こんにちは。特別養護老人ホーム裕和園の髙橋秀明です。
今回は「人生のラストステージを迎えた本人に対して家族はどうすれば良いのか」についてお話をしていきます。
課題のある家族に対して相談援助職がどのように向き合うか
私たち専門職と施設利用者(高齢者)の方の出会いは偶然によるものです。自立した生活を営んできた方々が、加齢や疾患などにより要介護状態になります。そうなると、その家族は慌てて施設を探すことになるわけですが、どこに相談して良いのかもわからない状況です。ネットで調べたり、役所に相談したりし、施設と折り合いがつけば要介護の方を入れる。筆者の経験上、そういう家族が圧倒的に多い印象を受けます。
私たちと高齢者の方は、出会いや介護を通じて時間と場所を共有していきます。そこで少しずつ関係性を深めていき、高齢者の方は自身の人生のラストステージを介護施設に託すわけです。
施設の介護職員は、不安や混乱(課題)に陥っている状態の家族とはじめてのコミュニケーションを行います。このとき、家族は「現状(で困っていること)のみ」に焦点があたっている状態で、非常に視野が狭くなっているわけです。
このような状況の家族に対峙するのが「生活相談員」や「介護支援専門員」といった「相談援助職」です。相談援助職は介護に悩む家族の話をじっくりと聞き、家族の考えを整理してもらうために質問をしたり、さまざまな選択肢を提示していきます。つまり、狭まっている家族の視野を広くするわけです。そうすることで「もう少し自宅で頑張れそうかも」「相談することで道が開けた」と前向きになります。課題のある家族に対して相談援助職がどのように向き合うかが、信用・信頼を築くうえでまず必要なことだと筆者は思うのです。
悲壮感を感じさせないための家族支援
施設を利用しはじめてからも、常日頃から家族とのコミュニケーションは意識して図る必要があります。なぜなら、本人のより良い生活には家族の応援も大事だからです。「施設に親を託したのだからお任せします」というご家族の方もいますが、基本的に施設職員と家族は本人の生活を支えるための車の両輪のような関係。施設でのご本人の様子や体調の変化、支援内容、起こり得るリスクの共有などを意識してコミュニケーションを取りながら、本人の生活を一緒に考えていくことが大切なのです。
専門職は利用者の方が今できていることや理解していることを、可能な限り維持・向上していくことを目指して支援していきます。とはいえ、加齢や老化とともに身体・認知機能が低下していくのが人間。やがて看取り期を迎え、旅立ちの日を迎えます。そのとき、本人を支える家族が強い悲嘆感や後悔を抱かないためにも私たち支援専門職が行うべき「家族支援」というものがあります。
看取り期について早い段階から家族と話そう
施設へ入所される前や入所されて間もなくは、ほとんどの高齢者の方はまだまだ元気な状態です。筆者は施設に入所されるときの面談で、家族に次のような質問をします。
「これからご本人にどんな暮らしを送ってほしいですか」
大体の家族は「安心して健やかに暮らしてほしい」など、あいまいな答えが返ってくるわけですが、筆者は続けて問います。
「ご本人に治療が必要になったときにどこまでの治療を望みますか」
「食べものが食べられなくなったときはチューブを入れますか」
上記のような、これから家族が直面する可能性があるできごとを具体的に問いかけます。大体の家族は戸惑い、答えに窮する感じになるわけですが、筆者はこのとき明確な答えを期待しているわけではありません。「親の老いを家族がどの程度認識しているか」「本人とこれからについて話はしてきたのか」「親の死について考えたことがあるのか」という疑問に対して、どこまで考えているのかの感触をつかむために聞くのです。
これから先、いつかは「こういう問い」に決断しなければならないときがきます。なので、そのときにどうするかを今のうちから本人と話し合い、考えておくことをお勧めしているわけです。
親の生き方を家族が考えるのは最後の親孝行
なぜ筆者がこんなことを勧めるのかと言うと、過去に起きた出来事がきっかけです。かつて、施設に入所しているAさんという方がいました。Aさんは元気に暮らしていたのですが、ある日脳梗塞を発症してご飯が食べられなくなってしまったのです。病院のお医者さんは、栄養補給の方法について家族に選択を迫ります。「胃ろうにしますか」「鼻からチューブを入れますか」「点滴にしますか」と。それぞれのメリット・デメリットと予後予測を説明するのですが、家族はなかなか決断ができません。
食べ方は生き方と直結します。チューブを入れる・入れないは、その人が残された人生をどのように過ごすかにかかわる選択です。そのことについて本人が自己決定できれば家族が悩むことはありませんが、残念ながらAさんは自分の生き方を判断できる状態ではなく、この場合、親の生き方を子どもが決めなければいけません。Aさんの息子さんは筆者に相談をしてきました。
筆者は、「ご家族でよく相談をして決めるしかありませんね」としか返答ができませんでした。紛糾する家族会議。医師からは決断を迫られている状況です。そんなとき、他の家族の方の意見を制して長男が胃ろうを選択。ところが、胃ろうの造設して2日後にAさんはお亡くなりになりました。後日息子さんが筆者のところにあいさつにきてこう言いました。
「これで良かったのか」「胃ろうなんてしなきゃよかった」「もっと早くから考えておけばよかった」「親と生き方について話し合っておけばよかった」」と口から出る言葉の大半が後悔の念。このことをふまえて、筆者は親の死を考えるきっかけとして入所時に、家族に質問を投げかけるのです。
その時点で判断ができない方もいるでしょう。でも筆者は思うのです。「親の生き方を家族や子どもが真剣に真摯に考え、考え抜いて結論を出すということは最後の親孝行」だと。反省はしても後悔はしてもらいたくない、そのために考える時間を家族につくってもらうようにしています。
本人の意向を聞いて心の準備をしておこう
親の死に対して悲嘆感を持ち、「グリーフケア(悲しんでいる人をサポートすること」が必要になるケースの大半は、親の死という事象よりも「死に方がこれで良かったのか」という疑問や「ああしておけばよかった」「こうしておけばよかった」という後悔から生じています。
とはいえ、大切な人の死ということで一時的な哀しみの気持ちを持ったとしても、「これで良かったんだ」「やり切ったし、生ききった」という納得感や心の安寧につながるケースがほとんどです。
しかし、場合によって命や生き方にかかわる判断は、選択した人の心の傷になりかねません。その判断が選択した人の精神を押しつぶす可能性すらあります。そうならないための方法は、あらかじめ本人の意向を聞き、それなりの時間と心の準備が必要ということです。
介護施設に意見を伝えたいなら対面で
今回は「人生のラストステージを迎えた家族に対してどうすれば良いのか」についてお話をさせていただきました。施設には家族の意見を伝えるためのツールとして意見箱が設置されています。意見箱は家族やその関係者などが、施設に対して意見や改善点、苦情などを紙に書いて発信するために設置されていますが、対面や電話などを通じて直接コミュニケーションを図ったほうが効果的です。
不特定多数が利用するショッピングモールなどは意見箱が機能しているケースも見受けられますが、特定の方が利用する施設では直接対面をして意見交換がしやすい環境となっています。その環境を維持するためには、日頃から利用者やその家族が意見を自由に発信でき、仮に発信した場合も安心・安全だという関係性が重要です。