介護とオシャレには何の関係もないように思われるかもしれませんが、実は日常生活動作や認知機能などにも影響があると考えられています。
介護事業には訪問理美容といったサービスもあり、近年はSNSなどでも話題になっています。
今回はオシャレが要介護者や高齢者にもたらすメリットについてご紹介いたします。
オシャレで要介護者が元気になる?
整った身なりは、出会う相手に好印象を与えるだけでなく、気配りやエチケットといったマナーにもつながっています。また、同時に自分自身の表情や姿勢を正し、気持ちを引き締めてくれます。
特に女性の場合は、どんなに年をとってもオシャレが好きなのではないでしょうか。むしろアンチエイジングやエイジングケアなどといった言葉が盛んに言われ、老いを感じるからこそ積極的にオシャレを楽しもうという方も多いのだと思います。
例えば、さまざまな介護事業サービスがあっても利用したがらない、通いたがらない原因の一つに「今の自分の姿を見せたくない、見られたくない」というものがあります。外に出かけなければならないのならしっかりと身なりを整えてから、と考える方が多いのではないでしょうか。
自宅でなかなか入浴しない方がいて、どうにかお風呂に入れてほしいという要望が家族から寄せられたことがありました。
そこで、ご本人に説明を重ねて、いざ介護サービスを利用するということになったら「通うことになるから、身なりを整えなきゃ!」と本人が自らお風呂に入るようになったということもありました。
実際にデイサービスに通うにあたり、気合を入れてお化粧なさってくる方も珍しくはありません。レクリエーションやアクテビティの一環としてネイルケアやお化粧を実施すると、女性の方々には大変喜ばれます。
それならばと専門家を招いて化粧講座やネイルアートを行ったときは、有料にもかかわらず大勢の方が熱心に参加されました。
メイクが完成して写真を撮ったところ「これを遺影写真にする!」と大喜びした方がいて、「私も!」「俺も!」と大騒ぎになったこともありました。

オシャレは整容として日常生活動作に含まれる
要介護者にとってオシャレはADL(日常生活動作)の向上が期待できます。
実は自立動作の指標となるBADL(基本的日常生活動作)の中には、ズバリ「整容」という項目があるほど、身だしなみを整える行為は日常的に行われる基本的な生活動作のひとつなのです。
オシャレは生きていくうえでそれほど重要なことに感じられないかもしれませんが、逆に考えるとそれが間違いであることがわかります。
- これまで身なりをきちんと整えていた方が急にオシャレに無頓着になる
- 髪や髭がぼさぼさになってきた
- ボタンの掛け違えや衣類の裏表逆などが目立つ
- 化粧どころか洗顔や歯磨きもしていない
もし上記のようなことが起こったら何かしらの異常があるのかもしれません。歳をとってどのような状態になったとしても、しっかりと整容されているべきですし、私たち介護従事者は整容を支援するよう指導されています。
オシャレにはオシャレをすること自体に喜びや満足感を感じる効果があります。
髪型がバッチリ決まったり、化粧のノリが良かったときにはそれだけでいい気分になったり良いことがありそうな予感がしたりするものです。特別な日には特別な服を選び着ますし、天気によってコーディネートもさまざまに変化します。
オシャレが心理に与える影響はかなり大きいのです。これらもわかりやすくするために逆に考えてみましょう。
- 髪型がまったく決まらない
- 化粧のノリが悪い
- いつでも同じ服ばかり
出かけようとする気分も起こりませんよね。ときどき「もう歳なんだから髪とか顔とかそんなこと気にしなくていい」という方がいますが、年齢を重ねたからこそ老いや難点をカバーできるようなオシャレをするべきではないかと考えます。
認知機能の維持や免疫力向上にも効果が期待される
オシャレが上手な方々は、高齢であっても社交性が高く、QOL(生活の質)も維持される傾向にあります。
こうした効果を狙って、「ファッションセラピー」「メイクセラピー」「アロマセラピー」「カラーセラピー」など、さまざまな療法が考案されています。
オシャレには自己肯定感を高めたり、積極性を高める効果も期待できるそうです。認知機能の低下抑制や抑うつ症状の改善などにも期待が高まっています。
確かに、自分に適した化粧品を選び、手先・指先を使って、色やバランスを考慮しながら繊細に整えていく行為は脳を活性化させる効果が期待できます。
また、化粧をすることで不安や抑うつ、疲労といったストレスが軽減する効果がさまざまな研究でもわかり始めています。
また、実際にオシャレの心理的効果とストレスホルモンへの影響を調べる研究も進められていて、オシャレをすることは、高揚感を高め、ストレスを軽減させ、免疫力を高めるのではないかという論文も発表されています。

最近では、認知症の方の身だしなみを整えて元気になったという動画もSNSで話題になっています。
訪問理美容については全国的にも広がっている既存のサービスですが、近年はカットだけでなくスキンケアやネイルケア・ネイルアートなどのさまざまな出張や出前サービスも増えているそうです。
自治体レベルでそうしたサービスを展開しているところもあるようですので、気になる方はぜひ調べてみてください。
新型コロナウイルスの感染拡大で、一時的にそうしたサービスも大々的に行いにくくなっていたようですが、今後再びそうした取り組みが積極的に発信されるようになることに期待しています。