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第32回

介護事故の慰謝料は高齢者なら減額される?争点となる後遺障害の認定と素因減額

最終更新日時 2020/07/21
#老人ホームへの入居
甲斐・広瀬法律事務所の弁護士で、「介護事故の法律相談室」を運営している甲斐みなみと申します。今回は、事業所側に安全配慮義務違反があった場合のケースについてお話します。

こんにちは。甲斐・広瀬法律事務所の弁護士で、「介護事故の法律相談室」を運営している甲斐みなみと申します。

これまでは介護事故の類型ごとに、主に「事故についての賠償責任が認められるかどうか」について解説してきました。今回は、「事業所側に安全配慮義務違反があり、発生した結果との因果関係も認められて賠償責任が肯定される場合、具体的に損害額はどうなるのか」について、ご説明したいと思います。

損害額の計算方法

交通事故と介護事故の場合、損害賠償請求をするときの項目は概ね一致しています。例として以下のようなものがあります(これらがすべてというわけではありません)。

損害賠償するときの主な項目

  • 積極損害…被害者が使用を支出しなければならないもの
  • 消極損害…事故にあったために得られなくなった利益

交通事故にせよ、介護事故にせよ、まずは該当する損害項目にあたる損害額をそれぞれ足していきます。その後、被害者側に落ち度がある場合には過失相殺(損害賠償額から被害者の過失に応じた減額を行うこと)をしたり(民法722条2項)、被害者側の既往症などを考慮して後述の素因減額(民法722条2項類推適用)を行って、賠償すべき損害額を算定することになります。

介護事故において争点になる事柄3つ

介護事故では、被害者が高齢で要介護状態であることから、以下の点が問題となることが多いです。

  1. 後遺障害の認定
  2. 死亡等の慰謝料の額
  3. 素因減額

これらの点について説明していきます。

後遺障害の認定

交通事故の場合は、損害保険料率算出機構が後遺障害診断書や医療記録をもとに調査し、体のどの部分にどの程度の後遺障害が残っているかを確認したうえで「後遺障害等級」を認定します。労災事故の場合は、労働基準監督署が後遺障害等級の認定を行います。

しかし、医療事故や介護事故では、後遺障害の等級を判定してくれる機関が存在しないため、後遺障害の有無が争点になりやすく、被害者からすると立証が難しくなります。

また、交通事故や労災事故で使用される「後遺障害等級表」は、両下肢をひざ関節以上で失えば後遺障害1級、下肢の一関節の可動域が2分の1以下に制限された場合は後遺障害10級、という形で細かく定められています。

しかし、高齢者の方が骨折で寝たきりの期間が続き、筋力が低下して歩行不能になったケースなど、介護事故の場合は交通事故等の後遺障害等級表にはあてはまらないことも多くあります。

従前から一定程度心身の障がいがあったとしても、「介助があれば歩行できていたのができなくなった」「1人でトイレに行けていたのができなくなった」というのは、ご本人にとってもご家族にとっても重大な影響があります。

少し古い判例ですが、大腿骨骨折後に下肢筋力低下の後遺障害が残り、一人で歩くことが不自由になったという介護事故の事案で、後遺障害等級に該当しないものであっても、障害の状況に応じて損害賠償額の算定にあたって考慮することは可能であるとして、後遺障害を認めた判例があります(福島地裁白河支部平成15年6月3日判決)。

死亡などの慰謝料の額

一般に交通事故などで死亡した場合の慰謝料は、亡くなった方の家族状況によって異なります。一家の支柱であれば2,800万円、配偶者であれば2,500万円、そのほかの場合が2,000万円~2,500万円程度とされています。

また後遺障害が残った場合も、1級の後遺障害が残れば2,800万円程度、10級の後遺障害が残れば530万円程度、というようにある程度の慰謝料額の基準が決まっています。

では、高齢でもともと要介護状態にあった方が死亡したり後遺障害が残った場合にも、上記のような慰謝料の基準がそのまま当てはまるでしょうか。

これについては裁判所でも判断が分かれるところですが、結論として事故前の心身の状態や年齢などを考慮して減額している例が多く見られます。もっとも、どの程度減額するかは判例によって判断がまちまちのようです。

例えば、横浜地裁平成24年3月23日判決は、介護付有料老人ホームで褥瘡が悪化して死亡した事例において、被害者の年齢、日常生活に介助を要する状態であったこと、既往症などを考慮して、一般に認められる死亡慰謝料よりも低めの1,600万円(被害者本人の慰謝料を1,200万円、近親者である原告4名の慰謝料を各100万円)を慰謝料として認めました。大阪地裁平成24年3月27日判決は、介護老人保健施設で浣腸を受けた際に直腸壁を損傷して死亡した事例において、被害者の年齢,既往症,身体の状態などを考慮して、800万円を死亡慰謝料として認めました。

褥瘡が悪化して亡くなった場合の慰謝料

後遺障害の残った事案でも同様に、被害者の既往症や事故前の心身の状態、年齢などを考慮して、後遺障害の慰謝料を減額しているものが散見されます。

被害者が高齢であることなどから慰謝料を減額することについては、批判も少なくありません。生命という保護法益は若年でも高齢でも同じであって、被害者の年齢によって死亡等慰謝料が増減するのは本来おかしいからです。

各判例も、高齢であることだけを考慮して慰謝料額を決めているわけではありません。事故前の心身の状態や生活状況、あるいは当該事故の態様など、当該事故に関するすべての事情を考慮して、最終的に慰謝料額を認定しているのだと思われます。

素因減額

交通事故などの不法行為の場合、被害者が事故前から持っていた体質等の素因によって、通常想定されるよりも損害が拡大した場合には、民法722条2項の「過失相殺」の規定が類推適用され、被害者側の素因を考慮することができるとされています(最判昭和63年4月21日等)。これを素因減額といいます。

この素因減額が医療事故や介護事故にも当てはまるかについては、考え方が分かれています。医療事故や介護事故では、被害者は、一定の病気や心身の障がいがあるからこそ、治療や介護サービスを受けることにしたのであって、加害者側に、そのような素因があることにより損害が拡大する可能性があることは、十分想定できるからです。

東京地裁平成24年3月28日判決は、事故による後遺障害を否定した事案ではありますが、被害者が認知症やパーキンソン病に罹患しており、要介護状態にあることを前提に施設の入所契約をしているのであるとして、素因減額を否定しています。

まとめ

介護事故の場合、「過失ないし安全配慮義務違反があったかどうか」「結果との因果関係が認められるかどうか」という賠償責任の成否自体が争点になることが多いのですが、賠償責任は認められたとしても、損害額についてもさまざまな争点があります。

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