2020年7月に日本うつ病学会より『高齢者のうつ病治療ガイドライン』が発表されました。
高齢者のうつ病は、成人早期のうつ病診療よりも難しいといわれています。しばしば思考停止や注意・集中力の低下を示し、一見すると認知症のようにみえることもあります。
今回は、高齢者のうつ病について、治療薬を中心にご紹介いたします。
高齢者は薬の副作用が出やすい
高齢者のうつ病は大きく2種類に分かれます。
- 若年発症型
- 若い年齢でうつ病を発症し、高齢になって再発するケース
- 高齢発症型
- 高齢になって初めてうつ病を発症するケース
若年発症のうつ病と比較して、高齢発症のうつ病は、より慢性の経過をたどりやすいといわれます。症状がぶり返したり、ほかの疾患を合併したり、認知機能障がいなど、予後の不良が報告されています。
さらに、うつ病は認知症やせん妄(場所や時間の認識が難しくなり、注意力や思考力が低下する病気)と見分けるのが難しいとされています。認知症とうつ病は類似した症状が現れたり、認知症にうつ状態が合併したり、うつ病から認知症への移行も多いことが原因です。
治療では、成人早期のうつ病と比較して、高齢者のうつ病は薬の効果に大きな差がないとする報告が多い一方で、副作用が生じやすいことに注意が必要です。
高齢になるほど再発率も高いことがわかっています。
一般的に、加齢とともに薬の代謝、排泄が悪くなります。体の中に薬が残りやすいため、それだけ効き目が強く出やすく、副作用も発現しやすくなってしまいます。

抗うつ薬や抗精神病薬の副作用
高齢者のうつ病に対して、抗うつ薬を使用する際は、特に以下の副作用に注意しましょう。
- 低ナトリウム血症
- 転倒
- 骨折
- 骨密度低下
- 不整脈
- 錐体外路症状(ふるえや筋肉の固縮など)
- セロトニン症候群(不安や錯乱など)
- 消化管出血
通常、抗うつ薬の効果より早く、副作用が現れるので、注意しながら観察し、早期発見して対応する必要があります。
抗精神病薬を併用して使われる際には、効果が出すぎてしまうことがあるため、できるだけ低用量で使用することが重要です。以下のような副作用に注意してください。
錐体外路症状や、抗コリン作用による便秘、口腔乾燥、認知機能低下など、眠気やめまいなど、もし抗精神病薬を使用中にこのような症状が気になった場合は、できるだけ早く医師、薬剤師に相談しましょう。
また、うつ病の経過で不眠症や不安症を合併する方に、不眠症治療薬が使われることもあります。高齢者が不眠症治療薬を使う場合は、薬の作用時間が短い薬を選択することが望ましいです。ただし、作用時間の短い薬であっても、夜間せん妄などの副作用には注意が必要です。

抗うつ薬を使用しても、なかなか治療に成功しない場合、抗うつ薬の増量、変更、併用、もしくは抗うつ薬以外の薬の追加などが治療の選択肢として挙げられます。
この中で、抗うつ薬の変更は一定の有用性があると考えられていますが、今の薬に加えてほかの抗うつ薬を追加すると、副作用リスクの方が高まると考えられているので避けることが望ましいでしょう。
このように、高齢者のうつ病では抗うつ薬だけでなく精神病症状に用いる薬が処方されることがありますが、使用する際には若い人以上に副作用や効果が出やすいことに注意し、状態を十分に観察しながら使用していくことが大切です。
効果の見極めが難しい病気だからこそ、慎重に治療薬を選ぶ必要があります。
もし薬や治療で気になることがあれば、かかりつけの医師や薬剤師に相談し、安全に療養生活を送れるようにしたいですね。