読者の皆様こんにちは。介護作家、ケアラー支援活動、メディア評論家などで活動中の奥村シンゴです。
「在宅介護をしたいけど、仕事や育児があるし、施設へ預けるしかない」という話をよく耳にします。さらに「介護者が在宅介護を希望しても、医療行為が必要となるため、療養型病院へ転院するしかない」ケースもあります。
私の祖母は、認知症が進行し、2019年1月に精神科病院へ入院。その後の2020年11月、療養型病院へ転院しました。その直後、皮膚や筋肉に細菌感染する壊死性軟部組織感染症で急性期病院へ入院し、命の危機に瀕しました。
私は、30歳過ぎからほぼ一人でケアをしてきた祖母と「最後まで一緒に自宅で過ごしたい」と在宅介護の道を模索しましたが、主治医や周囲から猛反対されて断念せざるを得なかったのです。今回は私が経験したことを交えて、療養型病院の現状についてお話いたします。
療養型病院が抱えている課題
祖母は、急性期病院の主治医や看護師の迅速な診断と治療で、奇跡的に一命をとりとめました。
壊死性軟部組織感染症は、足を切断して抗菌薬を服用すれば完治が期待できますが、高齢者の場合では簡単にはいきません。というのも、高齢者は、足を完全切断して全身麻酔で手術をすると傷の部分から大出血して死に至るリスクが高くなるため、部分的な処置しかできないケースが多いからです。
祖母は、幸いにも順調に病状が回復し、全身点滴・酸素マスク・昇圧剤・輸血治療を行うことができました。
その後、急性期病院の治療を終え転院が必要になり、「元の療養型病院へ戻るか」「新たな療養型病院を探すか」「在宅介護をするか」の三択でした。実は、祖母の病気は主治医から「もう少し早期に発見できていれば足を切断する必要がなかったかも」と言われました。
祖母が入院していた療養型病院は、外来診療がない療養病棟専用で要介護度が高い寝たきりの人が多く、主治医は高齢の勤務医が主体でした。外部の目があまりないせいか、院内に活気がなかったり、受付すぐ横に霊安室があったり、入院後の病状報告がほとんどなかったりと対応に疑問を感じていました。
今、考えればもう少し病院探しをしっかりしておけば良かったと後悔していますが、重度認知症、要介護5で全介助と高度な医療ケアが必要な祖母を受け入れてくれる病院自体が少ないのです。
療養型病院は急性期病院に比べ、主治医や看護師、介護士の数が少なく細かなケアができないのが現状です。
さらに、祖母の主治医は、「お一人で介護されるのは、かなり困難です。2時間から3時間に1回体位変換をしますが、体重も45キロあり、看護師2人がかりです。しかも、傷から細菌が侵入すると再発リスクが上昇します。そして、2時間に1回患部にクリームを塗ったり、経鼻経管栄養、たんの吸引といった細かなケアが必要になります。さらに言えば、コロナ禍で在宅介護時に急変しても対応が難しい」と言いました。
主治医の話を受けて、私は断腸の思いで在宅介護をあきらめました。
重度患者の転院先選びは家族に選択肢がほぼないことも
私は、祖母のために新しい療養型病院を探し始めたものの、急性期病院の退院支援室の担当者が、とにかく早く祖母を退院させようとする一心で親身に相談に乗ってくれませんでした。
私が「病院を複数見学・面談したい」と言っても、退院支援室の担当者は、「1ヵ所だけ療養病棟をご紹介しますので、そこかお祖母様が入院されていたところに戻ってください」の一点張りでした。
急性期病院は、救急患者が優先です。仮に長期入院をすれば、診療報酬が減り、経営に響きます。新型コロナウイルス感染症の影響で病床がひっ迫しているので、仕方がないのかもしれません。
急性期病院の退院支援室の担当者から紹介された療養型病院の情報は、「壊死性組織軟部組織感染症の患者を受け入れたことがある」程度で、具体的な事柄が今ひとつわからずあやふやでした。
私は、インターネットや知人の医療従事者に聞いて病院を調べました。しかし、「この病院いいな」と思って電話をしても「紹介状が必要なので、入院先の病院でもらってから電話してください」と言われて、門前払いを食らうばかりでした。
結局、急性期病院が選んだところに転院するしかなく、利用者家族に選択肢がないに等しいと感じました。もう少し選択肢があってもいいのではないかと思ったのを覚えています。
療養病棟のある総合病院は明るく安心できる場所だった
そして、急性期病院から紹介を受けたのが療養病棟のある総合病院でした。外来診療や救急治療も受け付けていて、祖母が以前いた療養型病院と違い、院内全体が明るい雰囲気に包まれていました。職員同士のコミュニケーションがよくとれていて、清潔感のある病院でした。
病院のエレベーターの中で、看護師が祖母に「もうすぐ着くからね、大丈夫だよ。今日はね、お孫さんが一緒に来てくれてるね、良かったね」と声をかけてくれました。
主治医は、30代前半ぐらいの女性でした。私が「経鼻経管栄養より胃ろうの方が本人は苦痛が少ないのではないか?」との質問すると「ご本人さんが苦しかったり、取ってしまったりする様子もなければ、経鼻経管栄養が妥当です。胃ろうは手術になりますし、ご高齢なので負担が大きいです」と的確に教えてくれました。
看護師には、「ここは専用の療養型病院とは違い、主治医や看護師の年齢層が幅広く、勉強会もよく開いています。おばあさまが1日でも長く穏やかに過ごせるようサポートしますね」と温かい言葉をいただきました。
本人や家族にとってはじめての病院で不安はありましたが、「ここなら大丈夫そう、任せてみよう」と安心できる対応でした。そして、現在、祖母には障がい者病棟で治療を続けてもらって、特に変わりなく過ごしています。
ここで私の経験をまとめていきたいと思います。
- 療養型専門病院より総合病院内の療養病棟の方が良かった
- 重度患者が急性期病院を終えた後の転院先は、医療リソースが限られている。コロナ禍では「療養型病院」の一択しかなかった
- 精神科病院で大病を発症した場合、元に戻るのは高度な治療が必要になるため、療養型病院への転院が多い
こうした介護者の視点からみた病院のリアルな裏話や選び方を、近著『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』(株式会社法研)に記載しています。ジュンク堂書店1位獲得、読売新聞・朝日新聞・共同通信・ヤフーニュースなど多数に紹介されました。ヤングケアラー(私はミドルケアラー)など若者介護が話題でもありますので、この機会にぜひお読みください。