皆さんこんにちは。株式会社てづくり介護代表取締役の高木亨です。
今回は「コロナ禍の運動不足が与える悪影響と解決方法」についてお話しします。
コロナ禍の自粛で身体機能が低下、糖尿病患者の増加に
「運動不足は体に悪い」ということを私たちはよく理解しています。関連する用語として、「ロコモティブシンドローム(運動能力が低下している状態)」「フレイル(要介護状態の手前で、身体機能や認知機能などが低下した状態)」「生活不活発病」など新しい言葉や小難しい言葉で理解せずとも、多くの人が持っている共通認識だと思います。
問題なのは「運動不足は体に悪い」ことは知っていても、私たちはそれを面倒と感じたり、億劫と感じてなかなか継続できないこと。そうした「行った方が良いとはわかっているけれど腰が重い」ことに取り組むうえで大事なのは、互いに励まし合ったり、同じような出来事を共有して続けていくことです。
しかし、現在は新型コロナの感染拡大に伴い、そういった活動は自粛ムードとなっています。高齢者が運動を行うなどの交流の場として設けられた「通いの場」は、新型コロナの影響でさまざまな制限や規模の縮小、場合によっては事業所の休業や廃止が進んでいるのが現状です。これにより、高齢者の方が運動する機会が減少しました。よほど積極的で熱心な方でなければ、コロナ禍以前よりも運動機会や社会活動を確保できている高齢者の方はいないでしょう。
現在問題視されているのは運動不足による身体機能の低下です。また、「新型コロナ感染防止による身体活動の減少が、年間1,110万人以上の2型糖尿病による患者増加につながり、170万人以上の死をもたらす可能性がある」と、サンパウロ州立大学(UNESP)の研究者が発表し、世間を驚かせました。
運動不足が精神機能の低下を引き起こす
さて、運動不足が体に悪影響を与えることは理解されていても精神機能の低下は軽んじられているようです。加齢による機能低下や社会的孤立の状態で不安やストレスを抱えると、うつや無気力につながることはある程度理解されているとは思います。しかし、「運動機能と精神状態は直結している」と理解できている方は少ないでしょう。高齢期になると、認知機能の低下や身体機能の低下、視覚・聴覚などの感覚器の低下、病気や障がいなどによる体力の低下が急速に加速します。さらに親しい人々との死別や退職・子どもの独立などで起きる社会的役割の喪失で、意識や思考、意欲などから成る精神機能が低下する可能性もあるのです。
社会生活や人とのつながりが減少してしまうと生活範囲が狭まり、活動する意欲が低下したり、興味や関心を持つことも薄れてしまいます。外出機会が減って閉じこもりがちとなると気持ちも落ち込み、外に出ることが一段と億劫になるでしょう。
運動不足で生じる「疲労感」に注意!
慢性的な疲労感は加齢に伴って増すとお考えの方も多いですが、一概にそうとも言えません。むしろ慢性的な疲労感は、運動不足が原因である場合も少なくないことがわかっています。運動をした後に感じる疲労感は急性の疲労で健全なもの。しかし、特に疲れるような運動をしていないのに蓄積される疲労感は、血流の低下や筋量の低下による部分が大きいとされているのです。
運動不足は直接的に免疫機能や抵抗力、骨密度や新陳代謝等の低下に繋がってしまいます。そうして生じた疲労感は、ますます社会参画や運動意欲を低下させていき、いわゆる「負のスパイラル」から抜け出しにくくなってしまいます。「健全な体」と「健全な心」がバランス良く保たれてはじめて健康であるように、身体機能と精神機能、社会性はそれぞれ強く密接に影響しあっているのです。
心身機能の低下を防ぐためには以下のことが重要ですが、冒頭で述べたように、コロナ禍にあってはこれらも難しい現状があります。
- 積極的に社会参加をする
- 人と交流する
- 生きがいや役割を見出す
心身機能の重度化を防ぐデイサービス利用を検討
このような状況下で注目すべきなのはデイサービスです。デイサービスは心身が弱ってしまった高齢者の方が通う場所、とお考えの方も多いのですが、重度化する前に利用して予防的な使い方をするのが最も効果的。運動する機会や交流する機会、栄養を摂取する機会、入浴する機会などがすべて揃っています。
また、ほとんどのデイサービスではレクやアクティビティを取り入れています。こうした活動は脳機能や身体機能を活性化させ、仲間づくりや一体感の増進、コミュニケーションの促進につながります。高齢者のADL(日常生活の動作)やQOL(生活の質)を上げる効果もあるのです。
新型コロナの感染に怯えるあまり、デイサービスの利用控えや利用休止を検討された方もいらっしゃると思います。しかし、コロナ禍が長期化した今の状況では、利用を控えたことによる心身機能の低下が別の傷病を招いてしまったという話もよく聞きます。中でも認知症による症状や抑うつ状態の悪化は特に目立っていますし、要介護者との関係が悪化してしまったという副作用も明らかです。
もちろん、デイサービスにおける新型コロナの感染予防策はどの事業所においても神経を尖らせています。パーテーションの設置や消毒の徹底、健康チェックや健康管理においても一般的な通いの場よりも体制は充実しているのです。介護保険制度によりせっかく整備が進んだ環境ですので、上手に活用して心身機能の維持向上に役立てていただきたいものです。