高齢者にとっての「おやつ」は、時に心と体を満たす大切なものです。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、思うように食事が進まないときでさえ、おやつが食事摂取のきっかけになり得ることがあります。
在宅に比べ、暮らしの変化が少なくなりがちな高齢者施設では、おやつの時間を楽しく過ごしていただくため、咀嚼や嚥下機能の弱った高齢者も等しくおやつや食事を楽しんでいただけるように取り組んでいます。
また、おやつづくりを通じてスタッフの介護食への理解を深める機会となるよう「出張おやつミーティング」という活動をしています。今回は、高齢者にとってのおやつの大切さとその取り組みについてご紹介します。
高齢者のおやつの重要性について
高齢者の間食は単に甘いお菓子に限りません。食が進まないときでも食べられる、栄養摂取の補助的な役割を持つものとして考えています。下記におやつの役割についてまとめてみました。
おやつが持つ食事の補食的役割
高齢者の栄養摂取不足による低栄養は課題も多く深刻です。高齢者が健やかな生活を送るためには、栄養状態を良好に保つことが必要です。
そのためには食事を充実させたり食事を進みやすくする環境を整えるのはもちろん、3回の食事で不足する栄養の補食としておやつを活用します。おやつによっては、卵や牛乳、大豆製品などのタンパク質、野菜や果物のビタミン類や食物繊維を補うことができます。
- ①摂取エネルギーをアップするためのおやつ
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高齢者は食欲の低下など、さまざまな理由から食事量が減り、栄養の確保がしにくくなります。体を動かすために必要なエネルギーや筋肉をつくるタンパク質が不足すると低栄養状態になることもあります。
おやつは、不足しやすいエネルギーを確保し、低栄養を防ぐという重要な役割も持ち合わせています。しかし、食欲がないからと好む高カロリー、高糖質のおやつを食事の代用としてとり続けるのはよくありません。おやつは1日1回とし、100~150kcalを目安に摂るようにしましょう。
- ②食物繊維がとれる野菜のおやつ
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ご存知のように、野菜にはビタミンやミネラル、食物繊維が多く含まれており、不足すると便秘がちになることが懸念されます。おやつに野菜や果物を使うことで食材が本来持ち合わせている自然の甘さを十分に活用でき、不足しがちな食物繊維やビタミン類を補うことができます。
中でも人気のさつまいもやかぼちゃを使ったおやつは、そのままだとむせやすい食材ですが、つぶして茶巾やきんつばにすれば和菓子になります。
一方、酸味が残ってしまうミニトマトは、茹でて皮をむき、砂糖を少量加えたシロップでひと煮立ちさせ、冷やすとコンポートになります。トマトは加熱によって酸味が抑えられると同時に、うま味と甘さが増し食べやすくなります。
素材の持ち味を活かしながら楽しく栄養が摂れる野菜のおやつは、栄養補給に重要な役割を持っています。
- ③水分補給ができるおやつ
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喉の渇きを感じにくい高齢者は水分補給が十分でない場合が多く、また筋力も低下しがちなので筋肉に蓄える水分量が低下しやすくなります。
加齢によって起こる体の変化のひとつに脱水症状があります。飲料として補給する以外にもゼリー状にしてみると、思いのほか喜んで口に運んでもらえることがあり、バリエーションを増やすよう工夫しています。
例えば、ほうじ茶をゼリーにしたもの。夏場はレモン水をゼリー状に固めたものなどは砂糖を加えなくてもおいしくさっぱりと喉を通ります。
固める素材はさまざまな商品が出回っています。ゼラチンを使ったゼリーは冷やさねばなりませんが、海藻を原料としたアガーなどは常温でも固まり、ゼリーと寒天の間の食感でのど越しもよく手軽に味わえます。
- ④家庭でつくるおやつの注意点
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おやつには甘いものが喜ばれますが、そのようなものばかり偏ってしまうと、補食としての役割が果たせません。
おやつには特にルールがないからこそ、食べたいものを食べられるように工夫をすることで食事が進むきっかけとなることを願っています。
決して食事の邪魔をしないように、おやつはあくまでも「栄養摂取の補助」としていただくようにしましょう。時には、“食べる力”をサポートするなど、おやつに健康への配慮が含まれるようあれこれ工夫してみてはいかがでしょうか。

出張おやつミーティングの活動
デイサービスやグループホームなど高齢者の施設では、レクリエーション活動を活発にしているところが多くあります。それぞれに趣向を凝らし工夫されていることと思います。
よく耳にする「おやつレク」もその一つで、おやつミーティングも、表向きはおやつレクとさほど変わりはありません。
利用者、介護スタッフともにわいわいと皆でおやつをつくり、できたてを楽しめます。しかし、咀嚼嚥下状態によってはゼリーやプリンが続き、おやつでさえわくわく感を抱かない参加者がいることが課題でした。
おやつミーティングの役割
私はおやつを日常食への応用支援とすることを目的に、高齢者施設で利用者の方とおやつをつくる「出張おやつミーティング」の活動をしています。
おやつミーティングの取り組みでは、おやつづくりの中で個人の力の入れ具合や可動域を見守り、皆が同じものを食べることができるよう、見た目には普通食と変わりなく、硬さやまとまり具合などを食べやすく工夫しています。
それと同時に食の進み具合、咀嚼嚥下状態を確認しながら、スタッフ間で食に関する情報共有を行います。時には管理栄養士と介護スタッフのほかに訪問歯科衛生士も加わります。
おやつミーティングのきっかけは、栄養スタッフのいない施設で介護スタッフに介護食への理解と協力を得るためにはじまり、今ではご家族や地域の介護食啓蒙活動にも活用されています。
このようにおやつのテーマが軸となり、施設へ出向き「食べること」をともに考える機会につながることから「出張おやつミーティング」と呼んでいます。以下にその役割や目的をまとめました
【役割】
- 介護食のハードルを下げ「食の取組み」のきっかけづくり
- 個々の食機能を知ることができる
- 交流の場
【施設での目的】
- 介護食への理解と実践
- 一緒のおやつを提供する
- 参加者の行動・可動域の把握
- 摂食状況の再確認
【利用者視点での目的】
- 参加への意欲(楽しみ)
- 記憶の刺激(昔はこんな材料でつくった、子どもが小さい頃よくつくった など)
- 参加者間の一体感(皆で一緒につくったことが楽しかった など)
- 達成感、満足感(自分でつくった達成感、満足感)
入居を控えている方に
高齢者施設を選ぶ際には、さまざまな条件があると思います。中でも食事は重要です。入居時は通常食でおいしい食事を望みますが、年を重ねて食事が思うようにすすまなくなったときにどんな食事が提供されるのか、施設が食に対してどのような考えをもっているのかを知ることも大切です。
おやつ提供の工夫やおやつミーティングの取り組みは、ほんの一例ですが、1日3回の食事量が十分に満たせない場合、食べたい気持ちを引き出すことで、食事とは違った側面から楽しみや遊び心を加えて、高齢者が自らの力で食べたくなるよう工夫がおやつならできるのではないかと思います。
おやつの時間は、高齢者の方の笑顔が見れるので私たちも幸せな気持ちになります。ある時は食事の補助、栄養確保の補助、そして水分摂取の補助と、おやつの補助的役割はさまざまです。
おやつへの楽しみは食事以上になる場合もあり、食べる人の心を満たしてくれます。施設でもご家庭でもその方に適したおやつが提供できればと思います。
