読者の皆様、こんばんは。『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』の著者であり介護作家・メディア評論家・「よしてよせての会」代表の奥村シンゴです。
2021年8月、母親が身体表現性障がいで精神科病院に医療保護入院になったのは、前回お知らせしました。あれから約2ヵ月。母親の健康状態は、快方に向かうどころか悪化の一途をたどっていて、さまざまなハプニングがありました。その中から、私の経験を基に「入院病棟を常時把握しておく」「主治医と直接面会」「セカンドオピニオンを得る手段」などをご説明いたします。
入院が隔離室や閉鎖病棟の場合、具体的な根拠を聞く
母は、2年ほど前から「お腹が痛い」と訴えていましたが、症状はそれほど酷くありませんでした。ところが、約1年前から症状が強く出るようになり、5ヵ所の病院に診てもらい、いずれも「原因不明の腹痛」「極度の便秘」「身体表現性障がい」と診断。要介護認定を申請したものの、「要支援2」でした。要介護認定は、「機能的疾患」について、本人や家族の負担に比べて要介護度が上がりにくいのです。
現に、母親が利用できる介護サービスは、30分間のヘルパーが週3回程度で、朝・昼・夜・寝る前の飲食や服薬に到底対応できません。そして、飲食や服薬がほぼ一人でできず、5ヵ月間で体重が5キロも減少して、31キロになってしまいました。
母親は低体重・低栄養状態でした。病院や高齢者施設の多くはリスクが高い患者を受け入れたがらない傾向があり、ことごとく断られました。
そこで、今年8月にケアマネージャーや訪問看護士と相談の結果、母親に少しの間、精神科病院で体調を整えてもらおうと、やむなく「医療保護入院」を決断しました。
精神科病院の入院形態は、患者本人に入院意思がある「任意入院」、家族などが入院を決める「医療保護入院」、精神保険指定医の判断で72時間以内入院可能な「応急入院」、自殺や他傷行為の恐れがある場合の「措置入院」の4種類があります。
入院後、すぐ母親から「蛍光灯の明かりとトイレがあるだけや。私、歩けんようになるで。こんな場所に閉じ込めんといて」と悲痛の電話がかかってきました。精神科病院の部屋の形態は、他の患者から身を守り、自殺防止を目的とする「隔離室」、病棟の出入口が施錠され患者が自由に出入りすることができないようにしている「閉鎖病棟」、1日8時間以上施錠されない「開放病棟」と3種類があります。母はそのうちの「隔離室」にいたのです。
私は、「母親は、隔離する症状じゃない。開放病棟に移してください」と訴えました。しかし、主治医は「病院のルールで入院後2週間は隔離室に入ってもらう」の一点張りでした。「病院のルール」で隔離室に入れるというのは、おかしいと感じました。そこで調べてみると、「隔離室」へ患者を入れる条件があることを知りました。
隔離室に入るルール
- 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがあるなど、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合
- 自殺や自傷行為が切迫している場合
- 他の患者に対する暴力行為や著しい迷惑行為、器物破損行為があり、他の方法ではこれを防ぎきれない場合
- 急性精神運動興奮などのため、不隠、他動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療・保護を図ることが著しく困難な場合
- 身体合併症を有する患者について、検査および処置などのため、隔離が必要な場合
母親は、(1)~(5)のどれに該当しているのか疑問でした。その影響か、入院から1週間で自立歩行から車椅子となり、電話が難しくなるほど体力が低下して、会話が通じづらくなってしまいました。精神科病院勤務の知人は、「本人や家族はお辛いでしょうが、マンパワー不足で隔離室に入れるケースが少なくないんです」と話します。隔離室や閉鎖病棟への入院を勧められた場合、先の条件に該当するかどうか事前に聞いておいた方が良いのかもしれません。

治療内容に納得できない場合、主治医と直接面談を
母が入院した精神科病院に対し、私はいくつかの疑問と不満を抱きました。
- 入れ歯治療を1ヵ月以上放置し、家族に対応を丸投げ
- 長期治療前提のみ往診許可
- 病院の玄関に「一時外出・外泊は許可します」と書いてあるにもかかわらず、コロナ禍や本人の身体状況を理由に許可がなかなか下りない
- 入院5日目から連絡が途絶えた
- 検査結果の説明がない
そこで、私は主治医に面会をお願いして、上記の疑問をぶつけてみました。(1)と(2)は「病院の規則」、(3)は「主治医の判断」ということでした。(4)については「通話が可能なのは、公衆電話のみ」だそうで、車椅子の患者を看護士が電話口へ連れて行き、病室へ戻す作業があり、回数が限られているとの説明でした。(5)は、面会時に説明をしてもらいました。
コロナ禍で面会が禁止されている高齢者施設が多く、家族は不安やモヤモヤした気持ちが普段より大きくなりがちです。高齢者施設や病院との連絡や主治医と面談の結果、家族が納得できない場合は、次のような手段をとることが考えられます。
- 各都道府県の保健所へ電話し、精神保険相談
- 入院・入所中の病院や高齢者施設の窓口に相談
- 各都道府県の医療窓口へ相談
- ケアマネージャーや訪問看護士など専門家へ相談
コロナ禍のセカンドオピニオンは慎重に
それでも解決しない場合は、家族の想いだけでなく、本人の意向を最大限に尊重し、第三者の客観的視点を取り入れたうえで「セカンドオピニオン」を検討すると良いかもしれません。
コロナ禍の影響で、病院や高齢者施設を家族だけで探すのは困難な状況です。紹介状が必要だと断られたり、空きが少なかったりして、希望通りにならないケースがよくあります。
家族が病院を探し転院が可能になったとしても、主治医の紹介状がないと、一から検査が必要な場合が多く、本人の心身的な負担が大きくなります。
本人から見れば、せっかく慣れた環境がガラッと変わってしまうので、逆効果になることもあります。
なるべく主治医から病院や高齢者施設を複数紹介してもらい、治療内容や職員対応などで見極め、転院するかどうか慎重に判断する必要があるのではないでしょうか。

こうした病院・高齢者施設や職員のリアルな実態は、近著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』(株式会社法研)に書いています。今、クローズアップされているヤングケアラーなど若者介護問題と合わせて是非ご一読ください。
また、2021年9月にヤングケアラー・若者ケアラー・就職氷河期ケアラーを対象に「よしてよせての会」を立ち上げました。話し合うだけでなく、国・自治体・政治家などに必要な介護政策を提案、啓発活動、レクリエーション、就業サポートと実効性のあるコミュニティーを目指しています。詳しくは「よしてよせての会」ホームページをご覧ください。