こんにちは、終活カウンセラー協会認定講師でジャーナリストの小川朗です。
今回は「看取りの実情と終末期の備え」について、お話ししたいと思います。
終末期に家族やパートナーと話し合いの場を設ける
新型コロナの感染で看取り期になってしまうと、家族が最期に立ち会うことができないケースも多く、改めて終末期に関して話し合うことの重要性が叫ばれています。『死ぬときに後悔すること25』(致知出版社刊)という本をご存知でしょうか。本のサブタイトルに書かれていますが、2009年発刊時点ですでに1,000人の死を見届けておられた緩和医療医・大津秀一先生が書いた本です。
この本は私たち終活カウンセラーに多くの教示を与えてくれており、私も最終項(25番目)のお話には、何度読んでも泣いてしまいます。そのお話しでは、弟さんが亡くなる直前にお兄さんに「ありがとう」と伝えるのですが、それはご本人にとっても、先立たれたお兄さんにとっても大きな意味を持つ言葉でした。
もちろんこれは、コロナ禍でのエピソードではありません。けれども、愛する人に最後の思いを直接伝えることができないコロナ禍の現況では、さらに深い意味を感じて読むことができます。死ぬときに後悔しないために、終末期について家族やパートナーと話し合っておくことの重要性を、この本は訴えかけているのです。この本の目次を紹介します。
「死ぬときに後悔すること25」目次
- 健康を大切にしなかったこと
- たばこを止めなかったこと
- 生前の意思を示さなかったこと
- 治療の意味を見失ってしまったこと
- 自分のやりたいことをやらなかったこと
- 夢をかなえられなかったこと
- 悪事に手を染めたこと
- 感情に振り回された一生を過ごしたこと
- 他人に優しくしなかったこと
- 自分が一番と信じて疑わなかったこと
- 遺産をどうするか決めなかったこと
- 自分の葬儀を考えなかったこと
- 故郷に帰らなかったこと
- おいしいものを食べておかなかったこと
- 仕事ばかりで趣味に時間を割かなかったこと
- 行きたい場所に旅行しなかったこと
- 会いたい人に会っておかなかったこと
- 記憶に残る恋愛をしなかったこと
- 結婚をしなかったこと
- 子どもを育てなかったこと
- 子どもを結婚させなかったこと
- 自分の生きた証を残さなかったこと
- 生と死の問題を乗り越えられなかったこと
- 神仏の教えを知らなかったこと
- 愛する人に「ありがとう」と伝えなかったこと
今回はこの本をもう少し掘り下げてみるために、受講者が2万2,000人以上の終活カウンセラー協会・武藤頼胡代表理事に話を聞いてみました。
子どもにとって親の延命治療に対する意思を知らないことは"迷惑"に
筆者:今年の終活カウンセラーが集まったリモート新年会でも、この本を推されていましたね。
武藤:この本には、余命を宣告されて残された時間が明確になってしまった方々による、「もっとこうしておけばよかった」という思いがまとめられています。実は我々も、時間が明確になっていないだけで、余命を生きていることには変わりはない。せっかく先人たちが「こういうことをしなかったら後悔するよ」という生き様を見せてくれているんだったら、我々はそれを見て「後悔しないためにどうしたらいいか」と考えるべきです。
それが「終活」だと思うので、これまで1,600回ほどの講演の中で私はこの本を紹介させていただいているんです。
筆者:そりゃすごい。
武藤:「子どもに迷惑をかけたくない」と皆さんはおっしゃるのですが、ここで言う「子どもへの迷惑」は、親本人の意思を知らないために子どもが判断できないことだって思う。すごく困ることじゃないですか。死には、がんや心臓病などで余命が計算できる場合と、ある日突然意識がなくなり、死んでいく場合がある。人間、死に方だけは選べない。こうしたいから、こうなるわけでは絶対ない。秒読みができる場合と、できない場合があるのです。
延命治療を希望するか、毎年聞いておくことが重要
筆者:ある日突然に…というケースもありますね。
武藤:突然、救急車で運ばれて「あなたのお母さん、助かりませんよ。延命治療しますか、しませんか」と聞かれたときに、大体「30分で決めてください」と言われてしまいます。そのときに子どもが一番困るのが、お母さんの意思を知らないこと。例えば10年前にお母さんが「延命治療しなくていい」と言っていたとしても、それが今の意思であるとは必ずしも限りません。だから毎年、そういうことも聞いておいた方が良いのです。
筆者:そういう場面で、むしろ困るのは本人ではなく家族の方。やはりエンディングノート(万が一に備えて家族や友人に伝えておきたいことや、自分の希望を書いたもの)などに記しておくべきなのでしょうか。
武藤:終末期医療、延命治療と聞くと、「心臓の管をつなぐことが延命治療」だと思っている人が多いと思うのですが、実はそれだけではないんです。水分補給の点滴や胃瘻(いろう)もそうだし、種類もたくさんあります。私はこれを「事前指示書(将来判断能力を失った際、自身に行われる医療行為に対する意向の意思を示すもの)」にしっかり記入して、エンディングノートにはさんでおくようにしています。
筆者:それは大事なことですね。
武藤:終活カウンセラーであるならば、エンディングノートに事前指示書を挟んでおくだけではなくて、家族と話し合って、その思いをしっかり伝えておいて欲しいです。書面だけじゃなくてね。万が一ということがありますから、安心につながります。
筆者:今をより良く生きる、というのが終活のテーマなわけですが、「死ぬときに後悔すること25」には、共通する項目がいくつもありますね。
武藤:私も協会の代表になってから拝読したのですが、終末期医療と終活はアプローチの仕方が違うだけで、考え方やあり方、意図は一緒だと思います。
筆者:そういう意味では私たち終活カウンセラーが終末期医療を考えるうえで、とても参考になる本ということは言えますね。
武藤:「終わりよければすべて良し」「立つ鳥後を濁さず」など、先人たちはいろいろな言葉を遺されていますが、この本に書かれていることも貴重なことばかりですね。
エンディングノートに事前指示書を挟み、家族とその内容について話し合ってみる。それが終活カウンセラーからお勧めする終末期医療へのアプローチです。皆さんもぜひ、トライしてみてください。