こんにちは。デイサービスで看護師として勤務している、認知症LOVEレンジャーの友井川 愛です。
介護施設で働く看護師の目線で、在宅介護で奮闘するみなさんの介護生活が、少しでも楽になる、そして楽しくなるようなアドバイスをお届けできればと思っています。
プロでも大変な介護を在宅で行うのは本当に大変ですよね。
今回は、ご両親が認知症と診断されたときのご家族の反応についてお伝えします。ケースとして、アルツハイマー型認知症の診断を受けたときの場面で考えてみましょう。診断後の反応はそれぞれのご家族で違うと思いますが、今回は大きく2つのパターンに分けて考えていきます。
認知症検査の受診 対応次第で認知症の進行は食い止められる!
まず一つ目は、前向きに受容できるタイプのご家族の場合です。このタイプのご家族は、普段の生活の中でご両親の言動の変化に気づき、社会的資源も積極的に活用・相談します。
そのため、認知症外来や脳神経外科などの病院受診もスムーズ。結果、早期に検査を受けることで脳の萎縮を早めに確認できます。そこで初めて認知症と判断できますし、その後の治療を早く受けることも可能です。では、ご両親の変化に気づき、診断を受けるまでの一連の場面を、会話で見ていきましょう。
認知症かな?という気づきから診察を受けるまでの流れ
~認知症を前向きに容認できる家族~
登場人物…ミエ(母。アルツハイマー型認知症を発症している)、明子(娘)、医師、看護師、介護保険課の窓口
ミエ:あら、また財布がなくなった。誰か盗んでいったんだわ。明子さーん!
明子:お義母さん、どうされましたか?
ミエ:どうもこうもないわよ。私の財布がないのよ。どこにいったのか知らない?
明子:えっ!またですか?昨日もないって言って、結局はカバンの中にあったじゃないですか?
ミエ:何言ってるの。そんなこと言った記憶なんてないわよ!あなたが盗んだんじゃないの?
明子:まさか!そんなことしませんよ。(お義母さん、最近物忘れがひどくなってるような気がするわ。一度病院に行かなきゃ…。)
~数時間後~
医師:MRI検査の結果、ミエさんの脳に萎縮が確認されました。“アルツハイマー型認知症”ですね。
明子:そうですか…。やっぱり認知症になっていたのね。これからどうしたら良いかしら。できればこれからも、お義母さんには今まで通り住み慣れた家で暮らしてほしいけど…。
看護師:まずは、市役所の介護保険課の窓口に相談してみてはどうでしょう?
明子:わかりました。ありがとうございます。
~市役所の介護保険課へ訪問~
介護保険課の窓口:こんにちは。どうされましたか?
明子:実は義母が認知症と診断されまして…。
介護保険課の窓口:そうですか。現在、介護保険は使われていますか?
明子:いえ。まだ何も…。
介護保険課の窓口:わかりました。介護保険を利用するには要介護認定を受ける必要があるので、まずは申請から始めましょう。認定を受けた後は、ケアマネージャーか地域包括支援センター員にケアプランを作成してもらえば、さまざまな介護支援サービスを受けられるので、ご家族の介護負担は減ると思いますよ。
明子:そうなんですね。良かった…これからどうしたら良いかわからなくて不安だったんです。ホッとしました。
介護保険課の窓口:心配でしたね!でも、大丈夫ですよ。ご家族だけで抱えてしまうと大変ですが、さまざまなサービスを上手く利用することで本人、ご家族のどちらも無理なく、住み慣れた場所で継続して生活ができますから!いつでも相談してくださいね。
明子:ありがとうございます!
ここ最近のミエさんの物忘れに、お嫁さんの明子さんがいち早く気づいたことで早期受診・診断、そして要介護認定まで早く進みましたね。
また、このケースは明子さんが心の中で「もしかしたら認知症かもしれない」と考えていたこともあり、診断後に不安を感じたものの、受容も早くできました。ちなみに、ミエさんはその後デイサービスに通いながら、在宅にて今まで通り生活できています。
認知症かな?という気づきから診察を受けるまでの流れ
~認知症に対して拒否的・隠そうとする家族~
もう一つのパターンは、認知症に対して拒否的・受容できないご家族です。このタイプの場合はまず、ご両親の変化に気づきにくく、または気づいていても知らないふりをしてしまいます。
なぜこのような行動をとるかというと、自分の両親が認知症になるはずがないと思い込んでいたり、家族が認知症になったこと自体が恥ずかしいと感じていたり、「世間に知られたくない!」と、隠そうとしまうからです。そのため、病院受診も遅れますし、診断・治療なども遅れてしまい、認知症症状がかなり進んでしまっていることが多々あります。
登場人物…父(とみお、元公務員)、娘(幸子)、息子(健一)
とみお:幸子さん、昼ご飯はまだかい?
幸子:えっ?さっき食べたじゃないですか?
とみお:いや、食べてないぞ。早く作ってくれ。
幸子:いや…だから、さっき食べましたって言ってるじゃないですか?忘れたんですか?(お義父さん、なんか変ね。ご飯を食べたことを忘れるなんて…。)
~息子の健一が帰宅~
幸子:ねえ、最近お義父さん変なのよ。ご飯を食べたばかりなのに食べてないって。
健一:何言ってるんだ、たまには忘れることもあるだろう。
幸子:毎日なのよ。もしかして認知症になったんじゃないかしら?
健一:親父がボケたっていうのか?冗談じゃない。ふざけるな!
幸子:でも…。
健一:ちょっとの物忘れで親をボケ扱いするな
~しばらくして…~
幸子:お義父さん、なぜ夏なのに長袖の服を何枚も重ねて着てるんですか?
健一:何言ってるんだ?今は冬じゃないか!
幸子:え?やっぱりおかしい…。)
~とみおがいなくなった後~
幸子:お義父さんの様子がやっぱりおかしいのよ。暑いのに冬物の服を着てるし!
健一:まだ言ってるのか?親父はずっと公務員で、俺の立派な親父なんだ!ボケるはずがないだろ?もしボケてたとして、そのことが世間に知られたら笑い者にされるじゃないか?俺は信じないぞ!
このパターンのご家族は、お嫁さんの幸子さんがお義父さんの変化に気づいていましたが、息子の健一さんが認めようとせず、その間にもとみおさんは初期の物忘れから中期の失見当へと症状が進行してしまいました。
結果、とみおさんは病院で診断を受けたときにはすでに後期の“寝たきり”に近い状態になっており、すぐに入院することになりました。
今回お話ししたアルツハイマー型認知症は、予後がよくありません。発病する年齢にもよりますが、長い方は十数年で亡くなり、もっと早い段階に亡くなってしまう方も多くいます。
アルツハイマー型認知症は進行性の病症です。また、潜伏期間が長く、身体は健康なのに脳の神経が失われていくので、深刻な症状が出るようになって初めて周囲が気づくことも少なくありません。そのため、ご家族の変化に気づいたらとにかく早期の受診をお願いしたいのです。
認知症介護は大変… でもやっぱり住み慣れた町が一番!
私は、どのタイプの認知症を発病された方でも、できる限り住み慣れた地域で生活していただきたいと思っています。なぜなら、やっぱり自宅が一番だからです。
誰だって住み慣れた自宅が一番リラックスできるし、何より安心できますよね。特に、認知症の方は環境の変化に敏感ですから、大切な家族と顔なじみのご近所さんに囲まれて、楽しく生活したいはず。
いつも、私は言います。「認知症になることは不幸ではない。むしろ、楽しくハッピーだ!」と。大変なことももちろんありますよ!でもね…。
認知症の方の笑顔は世界一素敵だし、お話は深いし、何よりも優しい!
そして、いつも元気の素と笑いの素をくれるのです。私は、これからも認知症LOVEレンジャーとして活動を続けていきますし、認知症介護で悩んでいるみなさんとも協力したいと願っています。
次回は認知症の病院受診、検査などについてお話ししたいと思います。お楽しみに!