高齢者は加齢による誤嚥の危険性が高くなることが知られています。ですが、2022年度の日本人の主な死因の第6位が誤嚥性肺炎となっていることからも分かるように、誤嚥は時に命に関わる事態を引き起こす重大な問題です。元気に長生きするためにも、誤嚥予防とても重要です[1]。
そのなかで、近年は舌の筋力を保つことが、誤嚥予防の一つとして注目されています。
そこで今回は、舌の重要性と舌の運動についてお伝えします。
舌の構造と働き
舌は舌筋と呼ばれる筋肉を粘膜が覆う形でできています。20~30㎝程度の長さがあり、リンゴ1個分程度の重さ(約200g程度)があります。
舌の外観は、舌の先にあたる舌尖、舌の中央にあたる舌体、舌の奥にあたる舌根に分けられます。舌根部は、下あごの歯ぐきの内側に固定されていますが、舌尖と舌体は自由に形を変えて、舌全体を前に出したり、後ろに引っ込めたりすることができるようになっています。
また、舌の表面のざらざらしている部分には、小さな突起が密集しています。これは、舌乳頭と呼ばれており、この乳頭のなかには味を感じる味蕾(みらい)という化学受容体が含まれています。そのため、舌は味を感じることができます。
食べることに関する舌の働き
- 食物を箸から受け取り、移送または保持する
- 食物の物性や口腔内での形状・位置・味など飲み込めるかどうかを調べる
- 上顎と一緒に食物を押しつぶす
- 刺激を受けることにより唾液を分泌し、食物と唾液を混ぜる
- 咀嚼時に食物を頬や咽頭に運ぶ
- 飲み込む際は、食物を咽頭に送り込む
- 舌の奥は刺激を受けると飲み込む反射を誘発する
このように、舌は、食べることにおいて重要な器官となっています。
そのため、舌の筋力低下などが生じると、食べ物の物性や口腔内での形状・位置・味などがわかりにくくなる、食物を押しつぶしにくくなる、食物と唾液を混ぜにくくなるなどの機能が低下し、誤嚥の危険性が高くなってしまいます。
舌の筋力低下のチェック方法
歯科医院や嚥下外来などの医療機関で用いられる舌圧測定器で、舌圧(舌が上あごに接触する力)を知ることで、舌の筋力を推測できます。
しかし、日常的生活のなかで些細な変化に自ら気づくことがまず大切です。その方法の一つが、舌の位置と話し方を確認する方法です。
舌の位置を確認する
口を閉じた状態で、舌がどこに触れているかを意識してみると舌の筋力低下をチェックすることができます。
舌が上あごにべったりとついている場合は舌の筋力が保たれていることがわかります。
しかし、舌の先が上の歯についているだけであったり、舌がどこにも触れていない場合は舌の筋力が低下している可能性があります。
話し方を確認する
話し方が明確であるかどうかを意識してみましょう。
例えば、タ音は舌の先が上あごにつくことで音がつくられ、カ音は舌の奥が上あごにつくことで音がつくられます。
そのため、「タ」や「カ」の話し方が不明瞭な場合は、舌の筋力が低下している可能性があります。
近年は、簡単に話し方のセルフチェックができる「毎日パタカラ」などといったアプリもあります。
このようなアプリを日頃から使用するのも良いでしょう。
舌の体操を実践しよう
舌の筋力を保つにはいくつかの運動があります。
よく知られているのが、舌を突き出す、舌を左右の口角に持ってくる、上下口唇や口腔内を舌でなめるなどの舌の運動です。
「ベー」と舌を突き出して下にしっかり伸ばす、そして舌を引っ込めるといった運動を30回程度を目安に行なうだけでもよい運動になります。
これらの、舌の運動は主に舌の筋力の維持に必要になります。歯みがきの最後に行うなど、1日のなかでいつ行うかを決めて日常的に実践することが大切です。
さらに、舌の筋力増強に対しては、舌の筋肉に抵抗をかける動作を繰り返し行う運動(レジスタンストレーニング)が有効とされています。
舌の筋肉へ抵抗を加えた運動を一定期間行うことで、誤嚥の予防になるとされているからです。
レジスタンストレーニングには、舌圧測定器を用いる方法や、舌トレーニング用具・綿棒・シリコン素材のスプーンなどを用いて行う方法などがあります。
舌トレーニング用具は、負荷強度の異なるものが販売されているため、個々の舌の力に合わせて選択することと、舌やのどが少し疲れるくらいを目安とし、一定期間続けることが大切になります。
そのため、レジスタンストレーニングを行う際には、歯科医院や嚥下外来など、嚥下訓練を行っている医療機関で相談することをおすすめします。
まとめ
今回は、誤嚥予防のための食べる機能にかかわる舌の機能と、舌の筋力維持・向上のための舌運動をお話ししました。
そのほか、舌には形を変えて発声の働きに関わる「しゃべる」、鼻呼吸を助ける「呼吸する」といった大切な働きがあります。
加齢とともに、舌の筋力は低下しやすくなってくるため、日常生活で話す、咀嚼するといった舌を使う習慣を持てているかどうか、一度見直してみましょう。