皆さん、こんにちは。認知症支援事業所 笑幸 代表の魚谷幸司です。
今回は「話し相手のサービスを行ったときの体験談」を、2つお話ししたいと思います。
「話し相手になるサービス」が求められる理由
当事業所では介護保険制度で対応できるサービスがなくて困っている方に対して、自費対応のオーダーメイド介護を提供しているのですが、その中で驚かれるサービスがあります。それは「話し相手」をするだけのサービスです。
多くの方が単なる話し相手にお金を払うことに驚かれるのですが、利用される方がいるのは事実。では、話し相手のサービスを利用されている方が特別な人たちなのでしょうか。実際に利用をされている方の話を聞いてみると、そうとも思えません。
私がそのニーズを持っていると考える方は、「一人暮らしをしている方」です。親族や友達がいるうえで、「そうではない第三者に話を聞いて欲しい」「第三者だからこそ話せる」といった理由からサービスを利用されるのです。
半年前にご主人を亡くされたAさん
まずは、81歳のAさんの事例をご紹介します。
Aさんは約半年前にご主人を亡くされており、それから何をするにも気力が湧かず、この不安な気持ちを聞いて欲しいとのことでした。お話を聞くと、ご主人は心の準備をする暇もなく入院してから急に亡くなってしまったようです。
「子どももおらず、夫婦2人で支え合ってきただけに、亡くなって半年経つのに引きずってしまう」と言います。周囲にこんな話を聞いてくれる人もいないようで、ひとしきり話された後の表情は少し違って見えました。その後は、Aさんからのプライベートな質問に答えたことをきっかけにしばらく世間話に花が咲きました。最後には家事をお願いされたため、その対応を終えて家を後にしたのです。
認知症の可能性による不安を話せずにいたBさん
次は88歳のBさんです。
このBさん、実はケアマネージャーの仕事をしていたときに担当していた方で、物事をよく知っていて冗談の通じる楽しい人でした。仕事を辞めてからの付き合いはなかったのですが、最近になって連絡がありBさんの家に向かいました。本来Bさんはきれい好きだったのですが、そのときのBさんの家は以前と明らかに違い、私は驚きを隠せませんでした。
整理整頓されていた部屋は雑然とものが置かれ、床には飼われている猫の糞があちこちでそのままとなっていたのです。Bさんに事情を聞くと、片づけようとは思うけど頭がごちゃごちゃになって何も手がつかないと言っていました。
私はBさんの指示を聞きながら、少しずつ片づけていくことにしました。片づけの途中、Bさんが「それはそのままで良いから話を聞いて欲しい」と言ったので、私は手を止めて話を聞きます。すると、「息子に話をしても相手にしてくれないから」とBさんは話しはじめました。その内容は、認知症の人が最初に抱く感情そのもので、自身でもそれを気にかけているようでした。
私は、「『困っていることがある』と私に電話している時点で大丈夫。電話をかけることができなくなったらそれは心配だ」と笑って返事をし、たわいない話に仕向けていきました。
相手を決めつけずに真っすぐ向き合う
このような話し相手をするときに決めていることがあります。それは相手の方を「こういう人だ」と推測をしても、決めつけて話をしないということです。Bさんの例でいうなら、「Bさんは認知症だろう」と決めつけないということ。決めつけてしまった場合、それに引っ張られて、利用者の方と向き合って話ができないからです。もちろん配慮は必要ですが、話し相手をするうえでは1人の人間として話をしていくことが大切なことだと思います。