こんにちは。薬剤師の雜賀匡史です。
今回は認知症の薬について、それぞれの特徴を説明しながら紹介していきます。
認知症を根本的に治療する薬はない
警察庁が公表している『令和元年における行方不明者の状況』によると、2019年度の行方不明者数のうち、5人に1人が「認知症あるいはその疑いのある人」とのこと。認知症関連の行方不明者数は統計を取り始めた2012年以降は右肩上がりで上昇しており、社会問題化していることがわかります。
WHOの報告では、認知症の人が全世界に約5,000万人存在しているとされています。しかし、認知症の症状が世界的に見られているにもかかわらず、新薬はなかなか誕生していません。日本では1999年にはじめて認知症の薬が発売され、それから2011年に相次いで3成分が「認知症治療薬」として誕生しました。それから現在に至るまで、認知症の適応を持つ薬は一切発売されていません。2020年現在、認知症治療薬として認められている成分は4種類のみとなります。
また、これらの薬はすべて根治による治療目的の薬ではありません。病気そのものを治す薬ではなく、病気の進行を抑える薬という位置づけです。
製薬会社も新薬の開発研究を行ってはいますが、期待されていた成分は臨床試験でつまずいており、なかなか発売まで至っておりません。高血圧や糖尿病はそれぞれ30種類以上の治療薬が発売されていることを考えると、認知症治療薬の開発の難しさを感じます。「認知症については、薬で解決できることは少ない」ということをご理解ください。
本人を支える社会資源の活用やケア体制の整備が重要
とはいえ、治療薬がないからと言って諦める必要はありません。認知症の人と共存しやすい社会を創るため、全国でさまざまな取り組みが行われていますし、「みんなの介護」でも認知症関連の記事が多く紹介されています。
社会資源の活用やケアの充実を一番に考えることが大事ですね。薬物療法に頼りきるのではなく、その人を支える生活環境を整えるのが、何よりの治療であると思います。
認知症の進行を遅らせる4つの薬
現在使用できる認知症の進行を抑制する薬の特徴について、ご紹介します。
ドネペジル塩酸塩
"認知症治療薬"としてはじめて誕生した薬で、使用実績が最も豊富です。適応している症状は「アルツハイマー型認知症」と「レビー小体型認知症」であり、他剤よりも幅広い人に飲み薬として使用することができます。
現在、レビー小体型認知症にも適応のある薬は「ドネペジル塩酸塩」のみです。剤型(薬の形)も豊富で、使う人の状態や嚥下(えんげ)機能にあわせた「剤型選択」がしやすい飲み薬となっております。
メマンチン塩酸塩
中等度から高度のアルツハイマー型認知症に用いる薬で、1日1回服用します。唯一、ほかの認知症治療薬と併用できるのが特徴です。臨床ではBPSD(行動心理症状)が強く現れている人に用いられることが多い飲み薬です。
ガランタミン臭化水素酸塩
軽度・中等度のアルツハイマー型認知症に用いられる薬で、1日2回服用します。脳内で情報を伝える物質(アセチルコリン)の分解を阻害するとともに、アセチルコリン(情報伝達物質の一種)の感受性を高めることで効率的に情報伝達を行うことが特徴です。
リバスチグミン
軽度・中等度のアルツハイマー型認知症に用いられる貼り薬。アセチルコリンを分解する2種類の酵素を、ともに阻害できることが特徴です(他剤は1種類のみ)。貼り薬なので、飲み込む力が低下した人でも使用し易く、1日1回の貼り替えだけで済みます。介護者にも使いやすい薬です。
効果は人それぞれ、個人にあった薬を選択
以上、認知症の症状を抑える4つの薬について簡単にご紹介しました。薬の治療成績や副作用報告はさまざまです。個人差や評価方法の差もあるため、どの薬が最も効果的であると断言することはできません。
薬物療法を考えるときは、その人にあった薬を使うこと大切。状態や生活環境、嚥下機能、介護力などを総合的に考えて、最も使いやすい薬を選択されると良いと思います。治療で不明な点があれば、医師や薬剤師などの専門家に相談することも大事ですね。またケアマネージャーや社会福祉士、介護福祉士に介護サービスについて相談することも、支援を継続するためには重要です。