介護作家・ヤング~就職氷河期ケアラー就業支援・介護政策提案コミュニテイー代表の奥村シンゴです。
介護保険は、高齢化や核家族化の進行に伴い、家族の負担を軽減して社会全体で支えることを目的に2000年に創設されました。
「よしてよせての会」や取材などで、介護保険がなかった時代に介護をしていた方からの話を聞くと「一人を介護するのに毎月40万円の費用がかかった」「毎日、在宅介護でたまに地域の人に手伝ってもらった」と、今以上に過酷な日々を送った話を聞き「ずいぶん便利になったな」と感じます。
しかし、介護経験者なら一度や二度は「こういう部分に融通をきかせてほしい」と、介護保険に不満を感じたことがあるのではないでしょうか。
今回は医療保険と介護保険の間で生じている不具合について考察していきたいと思います。
看取りが近く一時退院して数日間介護サービスを利用したいと思っても使えない
ここで少し例を挙げてみましょう。
患者の容態が終末期にさしかかり、主治医から「残念ながら長くてもあと1ヵ月持つかどうかです」と余命宣告を受けたとしましょう。
多くの家族は、「入院中の病院から一時外泊し、数日間だけでも家で介護したい」という希望を持つのではないでしょうか。患者本人の一番好きな場所で、好きな人に囲まれながら、最期を迎えさせてあげたいという気持ちになるのは当然です。
ところが、現在の介護保険と医療保険の制度では、入院中に一時外泊し、一時的に自宅で看ることはできますが、介護保険サービスを利用できません。
一時外泊は入院中の扱いとなり、医療保険が適用されます。介護保険との併用は認められていません。介護保険を利用するためには退院するしかないというのが現状です。
私自身も、一人で9年間介護した祖母が入院中に苦渋の決断をしなければなりませんでした。
祖母は、2021年春に壊死性軟部組織感染症を罹患後、右足半分を切断しました。一命はとりとめたものの、89歳という高齢のため、いつ容態が急変するかわかりませんでした。
さらに、その年の冬に敗血症を発症しましたが、奇跡的に回復していました。
主治医からは「右足の傷口は毎日処置し、抗生剤を投与していますが、耐性ができてしまって薬が効かなくなる日が迫っています。そろそろ覚悟しておいてください」と告げられました。
そこで私は、「ばあちゃんは、俺と一緒に家で過ごすのが一番好きやったから一時退院したい」と伝えました。
これに対し、主治医は「一人では無理。一時外泊は介護保険が使えないし、毎日、傷口を処置して二重にガーゼを巻いたり、一日何回か褥瘡予防で体位変換(毎日看護師二人体制)をして、抗生剤の調節をしたり、ケアレベルが高すぎる」と言いました。そのため、祖母の在宅介護を断念せざるを得ませんでした。
介護保険が利用できない以上、家族だけで介護をすることになりますので、どんなに自宅で過ごさせてあげたいと考えても、要介護度が高い場合は慎重な判断が必要になります。
ただ、福祉用具はレンタルが可能ですので、利用を希望する場合は病院のソーシャルワーカーやケアマネージャーなどにご相談ください。

医療保険と介護保険のリハビリは併用できない
「骨折や足の打撲などで入院中に回復期リハビリテーションを実施したときや、経過が順調なとき、退院後も同じ病院でリハビリができるのか」という疑問を投げかけられることがあります。
以前、私の祖母も自宅のベッドから転倒して打撲し、入院中のリハビリ施設が気に入っていました。
ところが、ケアマネージャーから聞かされたのは「退院後は介護保険が適用され、今まで通っていたデイサービスでリハビリをしないといけない」ということでした。つまり、この場合は介護保険が優先されるのです。
目的 | 保険種別医療保険 | 介護保険 |
---|---|---|
日数 | 制限あり | 制限なし |
目的 | 日常生活 | 生活維持・向上 |
長期利用 | 不可 | 可 |
このように、それぞれの目的や利用できる日数も異なっており、一般の方にはわかりづらくなっています。
私の母は、原因不明の腹痛で顕著な体重低下や食欲減退、服薬管理困難で入院後、ADL(日常生活動作)が下がって、2ヵ月で要支援2から要介護4に介護度が上がりました。
このケースでは、医療保険における「廃用症候群リハビリ」が適用され、リハビリ日数の限度は90日間でした。
しかし、90日を過ぎても症状の改善がなく、頻繁にナースコールを鳴らしたり、褥瘡ができたり、精神疾患が悪化したりした場合、老健などの施設では受け入れを拒否されるケースもあります。
そうすると、比較的寝たきり患者が多い療養型病院等しか選択肢が無く、限られてきます。こうしたケースに対応した介護・医療保険の併用には課題があると思います。
医療保険と介護保険が併用可能な3パターン
ただ、場合によっては医療保険と介護保険を併用できることもあります。
①特定の疾患に該当する場合
厚生労働省が定めた特定疾患に当てはまる人が介護保険を利用中に状態が悪化した場合です。
該当するケースと特定疾患は、下記の通りです。
該当する4つのケース
A.末期の悪性腫瘍および厚生労働大臣が定める疾病など(下記)に該当する場合。また、急性増悪期の特別訪問看護指示書の交付がある場合
B.65歳以上で要支援・要介護に該当しない方
C.40歳以上65歳未満で、老化が原因とされる病気(政令で定める特定疾病)以外の方や要支援・要介護に該当しない方
D.40歳未満の医療保険加入者とその家族(病的な妊産婦や乳幼児などを含む)
該当する特定疾患
- 末期の悪性腫瘍
- 多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症およびシャイ・ドレーガー症候群)
- 多発性硬化症
- 重症筋無力症
- スモン
- プリオン病
- 筋萎縮性側索硬化症
- 亜急性硬化性全脳炎
- 脊髄小脳変性症
- ライソゾーム病
- ハンチントン病
- 副腎白質ジストロフイー
- 進行性筋ジストロフィー症
- 脊髄性筋萎縮症
- パーキンソン病関連疾患
- 球脊髄性筋萎縮症
- 慢性炎症性脱髄性多発神経炎
- 後天性免疫不全症候群
- 頸髄損傷または人工呼吸器を使用している状態及び急性増悪期の場合
また、末期がんも介護と医療の両方が必要になるため、介護保険と医療保険の併用が認められています。
②異なる診断名でサービスを利用する場合
介護保険でリハビリを受ける人が、別の病気でリハビリが必要になった場合、例外的に医療保険と介護保険を併用できる場合があります。
要介護3の認知症の人が打撲で入院し、治療が必要になった場合、医療保険を併用したうえでリハビリを続けられる可能性があります。
③それぞれのサービス利用月が異なる場合
例えば、医療保険での訪問看護が9月で終了し、10月から介護保険で訪問看護を利用する場合などです。
どちらかのサービスが終了した翌月以降は、別の保険利用が認められます。

こうした医療保険と介護保険について、近著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』(株式会社法研)に詳述しています。読売新聞・神戸新聞・共同通信・マネ―現代(現代ビジネス)・介護専門誌日総研認知症ケアなど多数で紹介され、ジュンク堂ランキング1位を獲得しました。今、クローズアップされているヤングケアラーなどの若者介護問題とあわせて、ぜひご一読ください。
また、よしてよせての会では、介護相談、メディアPR方法、ライター・出版セミナーを開いていますので、お気軽にお問い合わせください。