皆さん、こんにちは!デイサービスで看護師として勤務している、認知症LOVEレンジャーの友井川 愛です。いつも私のコラムを読んでいただきありがとうございます。今回は帰宅願望について考えていきたいと思います。
今日のテーマは帰宅願望についてです。まず、帰宅願望とは一言で言うと「家に帰りたい」と訴えることです。この訴えはご自宅にいても病院や施設にいても聞かれます。
ときにはそのまま外に出ていかれる方もおられます。そうなると介護者の方は困ると思いますが、なぜこのような症状が起こるのか?どんな対応をしたら良いのかについてお話ししていきますね。
帰宅願望の原因は何?

まずは医療的見解で考えてみます。認知症には中核症状という脳の器質的な障害によって現れる症状があり、そのなかには記憶障害・見当識障害があります。記憶と言うのは、物事を覚え、そのことを留めて、必要時に引き出すというこの3つの過程を言い、そのいずれかに障害が起こることを記憶障害と呼びます。
見当識障害とは、時間・空間・周囲の人を認識する能力が低下している状態です。記憶の障害が起こると、自分が今いる場所がわからなくなったり、なぜこの場所にいるのかがわからなくなり、不安やストレスを感じて落ち着かなくなります。
また、見当識障害の場合は人の認識能力が低下するので、家族でさえも認識できなくなり知らない人がいると不安を感じて落ち着かなくなります。
環境で考えると、新しい場所や慣れ親しんだ自宅とは違う施設などで過ごすと落ちつかなくなります。
そして、いつも過ごしている場所であっても、いつも決まった席に座ることができず、違う席に座ることになったり、家具の位置が変わっていたり、壁紙の色が変わったりするだけでも、自分の知っていることと違うので不安になります。
もう一つは、寂しさを感じたり、不愉快な出来事があったりなどの体験でも帰宅願望を訴えたりします。すべてに通じることは「現状が安心できない」ということです。不安や孤独、焦りなどのような不安定な気持ちが大きく関わってきます。
私が以前務めていた施設で出会った方は必ず、窓側のテレビがよく見えるいつもの席でないと、たちまち外に出てしまいました。「ここは私の場所よ!そうでしょ?」が口癖で、職員に確認して「そうですよ」と伝えると安心してくれて、椅子に座るのがルーティンのようになっていました。
介護の悩み、夕暮れ症候群について

帰宅願望の中で有名なのは「夕暮れ症候群」ですね。皆さんも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?では、なぜ夕暮れ症候群が起こるのでしょうか。皆さんも夕暮れになってくると、どこか精神的に不安定になることがあるかと思います。少しずつ周りが暗くなってくると、何かよくわからない焦燥感を感じたことはありませんか?施設の場合、送迎の時間になると慌ただしい雰囲気になったりします。
人の出入りで騒がしくなったり、その騒がしさから昔の記憶が蘇り、女性なら「子どもが帰ってくるからご飯の準備をしなきゃ」と言ったり、男性なら「外回りの営業から会社に帰らないといけない」と言われる方がいます。
対応方法
- 本人の気持ちをまず受け止める!
- 帰りたいと言われたら、否定的に「今日は家に帰れません」「ここがあなたの家です」などの声かけを控えてください。こうしたことを言われると、認知症の方はますます不安が増長されてしまいます。その方の気持ちを受け止め、言葉に耳を傾けてみましょう。また、ある程度お話を聞いたら違う話をして気をそらしてみましょう。どうしても外に出たいようなら一緒に散歩してみてください。
- 理由を聞き、不安を取り除いてあげましょう
- 認知症の方にも帰りたい理由があります。なので、その理由を探りましょう。じっくり話を聞き、理由がわかったらその理由に合わせて、大丈夫であることを伝えましょう。例えば、「ガスの元栓を閉め忘れてきたから帰ります」と言われたら「私がきちんと元栓を閉めてきたので大丈夫ですよ」と答えてあげてください。
- 環境づくりが安心をつくる
- 帰宅願望を訴えられる方は、今いる場所の居心地が悪いので不安になり「帰りたい」と言われています。本人が安心できる居心地の良い生活環境を整えていきましょう。その方の定位置をつくり、お馴染みの人が声かけを行い、安心してもらえる雰囲気づくりも大事になってきます。
不安が帰宅願望につながる
一番大切なのは本人の不安を軽くしてあげることだと思います。何を感じて不安が起こり帰宅願望につながるかはそれぞれですので、一概にこの対応をしたら大丈夫ということではありません。
ある方は、本当はお昼寝をしたかったのですが、ほかの方が気になって言えなかったのです。そして「早く家に帰らないと」と言われました。そこで、こっそりお布団を敷き、「実は私、お昼寝がしたいんですけど、一人で寝るのは怖いのでちょっとだけ隣で寝てもらえませんか?」と困った顔で言うと「あら、可哀想に。仕方がないからちょっとだけ隣で寝てあげる」と言われ一緒に仮眠をとられていました。1~2時間経った後、すっきりされた表情で起きてこられ、すごくニコニコされていました。
今回知っていただきたいのは、認知症の方それぞれの性格などを考えて、臨機応変に対応するということです。それでは、次回は「お風呂嫌い」のお話をしたいと思います。