こんにちは。薬剤師の雜賀匡史です。
今回のテーマは「新型コロナワクチンの仕組みと注意点」についてです。
2020年12月上旬の時点で、すでに 100を超える国々で新型コロナワクチンの予防接種が行われています。日本でも2月17日から医療従事者を対象に接種が開始されました。これについて不安を感じる人も多いと思いますので、今回の記事が少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。なおワクチンの仕組みについては、第37回でもご紹介しておりますのでご参考ください。
新型コロナのワクチン2種
ワクチンは免疫力をつけることで、病原体に感染したときの発症や重症化を防ぐための薬です。従来のワクチンは、毒性を弱めた病原体からできている「生ワクチン」や、感染力をなくした病原体からできている「不活化ワクチン」などが主流でした。前者が水痘(みずぼうそう)やおたふくかぜ、後者はインフルエンザや肺炎球菌ワクチンとして接種されています。皆さんも一度は接種された経験があるのではないでしょうか。
ところが2021年3月1日現在、日本で接種されている新型コロナワクチンは、生ワクチンにも不活化ワクチンにも分類されない、まったく新しいタイプのワクチンです。1つ目は「メッセンジャーRNAワクチン」で、医療従事者が接種しているファイザー社製品やモデルナ社製品がそれにあたります。2つ目を「ウイルスベクターワクチン」といい、こちらは、近いうちに日本でも接種される予定とされています。
このほかにも、日本を含めた世界各国の企業が、新型コロナワクチン製造を手掛けているところです。
今回つくられた2つの新しいワクチンは、既存のワクチンのように、対象となるウイルスそのものを注射するわけではありません。皆さんは新型コロナの画像をご覧になったことはありますか。表面がトゲトゲした突起で覆われており、この部分は人の細胞に侵入するときの「鍵」の役割をしています。鍵を持ったウイルスには毒性がありますが、鍵自体に毒性はありません。今回のワクチンは、この特徴を利用しています。
ワクチン接種により鍵の設計図をあらかじめ体内に注射し、体内でスペアキーを大量につくります。この鍵は本来、敵であるウイルスが持っているものですから、体内でつくられたスペアキーも敵だとみなされ、これらを退治するための抗体を備え免疫力をつくりあげるのです。新型コロナに対する防御力が上がったので、いざウイルスが体内に侵入してきても、感染する前に退治することができるようになります。
インフルエンザワクチンよりも高い確率で効果が見られている
ファイザー社製のワクチンでは、海外の臨床試験を受けた人の約95%は効果があると報告されています。ワクチン接種した人の中で発症した人は5%。これはインフルエンザワクチンと比較すると、はるかに有効性の高い数字だと言えます。
すでに報告されている副反応について
どのような薬にも副作用は存在します。ワクチンの場合は、副作用のことを「副反応」と呼びます。新型コロナワクチンでの副反応の代表例は、以下の通りです。
- 注射部位の痛み
- 頭痛
- 関節や筋肉の痛み
- 疲労
- 悪寒
- 発熱 など
これらは一般的なワクチン接種でも、同じように発現する副反応となります。そして頻度は少ないですが、「ショック」や「アナフィラキシー」といった重大なアレルギー反応も起こり得ます。代表的な症状としては、じんま疹をはじめとした皮膚症状、腹痛や嘔吐といった消化器症状、息苦しさなどの呼吸器症状です。
接種後は施設内待機で副作用への治療を迅速に
2021年1月6日、アメリカ疾病予防管理センターの報告によると、ファイザー社製の新型コロナワクチン接種後にアナフィラキシーとなった例は、100万回あたり11.1例(0.0011%)でした。この数字を、インフルエンザワクチンの100万回あたり1・2例(0.0001~0.0002%)と比較すると、多いと言えます。しかし、日常的に使われている抗生物質などにはこれらの何倍も発現頻度の高い薬が存在するため、新型コロナワクチンによるアナフィラキシーの発現確率が、極端に多いとは言えません。
またアメリカにおいて、ファイザー社製の新型コロナワクチン接種で発現したアナフィラキシーは、2021年1月18日時点で90%が「接種後から30分以内」に症状が現れています。これを受けて日本では、万が一アナフィラキシー反応が発現しても迅速に治療を受けることができるように、接種後しばらくはその場に待機するという方法を採用しています。これらを総合的に考えると、一般的な薬と同程度のリスク管理で十分であると考えられるのです。
これらの副反応は初回接種時よりも、2回目接種時の方が発現しやすいものです。初回接種時に問題のなかった人も、2回目には改めて注意してきましょう。
過去にアレルギー反応を起こした人は接種に注意
今までに重いアレルギー反応を起こしたことのある人や、過去にワクチンや注射で何らかの即時型アレルギー反応を起こした経験のある人は注意が必要です。また、接種当日に発熱している人や、重篤な急性疾患にかかっている人は接種できません。ご自身のアレルギーや体調について、主治医とよく相談してから接種を検討しましょう。
遺伝情報が組み替えられてしまう!?
今回のワクチンは、今までとは違う仕組みであることから、「私たちの遺伝情報を組み替えられてしまうのでは」といった憶測がインターネットなどで広まっています。新薬には、今までに明らかになっていない症状が出る可能性がありますが、これらに対する明確な回答は時間が経過しなければわからないことです。
しかし、新型コロナワクチンの保管温度が-70~-20℃という点からもわかるように、ワクチンの有効成分は非常に不安定な物質です。体内では数分・数日で分解されるため、私たちの体内にいつまでも残り続けることは不可能だと考えられています。また、人の遺伝情報(DNA)からメッセンジャーRNAをつくり出す仕組みはありますが、メッセンジャーRNAからDNAがつくられるということは理論上起こり得ません。
これらの理由から、メッセンジャーRNAを注射しても、その情報が長期に残ることや、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれることはないと考えられています。
ワクチンを理解したうえで納得できる接種を
今回は、新型コロナワクチンについてご紹介させていただきました。接種できる日を今か今かと心待ちにしている人や、不安を抱いている人もいらっしゃるかと思います。今後も、ワクチンに関するさまざまな報告がなされるでしょう。それらの情報についても参考にしていただき、十分に理解したうえで接種していただければと思います。
今回の記事が少しでも皆さまの判断材料となれば幸いです。