便秘は加齢に伴い増加する疾病で、高齢者の多くが便秘に悩まされています。便秘の治療薬には医療用治療薬から市販薬まで、さまざまな種類があります。それぞれの特徴を知っておくと、より安全かつ効果的に服用できます。
今回は加齢に伴い増加する便秘について、便秘薬の正しい使い方をご紹介いたします。
便秘は明確な定義ができない
毎日お通じが来ないと心配する人もいれば、2日出なくても平気な人もいます。実は医学的な便秘の定義には、何日間出なかったら便秘という明確な基準はありません。
便秘は、本来は体の外に出すべき便を、十分な量かつ快適に排出できない状態を指します。たとえ3日に1回しか排便がない人でも、スムーズに排便できて排便後もスッキリしているのであれば、それは便秘には該当しません。逆に、毎日排便がある人が突然出なくなったり、排便後もスッキリしなかったりする場合は便秘に該当します。
食べ物が便となって体の外に出るまで、約9mの消化管内を内容物が移動していきます。食べ物は消化管で約24~72時間かけて移動し、必要な栄養素と水分が腸管から体に吸収され、その残りかすが便として排出されます。
口から入った食べ物は胃で消化された後、小腸に移動して体に必要な栄養素が吸収されます。その後、大腸に移動して水分が吸収されます。大腸まで来た内容物は、ぜん動運動と呼ばれる腸の運動によって肛門手前の直腸まで達し、直腸の壁を内容物が刺激することで便意を感じ肛門から排出されます。
急性便秘と慢性便秘の違い
便秘は急性と慢性によって、違いがあります。
一般的な急性便秘は、無理なダイエットをしたときや旅行に行ったときなど、非日常的な食生活や生活リズムによって、排便リズムが崩れて生じる便秘です。環境に馴染むことや、生活リズムが元に戻ることで自然と便秘が解消されやすいことも特徴的です。
ただし、とくに環境の変化がないにも関わらず、急に便秘になったときは、腸閉塞(ちょうへいそく)の可能性もあるので注意が必要です。腸閉塞とは、食べ物が小腸や大腸などの消化管の中に詰まってしまう状態をいいます。「急にガス(おなら)が出なくなる」「吐き気を催す」「強いお腹の張りを感じる」「背中や腰に痛みを感じる」などの症状がみられた場合は、自己判断せずに早めに医療機関を受診しましょう。
便秘でお悩みの方の多くは慢性便秘です。慢性便秘とは、長期間便秘の症状が続いているものを指します。原因は、消化管に異常が生じていることが多いですが、治療薬を選ぶ際、実際に腸の中を覗き込むことはできません。

そこで、薬を選ぶ際に注意したいポイントを2つ紹介いたします。これは便秘の高齢者を介護されている人が、医師や薬剤師に伝えてほしいポイントでもあります。
「便の硬さ」に注目する
便秘のときは、通常時よりも硬い便で出てくることがあります。便が硬くなる理由はいくつかありますが、高齢者に多いのは腸の運動機能(ぜん動運動)の低下によるものです。
便になる内容物は、体に必要な水分が吸収されながら肛門に向かって腸を通過していきます。高齢者の腸はぜん動運動が低下する傾向があり、それによって腸を通過する時間が長くなると、内容物の水分もカラカラになるまで吸収されてしまうため、肛門から出るときには硬い便になってしまうのです。
硬い便のときには、水分を多くとるように心がけましょう。また適度な運動も、ぜん動運動を活発にすることにつながります。「いろいろと手を尽くしても硬い便が出る」という場合には便秘薬を用います。便秘薬にも種類がありますが、硬い便のときに使う便秘薬は、便を柔らかくする薬が効果的です。
例えば、酸化マグネシウムには腸内に水分を引き込み、便を柔らかくする作用があります。市販もされていますし、非刺激性ということでお腹が痛くなりにくく、よく使われている薬です。水分を摂らないと薬の効果を十分に発揮できないので、服用するときは多めの水で服用するようにしましょう。
副作用として、薬が効きすぎた場合には便が柔らかくなりすぎて水様便(いきまなくても出る液体の便)になってしまうことがあります。このようなときには服用を中止する、減量するなどの対応が必要です。
また、腎機能の低下した人が長期服用すると、高マグネシウム血症という副作用が出てしまうことがあります。嘔吐、脈が遅くなる、筋力低下、傾眠(うとうとする状態)などの初期症状が現れた場合には、すみやかに医療機関を受診しましょう。
そのほかにもルビプロストン、エロビキシバット水和物、マクロゴール製剤など、便を柔らかくする便秘薬が使われています。飲み方や効果が異なるので、それぞれ医師、薬剤師に説明を聞いて正しく服用しましょう。
便秘薬を服用したときの「お腹の痛み」に注意しよう
便秘薬を選ぶ際のもう一つのポイントは、薬を服用した後のお腹の痛みです。
刺激性の便秘薬は、腸を刺激してぜん動運動を活発にします。これにより腸内の内容物がスムーズに移動し、肛門までたどり着きます。効き目が速やかであるという特徴がありますが、人によっては腹痛や下痢を引き起こす場合があります。痛みに耐えながら下剤を使い続けることがないよう、お腹の痛みが強いときは医師、薬剤師に相談しましょう。
刺激性便秘薬の代表的な薬がセンナ、センノシド、ダイオウ、ピコスルファートナトリウム水和物などです。
センナ、センノシド、ダイオウなどを長期服用すると、大腸メラノーシスという腸運動が低下する副作用が知られています。また、刺激性下剤の長期服用は、徐々に薬が効かなくなってくる耐性の問題もあるので、漫然と服用し続けることのないように注意しましょう。
そのほか、肛門直前の直腸まで便が下降しているのに便が出ない場合には、炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム坐剤や浣腸が効果的です。直腸を直接刺激して、最後の一押しを手助けするようなイメージの薬です。これらは直腸まで便が下降していないときに服用しても十分な効果が得られません。浣腸したのに便が出なかったというときは、服用するタイミングが早すぎるなどが原因が考えられます。

今回は、便秘と便秘薬の使い方についてご紹介しました。ずっと同じ薬を使い続けているのに便秘が解消されない人や、だんだん使っている薬が効かなくなってきた人は、便秘薬を変更するタイミングかもしれません。そのようなときは、定期的に服用する薬を見直してみると良いですね。