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第347回

人生会議(ACP)で自分らしい最期を。専門家が教える「在宅看取り」の実現方法

最終更新日時 2022/12/08
#看取り・終活
目 次

「人生会議」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)とも呼ばれ、もしものときに備え、医療やケアについて事前に家族等や医療・ケアチームと話し合い、共有する取り組みのことです。

この人生会議は、終活ノートの出番もあり、終活を学んでいくうえでも外せないテーマです。

そこで今回は東京・江東区の「ケアの駅」で開催された在宅医療推進のための多職種連携研修交流会・「イキイキ活動★東陽」の模様をリポートします。

勇美記念財団の助成を受けたこの講習会には、在宅診療のクリニック3ヵ所を含む19人が参加。ライフクリニックの佐々木翼医師による「在宅で最期を迎えるためのACP」をタイトルに掲げた基調講演のあと、事例紹介などを中心とした活発な議論が展開されました。

なぜ今、「人生会議」なのか。「ケアの駅」を主宰する山田富恵さん(訪問看護認定看護師)にその理由を、聞いてみました。以下はその一問一答です。

医療機関のACPはまだ発展途上

――― 今回のテーマを「人生会議」に決めた理由をお聞かせください。

山田 「最期はどうしたいか(最期までどこにいたいか)って、今の状態では、療養者が決める状況になってないと思っているからです。まわりが勝手に『在宅はムリ』って言って」

――― 周りというと、どんな人たちですか?

山田 入院しているときは、医療機関の医師、相談員、看護師。家にいるときには、ケアマネ、ヘルパー、在宅医、訪問看護師、家族、たまにしか来ない親戚などです。

――― ACPというのはAD※より1歩進んで医療従事者が入り、家族も入り、会議を行うという形ですよね。そこで療養者の意思が尊重されず「在宅はムリ」となるのですか?

山田 医療機関の行う「ACP」は本人の思いを引き出すのが不十分だと思うのです。 人工呼吸器をつけますか? 緊急の時には救急車を呼びたいですか?その行間に、もっと必要な話し合いがあるはずなんです。

※将来、判断能力を失った際に自分に行われる医療行為に関する意向を判断能力があるうちに意思表示すること

ACPに関するさまざまなデータ

山田さんの問題意識が、今回の研修交流会のテーマとなって実現したわけです。まず登壇したのが佐々木医師。ユーモラスなキャラクターがスライドに盛り込まれ、データをふんだんに使いながら、質問形式で参加者を引き込む講義が進行しました。

まず最初に出されたクイズは、1951年に約80%だったという数字。この答えは、自宅で死亡していた割合で、正確には82.5%。一方、2019年にはこの数値が13.6%に減少し、病院で亡くなっている方が71.3%に上っているというのです。

1951年当時、病院で亡くなっている人は全体の9.1%にとどまっていたということです。「ここのところ自宅で死亡の割合が増えてきたと思ったら、老人ホームで亡くなる方が増えているだけだった」という注釈が加えられました。

在宅での看取りは、さほど増えていないというのが実情であるわけです。

次に提示されたのが、人生の最期を迎えたい場所について、日本財団が出しているデータです。最も多いのが自宅で58.8%、次に来るのが医療施設で33.9%、3位が介護施設で4.1%、その他が3.1%、子の家が0.1%という内訳でした。

6割近い方が、在宅で最期を迎えることを希望しているわけです。

ここからいよいよ本題です。「ACPとは?」という入り口から入り、患者、家族、医療者が将来に備え治療法などを、話し合うことだと確認します。

一方でACPの認知度がそれほど上がっていないことを指摘。医師が21.8%、看護師が20.9%、介護士が5.9%、一般市民に至っては4%しか知らないことを明らかにしました。

さらに2019年11月25日に発表された「人生会議」のポスターが「家族を傷つける」と患者団体などから批判を受け、翌日に発送が中止された件に関しても、実際には医療者の73%、経験者の76%、当事者の55%が賛同していたデータを紹介。

あまり報道されていない事実についても明らかにしており、十分に興味をそそる内容になっていました。

また、「胃ろうをしないでもいい」という選択肢を知っていると、72.4%が胃ろうを望まないと答え、望む人はわずか4.8%しかいないという事実を紹介。説明の仕方によって数値が変わってくる事実も提示しました。

次にテーマは「Death Education(死への準備教育)」に移ります。1961年のアメリカでは88%の医師ががん告知をしなかったのですが、18年後の1979年には98%ががん告知をするようになったそうです。

それは死への準備教育をするようになったためで、患者さんが今どういう状態にあるかを告知しないと、それを話しにくいという事情からだそうです。

Death Educationとは人間らしい死を迎えるにはどうすべきか、に関する教育のことですが「死ぬまでにやりたい10のコト」というテーマは、まさしく終活とリンクします。

実際には余命1日を穏やかに過ごすか、無理をして2日間に伸ばすか、という選択になります。

そこでまず介護に終わりがないこと、ゴールが見えないことが一番苦しいという現実を踏まえたうえで、症例が5つ挙げられました。

実例から学ぶ5つの教訓

まず60歳代で膵がん、肝転移の女性が余命3ヵ月と告知されながら、在宅医療に移された末、4ヵ月目に転院したケース。長期介護になりゴールが見えなくなったことで介護する側が疲れてしまい、続かなくなった例です。

ショートステイなどのレスパイトケア(介護の小休止)の選択も提案され、最後まで家なら、その体制づくりをすれば良かったという教訓が語られました。

次に88歳時に区域麻酔、その後HOT(人工呼吸器)を導入し、90歳で全身麻酔により手術。3ヵ月後に人工呼吸器のまま転院した90歳の女性のケース。「これは麻酔医に言うことですが」と前置きしたうえで、麻酔プランがその後に影響したことを指摘しました。

3番目の教訓は、日本人の9割以上(91.9%)が入浴好き、というデータを裏付ける話。

肝がん末期、血圧60-70mmHg台で下顎呼吸が始まっている60代男性の奥さんが、夫に入浴をさせるべきかどうか迷っていると聞き、佐々木医師は「入浴してもしなくても1日もつか2日もつかという状況。病院ではないんで、最後は好きなことをしてもいいのでは」と入浴を進言。

すると息子さんが「最期にきれいに洗ってもらって良かったね」と父親に声をかけていたといいます。佐々木医師はその後も「やらないで後悔するなら、やったほうがいい」と伝えるようにしているそうです。

また大腸がん肝転移、余命1ヵ月程度の方。積極治療は望まず、退院して在宅へと移った80歳代女性のケース。お迎え前日に、疎遠になっていた息子のお嫁さんがお孫さんを連れて来たそうです。

本人はほとんど意識がないはずなのに、孫に向かって手を振ったそうです。「病院にいたら死期が早まっていたと思います」と成功例に挙げていました。

最後に骨髄移植後、GVHD(移植で免疫機構が破たんする病気)になり集中治療室に入った50歳男性のケース。透析、挿管を拒否していたそうですが、同期の主治医から「拒否されても、黙殺して挿管してください」と言われたそうです。

この例を受けて、佐々木先生が言った言葉が印象に残りました。「医療従事者にとっての真の負けは…。最期に、患者さんを楽に逝かせられないこと」です。

講座の締めくくりとして、「麻薬と人間」「幻覚剤は役に立つのか」「医療エラーはなぜ起きるのか」の3冊を推奨されました。

そして最後に「人生会議はお早目に」「死への準備教育の重要性」「医療でも何でも引き際が肝心」と3つのポイント挙げられ、講演は終了。その後は参加者によるディスカッションの時間も設けられました。

交流会終了後、山田さんにも人生会議の実例をお話しいただきました。

人生会議は地域包括ケアシステムの根幹となる

山田 ある「人生会議」をやったAさんの例ですが、その方は 疾患のせいで、少しモッタリとした物を食べると吐いてしまうため、流動食しか食べられない。でも動き、デイサービスでカラオケを歌うので痩せてしまった。

その方に 「大事にしたいことはなんですか?」とカードを使って選んでいただきました。Aさんの答えは「家族と一緒に過ごしたい」「人とかかわりたい(デイサービスに通ってカラオケ歌いたい)」「口から食べたい」などでした。

――― まずAさんの希望を聞いたんですね?その後は?

山田 医師、離れたところに住む娘、一緒に住んでいてもそんな話をしたことのない妻、デイサービスの職員、ケアマネ… 全部巻き込んで、その思いを伝えたんです。

同じ場所、同じ時間にいなくても、共有できるように仕向ける、その後に医師がサポートできること、娘がサポートできることなど、各者がサポートできることを持ち寄りました。

――― Aさんの反応は、いかがでしたか?

 

山田 Aさんが食べられず吐いていたのは不安の要素も、妻の介護力の問題もありました。 しかしみんなに想いを伝えられたことと、サポートの内容がわかったことで、流動物でも飲むようになり、元気を取り戻しました。

――― なるほど。人生会議のある成功例と言えそうですね。ありがとうございました。

2025年に構築が目指されている地域包括ケアシステムの根幹にかかわるのがこの人生会議。地域に密着した形で「人生会議」を広げていく過程で、終活ノートなどの出番も、随所にありそうです。

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