の質の向上が挙げられます。しかし、音楽療法だけでQOLの向上を考えるのは困難です。
例えば、英語を習得したいという人が週に1回の英会話教室に行っただけでは英会話を話せるようにはなりません。それと同じように、週に1回音楽療法を行ったからといってその人のQOLを向上させることは難しいと思いませんか?
そのため高齢者の場合は、音楽療法を軸に考えるというよりも、どうすれば本人がいきいきと過ごすことができるのかを周りの人が考え、その環境に身を置くことの方が大切なのです。
その方法として、できるだけ人と関われるようにデイサービスに通うことや、地域のコミュニティに積極的に関わることが挙げられます。その上で、音楽を利用した習い事やレクリエーション、そして音楽療法をうまく取り入れること。そうすることで高齢者が、最後まで生きがいを持って生活をすることにつながり、QOLの向上となるのではないでしょうか?
参考文献・サイト
- 音楽療法の基礎,村井靖児,音楽之友社
- 体力の衰えより早く来る…「感情の老化」はこう防ごう,和田秀樹,Nikkei Style