皆さんこんにちは。株式会社てづくり介護代表取締役の高木亨です。
入浴介助に携わる方は想像してみてください。あなたは「特別な事情があるから」「皆がそうしているから」「あなたのためなのだから」などの理由で、「複数の異性の前で全部服を脱いでくれ」と言われて裸になることができるでしょうか。ましてや、自分でお金を払っているのにそのようなことを強要される事態が、通常で起こり得ることだと考えますか。
入浴サービスは多くのデイサービスで提供されていますし、看板メニューである事業所も多いです。広い浴場や素晴らしい景色、安全な設備、ヒノキ造り、温泉並みのお湯の成分など…。入浴介助を魅力的に感じさせる謳い文句はさまざまあるでしょうが、ご本人への「配慮」がなければ、簡単にすべてが台無しになってしまいます。
今ではほとんどの通所介護事業所で「個人の尊厳」「人権の尊重」は十分に配慮されていると思います。しかし、もしデイサービスでお勤めの方が「自身が勤務しているデイサービスの入浴サービスを利用することができるか」と自問自答したとき、恥ずべき対応をしていないと胸が張れるでしょうか。
今回は、通所介護における入浴介助のポイントについてお話しします。
「自分もお世話になりたい」と思える入浴介助を
私が介護業界に入ったのは介護保険制度が始まった年ですので、当時の現場の状況について、「措置制度の名残が強くあったからだ」と言えばそうなのかもしれません。しかし、ほかの業界と比べたときに、お客さまに対するあまりの扱い方の違いに愕然としたのを今でも覚えています。
当時の私の介助技術はあまりにもたどたどしく、諸先輩方からすれば見るに堪えないものであったことは想像に難くありません。とはいえ、あまりにも手際よく次々と裸にされて浴室に送り込まれ、「綺麗にすることが正義」であるかのような入浴介助方法に目を疑ったものです。
介護にかかわっている方々ならば、「個人の尊厳」や「人権の尊重」などの配慮についての話は、耳にタコができるほど聞かされていることでしょう。これをわかりやすく言うならば、「自分自身が全身麻痺になったとき、自らの勤める事業所でお世話になりたいと思う介助」のことだと思います。逆に「お世話になるようなことが絶対に避けたい」と思うような対応しかできていないのであれば、「配慮不足」ということです。
介護現場が大変であることは、私自身20年以上も勤務していますのでよく知っています。時間が足りるということはなく、入浴の際でもかかわり方に余裕を持てないことも事実です。しかし、尊厳を重んじない介助はお世話でしかなく、介護サービスではありません。
そうは言うものの筆者自身、介護業界に勤めてしばらくすると、業務に慣れるとともに強烈な違和感や配慮の気持ちが薄れていってしまった時期があります。利用されている方から強くたしなめられるまで忘れておりました。なので、もし配慮を忘れて介助に当たっている方がいましたら、「自分がお世話になりたいと思える介助ができているか」をよく考えて、業務を見直してほしいです。そうした前提のうえで、ようやく入浴介助を実施できる体制が整ったと思います。
入浴は認知症予防の効果もある!?
入浴介助は立派な介助支援の一つです。入浴自体にADLや健康状態の維持・向上の効果が期待できます。洗浄効果や清潔の維持改善はもちろん、血流の向上、新陳代謝の促進、むくみの解消、リラックス効果、免疫力の向上など、ほかにもまだまだあるでしょう。「温泉から得られる効果や効能に近いものが入浴には期待できる」と言っても過言ではありませんし、認知症予防にも効果があるとする調査結果もあるそうです。
入浴時の事故「ヒートショック」に注意
入浴には期待できる効果が高い一方で、在宅における事故も浴室にかなりの割合が集中します。浴室での事故は、特に呼吸器と循環器系に大きな影響を及ぼしますので、入浴前の健康状態の確認を怠ることのないようにしましょう。浴室で起きる代表的な事故の一つである「ヒートショック」については、皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
介助にあたっては、温度差の段階的な解消や一定の室温の維持などの配慮も十分に考える必要があります。また、入浴の際にはよく汗をかき、水分が不足して熱中症になることもありますので、事前に水分やミネラルの補給もしっかりとしておくことが大切です。
また、バイタルサインのチェックや顔色の良し悪し、動作といった、普段との変化の有無にも気を配るようにしましょう。
ご本人ができる動作を奪わない
入浴するためには衣類を脱いでいただく必要がありますが、その際に「時間がないから」と介助で脱がせていいものではありません。配慮の面からもそうですが、衣類の脱ぎ着もまた本人のADLを維持するための大事な訓練となります。より良い脱ぎ着の仕方や介助具などの案内・提案ができるようであれば本人にお伝えしてみてください。
全身の清潔を保つうえで、「全身をくまなく洗って差し上げたい」と思う方もいるでしょうが、本人ができる動作を奪わない視点が介助においては重要です。洗い方も人それぞれですので提案くらいはしても良いでしょうが、洗い方を強制するようなことがあってはなりません。
洗い方が不十分な場合は洗身を補う視点で介助にあたりましょう。もちろん、清潔を保つことは大切ですが、私たち介護は医療とは異なります。全身をきれいにし、清潔を保つことと本人の意思の尊重や今後の生活の維持とのバランス感覚を無視して、一方的な「善かれ」を遂行することのないようにしたいものです。
入浴介助加算(Ⅱ)は個人の意思を尊重できているか
今年は介護報酬改定が行われ、科学的介護についての方針が強く打ち出されたことは言うまでもありません。入浴サービスについても、かつてないほどの大きな見直しがされました。「入浴介助」は「入浴介助加算(I)」(40単位)となり、「入浴介助加算(Ⅱ)」(55単位)は上位区分として新設された形となります。
経営側としては、単純により単価の高い加算(Ⅱ)を選択したいところでしょう。しかし、加算(Ⅱ)の条件は冒頭に述べた「個人の尊厳」「人権の尊重」に対して配慮したとき15単位の価値があるかさえ疑わしいと、私は考えざるを得ません。
算定するかしないかは所属する組織によって決められることですから、方針にとやかく言える立場ではないかもしれません。しかし、算定要件をくわしく学び「自分ならどうするのか」「相手の立場であればいかがなものか」を考えなくなってしまうことは、介護そのものを否定しかねません。冒頭に述べた「入浴介助に携わる方」には、そうした算定の意思決定をなさる方々も当然に含んでいます。
今回の上位算定の要件は「自宅での入浴に向けた合理的な仕組み」が組まれているわけですから、最終目標は言うまでもなく「デイサービスで入浴することなく自宅で入浴できるようになる」、すなわち入浴介助の卒業です。いずれは、入浴介助加算そのものが算定されなくなることこそが理想となっています。
入浴は極めてデリケートな活動ですので、利用される方が初めから自宅入浴できるようになることを望むのであれば、上位加算の積極的な採用はもちろんありです。
しかし、自宅の入浴環境に立ち入る必要性や安全に入浴できるようになるまでの間に、下記のような「入浴訓練」することをデイサービスでの入浴を希望する方が望むか否か、熟考していただく必要はあるでしょう。
- 綿密な計画を立てる
- 自宅の入浴環境を晒す
- 入浴手順について手取り足取り指導を受ける
介助を作業のように行うのはやめよう
「入浴介助からの卒業」をはじめから検討し、それを目標に頑張ることができる利用者の方は、弊社においても同じような介助具は入手できるか、どうすれば自分ではいれるようになるか積極的に聞いてきます。結局は本人の意思の尊重の延長線上に、「入浴介助なしでの自宅での入浴」が実現できるようになっているのです。
一方で、デイサービスで入浴をするようになった方々が抱える課題は、必ずしもADLが問題となっている場合だけではなく、生活上のさまざまなやむを得ない事情があるケースがほとんど。「自分だったらどうか」と考え、「ADLの問題」や「介助具などの課題」を解消して入浴介助を依頼する必要がなくなるのであれば、はじめからそちらを選んで努力していたのではないでしょうか。
デイサービスでの入浴介助の手順や細かな説明などは省いていますが、各事業所にもそうしたマニュアルは当然用意されているはずですので、そちらを参考にしてください。そして、そこで「十分な配慮」についての細かな説明が行き渡っていないようであるならば、声を上げることはしてほしいと思います。入浴介助が作業のようになってしまうことが絶対にないことを切に願います。