皆さんこんにちは。株式会社てづくり介護代表取締役の高木亨です。
今回は「在宅介護の厳しさと介護サービスの重要さ」についてお話しします。
介護疲れ・介護殺人の問題解決は急務
近年、介護疲れによる介護殺人が相次いでいます。介護疲れの解消や介護殺人の防止には、さまざまな機関への積極的な相談やサービスの利用が重要です。
2000年に介護保険制度が導入されたことにより、在宅介護サービスの供給が増加。在宅介護者の負担が軽減されると期待されましたが、介護疲れによる殺人や無理心中の件数は減ることなく、増え続けているのが現状です。この事実は介護殺人に至らずとも、その可能性があった家庭も多く潜在していることを示唆しています。
ショッキングな話題からお話ししていますが、在宅介護では常に頭に入れていただきたい事実です。コロナ禍により、さまざまな在宅サービスも「不要不急」の括りで避けられる傾向がありますが、「殺人に発展しかねない問題が不要不急でない」と考えるのは介護にかかわりのない方だけだと思います。
もちろん高齢者の方にとって、介護施設に通うだけの外出でも新型コロナ感染のリスクは高まります。しかしながら、介護サービスを減らすことで在宅介護の負担が増え、その負担を背負い込んだ家族が疲弊し、殺意を抱きかねないほどの精神的・身体的な疲労を抱えるのは「木を見て森を見ず」の状況にあるように思うのです。
介護保険サービスはその理念により「本人の尊重」が大前提。本人が介護サービスの利用を拒否する以上、介護サービスは提供できませんし、無理矢理利用させることはできません。そのため、「本人が介護サービスを利用すると決めてから相談しよう」「介護サービスを利用していないから事業者に相談できない」と控えたり遠慮する方がおられますが、たとえ介護サービスを利用していなくても相談は何度でもなさって大丈夫です。窮状(きゅうじょう:困り果てた様子)を訴えることをためらわないようになさってください。
また、介護サービスを利用させようとご家族や要介護者が説得するのは逆効果になることが多く避けた方が無難です。窮状は訴えつつ、しかし介護サービス利用の必要性の有無は専門家に介入してもらい、専門の方から本人に説明してもらった方がスムーズに進む場合が多いのです。
「介護が必要」と感じた時点で家族関係は悪化している!?
「介護サービスを利用しての家族関係の再構築については、積極的に行うべき」というのが筆者の考えです。なぜなら、経験上「介護が必要かもしれない」と感じた時点で家族関係は悪化しているケースがほとんど。高齢者介護は建設的な未来を描くことが困難なのです。以前の記事で「精神的・身体的距離をとりましょう」というお話をさせていただきました。その理由としては、冒頭の介護殺人の話や虐待に繋がりかねないからにほかなりません。
介護の期間にかかわらず、高齢者の方に対して衝動的に殺意を抱いてしまうことは少なくありませんし、追い詰められた介護者が心中を考えてしまうケースや、虐待を行ってしまうケースも多いのです。在宅介護サービスは、そうした不幸の連鎖を食いとめる一定の効果が期待できます。もちろん在宅介護サービスでは担えなくなることも見越して、施設サービスも合わせて検討していくことが大切です。
本人が介護サービスを拒んでもあきらめないこと
もし本人が介護サービスを希望しなかったとしても、介護サービスの利用をあきらめないようにしてください。介護サービスの多くは無料体験や見学をすることができます。もちろん、コロナ禍の状況なので断わられてしまうケースもあるでしょうが、事業者と時間を置いて何度となく相談することが重要です。
介護サービスの導入は一度にうまく運ぶことは極めて「まれ」。介護者が「つらい」「苦しい」と感じるたびに介護サービスの事業者に相談してもらって大丈夫です。在宅介護はそれほどまでに「社会的に孤立してしまうことが危険である」ということを肝に銘じましょう。
政府や自治体といった保険者側は介護サービスのレスパイト利用(介護者が介護を一時的に離れることを目的とした介護サービス利用)については否定的です。しかし、実際に介護している家族側からすれば、介護のことを考えずにいられる時間を保てるかどうかは死活問題となります。
利用者の方からしても、「自分には必要ない」と頑なに介護サービスの利用を拒否していた本人が、いざサービスの利用を開始したところ、別人のように利用を楽しまれたり表情が明るくなったりするケースも非常に多いです。最初は「利用したくない」と言う否定的な方も、サービスの終了間際になると「ここに泊まりたい」「ここで過ごしたい」と言う方も少なくありません。
弊社は地域密着型のデイサービスを提供しているのですが、利用者の方の様子をご家族にお伝えしたり、笑顔の映像や写真を見せたりすると「家ではこんな表情をするなんてあり得ない」と言われたこともあります。結果的に利用者の方の状態が安定し、介護者における介護負担の軽減につながることもあるのです。
在宅介護は「介護者が頑張ればどうにかなる」わけではない
介護サービスの活用にはさまざまなハードルを感じる方が多いものです。その理由は心情的な部分や経済的なところ、世間体などさまざまあると思います。しかし、介護サービスを利用せずとも事業者と検討を重ねることは、介護者の苦心や悩みなどを相談・共有化できます。もしデイサービスを利用できれば、自身の健康不安などを軽減することができますし、施設サービスの検討もできるでしょう。
現在は特に「自助・共助・公助」と「できるだけ自分でできることは自分でやる」という風潮が強くなっていますが、家族関係の悪化が冒頭に挙げたような問題に発展してしまっては何のために設けられた制度なのかわからず、本末転倒と言えるでしょう。
在宅介護は「介護者が頑張りさえすればどうにかなる」ということはありません。そのための制度なのですから、ぜひ介護サービスの専門家などに積極的に相談し、活用するようになさってください。