栄養失調は食事が十分に摂れなかった戦後に多く見られましたが、現代ではしっかり食べているつもりなのに栄養失調になることがあります。これを新型栄養失調と呼びます。
なぜ食事をしているのに栄養失調になるのでしょうか。今回は、新型栄養失調の原因や起こりうるリスク、予防するための栄養素と食材を紹介します。
新型栄養失調とは?
新型栄養失調とは、エネルギー量は満たしていても、タンパク質やビタミン、ミネラルなどが不足している状態を指します。
栄養失調と聞くと食事が不足し、やせ細った人をイメージしがちですが、新型栄養失調はきちんと食事をしているにもかかわらず、起こってしまうのが特徴です。
新型栄養失調のリスクが高い高齢者
特に高齢者は、以下の3つの原因により、新型栄養失調のリスクが高くなります。
- 咀嚼嚥下(えんげ)能力の低下により硬いものを食べなくなる
- 体の不調や気力低下で調理をしなくなる
- 買い物に行けなくなる
高齢者は、噛んだり飲み込んだりする力が弱くなっていることも多く、しっかり噛まなければいけない肉や魚などのタンパク質を避けがちです。また、体の不調や気力低下などにより、簡単な食事で済ませる方も少なくありません。
毎食ごはんと味噌汁、漬物などの食生活を続けていると、栄養が偏ってしまいます。さらに、足腰に痛みがあったり、免許を自主返納した高齢者は、スーパーへ買い物に行くのが難しく、いつも決まったものしか食べなくなることもあります。
新型栄養失調がもたらすリスクとは
新型栄養失調になると、さまざまなリスクが考えられます。
- 感染症にかかりやすくなる
- 筋力低下
- 寝たきり状態
- 骨粗しょう症の進行
新型栄養失調は、タンパク質が不足していることが多いので、免疫細胞が十分につくられず、感染症にかかる可能性が高くなります。
さらには、筋力が低下していくことで、調理や掃除などの家事が難しくなる、ふらついて転倒のリスクが上がるなどのデメリットも考えられます。転倒した場合は骨折し、寝たきり状態にもつながりかねません。
また、カルシウムなどミネラルが不足していることも多く、骨粗しょう症が進行しやすいのも危険です。

新型栄養失調を防ぐために必要な栄養素と食材
新型栄養失調を防ぐには、日々の食事内容に気を付けなければなりません。ここでは、どんな栄養素が必要なのか、説明します。
タンパク質
タンパク質は筋肉や皮膚、髪の毛、血液、細胞など、体づくりに欠かせない栄養素ですが、多くの高齢者は不足した状態です。
タンパク質が不足した状態で運動をしても、筋肉を分解してエネルギーに変えてしまうので、筋肉量は減ってしまいます。
タンパク質が含まれている食材
- 肉
- 魚介類
- 卵
- 大豆製品
- 乳製品 など
タンパク質を多く含む肉や魚は、加熱をするとパサついたり、硬くなってしまうこともあります。噛んだり飲み込んだりする力が低下している方には食べにくいので、ひと工夫しましょう。
肉の塊を食べるのが難しければひき肉を使う、肉や魚のパサつきが気になるのであれば餡(あん)をかけるなどの手段があります。
また、朝食やおやつに牛乳やヨーグルトを取り入れるだけでも、タンパク質の補給ができます。もし食事だけではタンパク質が不足してしまう場合は、タンパク質を強化した飲み物や栄養補助食品などを利用してみてはいかがでしょうか。
カルシウム
カルシウムは、丈夫な骨をつくるのに欠かせない栄養素です。高齢者は骨をつくる速度より、破壊する速度が上回っているので、徐々に骨がもろくなってしまいます。
カルシウムはどの年代でも不足しやすい栄養素なので、高齢者はより意識して摂取しなければなりません。
カルシウムが含まれている食材
- 乳製品
- 小魚
- 大豆製品
- 小松菜 など
カルシウムが手軽に摂れる乳製品を積極的に取り入れましょう。牛乳が苦手なら、シチューにしたり、ヨーグルトやチーズなどでも良いでしょう。骨ごと食べられる小魚を料理にとり入れるのもおすすめです。
大豆製品や小松菜など植物性食品にもカルシウムは含まれていますが、吸収率はやや低めなので、吸収率を上げるビタミンDを一緒に摂りましょう。ビタミンDはサケ、きのこ、卵などに多く含まれます。
マグネシウム
マグネシウムも不足しやすいミネラルです。代謝を助ける、骨を形成する、筋肉を収縮させるなどさまざまな働きをします。
実はマグネシウムとカルシウムには関係があり、マグネシウムが不足した状態だと、体内のカルシウムも一緒に排出されてしまいます。骨粗しょう症が進む一因となってしまうので、不足しないよう気を付けましょう。
マグネシウムを含む食品
- 玄米
- ほうれん草
- バナナ
- そば
- 海藻類
- アーモンド など
マグネシウムは玄米に多く含まれますが、消化が悪いので、高齢者の場合は発芽玄米など消化吸収が良いものを選びましょう。また、間食にバナナやアーモンドを取り入れるのもおすすめです。
アーモンドが硬くて食べにくい方は、アーモンドミルクで代用するのも良いでしょう。味噌汁に海藻類を入れると、手軽にマグネシウムが補給できます。
ビタミンC
ビタミンCはコラーゲンの合成や、筋肉量の維持にかかわっているとされています。ある研究によると、ビタミンCが不足した状態では骨格筋が萎縮するものの、再投与すると骨格筋が回復するそうです。
なお、ビタミンCは水溶性ビタミンなので尿中に排出されやすく、毎日継続的に摂らなければなりません。
ビタミンCを含む食品
- パプリカ
- キウイフルーツ(ゴールド)
- ブロッコリー
- 苺
- 柑橘類
- キャベツ など
ビタミンCは野菜や果物に多く含まれます。中でもパプリカやブロッコリーはトップクラス。積極的に料理に取り入れましょう。
また、果物の中ではキウイフルーツや苺、柑橘類に多く含まれます。朝食の一品や間食に、これらのフルーツを取り入れてみてはいかがでしょうか。
ビタミンB1
ビタミンB1は糖質の代謝に関係がある栄養素です。不足すると、食欲不振や集中力低下、疲労感などの症状が現れるので、ますます新型栄養失調が加速します。
ビタミンB1も水溶性ビタミンなので、毎日コンスタントに摂取する必要があります。
ビタミンB1を多く含む食品
- 豚肉(ヒレ・モモ・肩など赤身の多い部位)
- ウナギ
- カツオ
- タイ
- 大豆製品 など
ビタミンB1を多く含む豚肉は積極的に取り入れたい食品です。赤身の部分に多く含まれるので、部位を選ぶ際には気を付けましょう。
そのほか、ウナギやカツオ、タイなど魚類や大豆製品に多く含まれます。タンパク質が豊富な食品ばかりなので、一石二鳥です。

しっかり食事をしていても、偏った食生活をしていると新型栄養失調になるリスクが上がります。特にタンパク質が不足すると、低栄養になったり転倒のリスクが上がったりして、QOLが低下します。
元気な毎日を過ごすためにも、十分なタンパク質を摂り、バランスのよい食事を心がけましょう。