こんにちは。『おばあちゃんは、ぼくが介護します。』(株式会社法研)の著者であり、作家やメディア評論家としても活動中の奥村シンゴです。
私は30歳過ぎから、認知症の祖母とがんやうつ病、脳梗塞となった母を計8年間介護してきました。昨年の秋ごろから祖母の体調不良が続き、病院へ付き添ったりお見舞いに行く回数が増えています。そんな祖母は昨年の11月に精神科病院から療養型病院へ転院し、「経鼻経管栄養」で様子を見ています。
介護経験の中の困りごとから、今回は「もの盗られ妄想」について私の体験談を通して対策を提案させていただきます。
ケマアネジャーを窃盗犯と勘違いしてしまう
もの盗られ妄想は、認知症の方が通帳やお金などを介護者が窃盗したと勘違いしてしまう症状です。祖母の認知症は少しずつ進行していったのですが、その過程でお金や通帳を喫茶店や洋服店に忘れたり、家の中に隠すことが増え、筆者が管理することになりました。
祖母のもの盗られ妄想の症状がよく起こったのは、ケアマネージャーをはじめとした、家族以外の第三者が家を訪問したときでした。毎月、ケアマネージャーが介護サービスのプラン作成のために家を訪問し、祖母とコミュニケーションを取ります。その後、祖母はたまに「シンゴくん(筆者の名前)、ちょっときて」と言うのです。筆者が話を促すと、祖母は以下のように言いました。
「あの人がね、帰った後に財布と通帳がなくなっちゃったの。あんた、あの人に何か握られていると違うんかいな」
私は、祖母に今訪問した人はケアマネージャーであり、祖母がどうすれば体が良くなるか、健康でいられるかを考えてくれる人であることを説明します。しかし、それでも祖母はケアマネージャーの意味があまり理解できず疑心暗鬼のままで、「財布や通帳を知らぬ間に隠したんじゃないか」と繰り返し言ったのです。
祖母にとっては、見知らぬ第三者が勝手に家にあがりこんで書類にサインをしたり、印鑑を押すのが不安や混乱を招くときがあるんだと思いました。
楽しい話題を振って妄想から遠ざける
あるとき、祖母はもの盗られ妄想から「財布や通帳を返して」と執拗に迫ってきたときがあります。そのときは正直イライラし、「ばあちゃんが悪いねん」「次、なくしたらもう探さへんからな」と怒鳴ってしまうことがありました。筆者はそれを反省し、「祖母は意地悪がしたくてこういうことをしてるんじゃない。できるだけ共感をしてみよう」と、気持ちを切り替えることにしてみました。
筆者は祖母に「何か面白そうなテレビ番組はないかな?」「(高齢者施設の連絡帳を見ながら)今日は塗り絵を塗ってきたんやな、どんな絵を描いたか見せて」「おやつを買ってあんねん、一緒に食べようか」などと、とにかく些細なことでも楽しい話題を見つけ、半ば強引に話を振ります。
すると祖母は、もの盗られ妄想のことは忘れていき、「確か、りんごがあったわね。剥いてあげるからあんた食べなさい」と上機嫌になったり、「実はシンゴくん、お仕事先(高齢者施設)で絵を描いたよ。少し見せてあげましょう」と、ポジティブになっていったのです。難しいとは思いますが、冷静で笑顔を忘れずに前向きな話をどんどん振っていきましょう。
財布や通帳の隠し場所をメモして把握しておく
もちろん、いくら本人に楽しい話を振ったりしても、財布や通帳のほうが気になるときもありました。「金返せ、通帳よこせ」と怒鳴って渡すと、家の中に財布や通帳を隠してしまうのです。私は財布や通帳を隠す場所や日時について、メモを取ることにしました。すると祖母は、タンスの後ろや昔使っていたカバンの中、本と雑誌の間、布団と毛布の間の4ヵ所に隠すことが多いのがわかったのです。
それ以降、祖母がお金や通帳を隠してもわりと冷静に対処することができました。ただし、本人が席を外しているときには、隠してある場所に戻しましょう。そうすれば、認知症の方の自尊心を傷つけずに済みます。
介護サービスにヘルプを求めよう
デイサービス、ショートステイなど、介護サービスを最大限に利用することをお勧めします。 その際、「実は最近、もの盗られ妄想がひどくて、家族がクタクタで精神的にまいっています。少しでも本人にたくさん動いてエネルギーを使ってもらえるとありがたいです」と、施設の職員にヘルプを求めてください。すると、介護者の事情を汲んで認知症の方の介護サービスにおける運動時間の増やしてくれたり、たくさん話をしてくれる施設もあります。
要介護者のもの盗られ妄想が発生した場合、介護者がレスパイト施設などに家族を預け、休憩できる時間を確保できれば余裕をもった対処も可能です。
「もの盗られ妄想」は、本人や介護者双方にとって大変つらく険しい毎日が続きます。そんな中、目一杯介護サービスを使い、無理やり明るい話題に持っていき、財布や通帳の隠し場所のマーケティングをすれば、少しは負担軽減できるのではないでしょうか。